表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TCG的な  作者: 飴とチョコレート
煌城
4/12

4

「俺の勝ち、だな」


焔のフィールドには《烈火竜バルザード・ゼロ》が咆哮していた。

煌城のライフはゼロ──真っ白なカードの光が、スゥッと消えていく。


静寂が訪れる。観客たちがどよめき、審判が勝者を告げるその瞬間──

焔は、戦いよりも気になるものがあった。


(……やっぱ、あの時の“あいつ”と、今の煌城レオは、違う)


だから、言った。


「なぁ……ちょっと、聞きたいことがあるんだ」


「……ふふ。君に勝たれては、断れないね」


煌城は優雅に笑って、マントを軽く翻した。


「場所を変えよう。……少し、気を使わずに話せるところがある」



夕暮れのカフェ。駅から少し外れた、落ち着いた喫茶店。

暖色の照明と、古びた本棚。アイスコーヒーに、カップの音が控えめに響く。


焔は初めて来た場所だったが、煌城は迷いなく奥の席へ進んだ。

“行きつけ”というのは本当らしい。


「ふぅ……ここなら情報漏洩を気にせずに話せるよ。誰も僕の“表”を見に来るような場所じゃないからね」


席についた煌城は、穏やかな笑みを浮かべていたが、どこか──距離を感じさせる。


焔はまっすぐにその目を見る。


「……あの時、お前が使ってたあのデッキ。ギャンブル性のあるやつ。あれ、何だったんだ?」


「……」


煌城の笑みが、すっと消えた。

まるで仮面を脱ぐように、瞳から光が引いていく。


「……まあ、僕に勝った君になら……いいか」


彼はアイスコーヒーの縁に指を添えたまま、淡々と語り出す。


「君が知っている“煌城レオ”──王子様みたいな立ち振る舞いで、いつも堂々としていて、正々堂々とした“王道”のデッキで戦う僕。あれは……僕が“作ったもの”だよ」


「……作った?」


「うん。“キャラメイク”って言えばわかりやすいかな」


淡々と、でもどこか愉しげに。

煌城はまるで、自分という人間を説明するゲームのガイドのように話す。


「この世界では、“デッキは人間性の写し鏡”だ。

 なら、強くなるには、“わかりやすいキャラ”になった方が、受け入れられやすい。……だったら、作ればいい。

 堂々としていて、誰からも愛される、王道の“煌城レオ”をね」


焔は言葉を失った。

まさか、それが“演じたキャラ”だったなんて──


「……いや、勘違いするなよ?」


煌城が、少しだけ表情を和らげた。


「僕はあのキャラ、嫌いじゃない。むしろ、お気に入りだ。

 でも──あれ“だけ”が僕じゃない。そうじゃない、僕もいる」


「たとえば……?」


「君に見せたギャンブルデッキ。

 あれは僕が“運”と“選択”の狭間でバトルすることを楽しむ、もうひとつの側面。

 他にもあるよ。

 策略を重ねる渋い構築デッキ。童話みたいな、お姫様が主役の可愛いデッキ。

 あるいは……呪いのように不気味な、狂気じみた闇のデッキだって」


煌城は目を伏せた。


「……それら全部を使って初めて、“僕”という存在が完成する。

 でも、この世界じゃ、それは“奇異”に見られる。デッキは人格。コロコロ変えるのは“自分がない”って見なされる」


焔は、息を呑んだ。


「だから……王道だけに絞った。作り上げたキャラで、頂点に立った。

 でも、だからこそ──」


言いながら、煌城は氷が溶けかけたグラスを見つめた。


「……少し、つまらないんだよ」


淡々とした声だった。

でも、その言葉の奥に、確かに感じた。

仮面を外した、誰にも言えない“本音”の寂しさ。


「君に見せたデッキの時、僕は……少し、楽しかったんだ。

 誰かに本当の“僕”を、見せられるって」


焔はその言葉に、返すべき言葉をまだ見つけられなかった。


ただ──目の前の煌城が、あの“王子様”ではなく、ひとりの少年に見えた。


(……お前、ずっと……ひとりだったのか)


カップの氷が、ひとつ、溶けて落ちた音がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ