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TCG的な  作者: 飴とチョコレート
煌城
2/12

2

──勝った。

また、勝ってしまった。


「さすが、レオ様だ!」「微笑みの貴公子に死角なし!」「カードの騎士たちが本物に見えたよ!」

観客の歓声が降り注ぐ。花のような拍手、眩しいライト。

僕──煌城レオは、舞台の中心にいた。


王道の騎士団デッキ《アゼリア王国》の使い手。

その中心カード、《騎士団長アルヴィス》は、常に戦場に優雅に立ち、華麗に勝利を導く。


僕はその“イメージ通り”に、完璧に振る舞う。

誰もが憧れるような、気品と優しさをたたえた“王子様”として。


でも。


(──本当に、これでいいのか?)


胸の奥に沈んでいる、違和感のようなもの。

それは、この世界に来たときからずっと、じわじわと息をしていた。



---


僕は、前の世界でこのカードゲームを「ただの一ファン」として心から愛していた。

戦略の深さ、カードデザイン、そして……多様なデッキスタイルの数々。


あるときは運任せのサイコロデッキで勝ち負けに一喜一憂し、

またあるときはメルヘンな妖精たちに囲まれて心が温かくなった。

ダークファンタジー系の、呪われた少女アリスを主軸にしたデッキで、ゾクゾクしながらプレイしていた夜もあった。


その全てが「楽しい」だった。


──でも、この世界では、そうはいかなかった。


「デッキはその人間の人格を表すもの」

「複数デッキを使うなんて、自分の本質が見えない証」

「芯がないやつは弱い」

そんな風に、世界が決めつけてくる。


僕は、この世界で生きるために、

いちばん“好かれやすい”キャラクターを選んだ。


王道。高貴。優雅。強くて美しい。

それを全部詰め込んだ人格──煌城レオ。


本名ではない。これは、僕が作った“理想の王子様”だ。

カードだけじゃない。話し方も、立ち振る舞いも、服装も──全て、僕が選び、整えた“キャラメイク”だ。


──それが、ウケた。あまりにも、うまく。


気がつけば、誰もが僕を「レオ様」と呼び、憧れの目で見てくる。

騎士たちのように振る舞うほど、周囲は忠誠を誓ってくれる。


でも。


(……つまらないな)


勝つたびに、虚しさが背中を撫でる。


本当は今だって、あのギャンブルデッキを回したくてうずうずしてる。

1ターン目から運ゲーに突っ込んで、爆死するか、ありえない大逆転か、どっちかに転がしたくて仕方ない。


可愛いフェアリーデッキで、花びらが舞うような戦場にしたい日もある。

《アリス》を出して、対戦相手のフィールドを不気味に支配する夜も欲しい。


でも──それをした瞬間、「キャラがブレた」と言われる。


僕は今や、トッププレイヤー。

王子様の仮面を外せば、崩れてしまうものがある。


だから──今日も演じる。

笑って、勝って、王道のデッキを回す。


(……ただの、偶像だ)



---


けれど。


今日、対戦した少年──焔 真の目が、気になった。

彼だけが、僕の笑顔を真正面から受け止めて、眉をひそめた。


(……バレた、か?)


怖い、というより、ちょっとだけ嬉しかった。

誰かに気づかれるのを、きっと、心のどこかで望んでいたんだ。


(焔くん。君だけは、僕の仮面の裏を見つけてくれるかい?)


願ってしまった瞬間、自分がまたずるくなった気がした。


でも、そのくらいには──

この王道だけの舞台は、少し寂しいんだよ。


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