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TCG的な  作者: 飴とチョコレート
煌城
3/12

3

夏の陽射しがビルの隙間を照らしていた。

風がぬるくて、ジュースの氷がすぐに溶ける。


「うーっす……暑っ!カードバトルどころじゃねぇよ……」


焔は商店街のベンチに座って、アイスを齧っていた。

本来なら今日はオフ。週に一度のノンデュエルデイ。

珍しく学校の宿題も終わって、まさかの完全フリー。


──だったのに。


「そこの坊や、いいカード持ってるじゃないか」


油断してた。

いや、むしろ平和ボケしてた。


突然現れた黒ずくめの男たち──通称レリック・ハウンド

カードの“核”を集めてるって噂の、いわゆる悪の組織だ。


「はああっ!?マジで!?アニメの裏番組と間違えてんじゃねぇの!?」


叫ぶ間もなく、彼らはデュエルを仕掛けてきた。

通行人も消えて、空間ごとバトルフィールドに変わる。


「くっそ……こんなとこでやるなよ……!」


焔は逃げながら戦っていた。

1対3という圧倒的不利。しかも地の利もない。


(……あー、もう……これ、マジでヤバいやつじゃねぇ?)


それでも、あきらめる気はなかった。

焔は《烈火竜バルザード》のカードを握りしめながら、細い路地へ飛び込む。


背後から聞こえる、敵のカード発動音。

黒い魔法陣が追いかけてくるように路地を照らしたそのとき──


──静かに、誰かの足音が近づいた。


「……焔くん、こんなところで何をしているのかな?」


一瞬、時間が止まった。


細い路地に差し込んだ光の向こう。

白いシャツに黒の薄羽織を肩にかけ、長身の青年が佇んでいた。


誰よりも優雅で、誰よりも強くて、

そして──誰よりも“整いすぎている”男。


「……煌城、レオ……っ!?」


焔が名を呼ぶと同時に、敵のカードが発動した。

だが──彼は避けなかった。


指をひとつ、鳴らしただけで。


「──《ドグマ・フェイス》発動。運命のコイントスだ」


カラン。と、どこからともなく銀貨が宙を舞う。

その瞬間、魔法陣が霧のようにかき消えた。


焔は目を疑った。


煌城が──騎士団長アルヴィスではなく、

全く見たことのない、ギャンブル系の闇デッキを使っていたからだ。


「……お前、それ……いつの間にそんなデッキ──」


「ふふっ……」


煌城は、いつものような微笑みとは違う笑みを浮かべた。

無邪気で、悪戯めいていて、子供みたいな、だけどどこか妖しい──

そんな声で、言った。


「こいつら相手なら、いいよな……?」


視線を交わした刹那、焔は確かに感じた。

煌城レオが──“煌城レオ”ではない何かに戻っていくのを。


「《逆運の魔導士・ルナリア》、フィールドに顕現。効果発動──サイコロを2つ振るよ」


じゃらじゃらと、闇の中に音が鳴る。


「偶数だったら、敵全体のカードを強制帰還。奇数なら──僕のHP、1になる」


馬鹿げた効果。

誰もが使うのを躊躇う、暴発するギャンブルデッキ。


でも彼は、嬉しそうに笑っていた。

「この感じ、懐かしいな」なんて呟きながら。


焔は、戦いながら呆然としていた。


(……こいつ、楽しそうだ)


王道を捨てた煌城レオ。

彼は今、誰よりも自由に、誰よりも"自分らしく"戦っている。


じゃら。

サイコロは転がり──偶数が、出た。


「あーあ。うまくいっちゃった。つまんないなあ」


と、満足げに肩をすくめる。


まるで、観光客みたいなテンションで悪の組織を撃破した彼は、

そのまま羽織を翻し、振り返らずに路地を去っていく。


焔は、取り残されたように、その背中を見つめていた。


(……お前、何者なんだよ)


それは、もしかすると──ずっと、心のどこかで問いかけていた疑問だったのかもしれない。


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