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──勝った。
また、勝ってしまった。
「さすが、レオ様だ!」「微笑みの貴公子に死角なし!」「カードの騎士たちが本物に見えたよ!」
観客の歓声が降り注ぐ。花のような拍手、眩しいライト。
僕──煌城レオは、舞台の中心にいた。
王道の騎士団デッキ《アゼリア王国》の使い手。
その中心カード、《騎士団長アルヴィス》は、常に戦場に優雅に立ち、華麗に勝利を導く。
僕はその“イメージ通り”に、完璧に振る舞う。
誰もが憧れるような、気品と優しさをたたえた“王子様”として。
でも。
(──本当に、これでいいのか?)
胸の奥に沈んでいる、違和感のようなもの。
それは、この世界に来たときからずっと、じわじわと息をしていた。
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僕は、前の世界でこのカードゲームを「ただの一ファン」として心から愛していた。
戦略の深さ、カードデザイン、そして……多様なデッキスタイルの数々。
あるときは運任せのサイコロデッキで勝ち負けに一喜一憂し、
またあるときはメルヘンな妖精たちに囲まれて心が温かくなった。
ダークファンタジー系の、呪われた少女を主軸にしたデッキで、ゾクゾクしながらプレイしていた夜もあった。
その全てが「楽しい」だった。
──でも、この世界では、そうはいかなかった。
「デッキはその人間の人格を表すもの」
「複数デッキを使うなんて、自分の本質が見えない証」
「芯がないやつは弱い」
そんな風に、世界が決めつけてくる。
僕は、この世界で生きるために、
いちばん“好かれやすい”キャラクターを選んだ。
王道。高貴。優雅。強くて美しい。
それを全部詰め込んだ人格──煌城レオ。
本名ではない。これは、僕が作った“理想の王子様”だ。
カードだけじゃない。話し方も、立ち振る舞いも、服装も──全て、僕が選び、整えた“キャラメイク”だ。
──それが、ウケた。あまりにも、うまく。
気がつけば、誰もが僕を「レオ様」と呼び、憧れの目で見てくる。
騎士たちのように振る舞うほど、周囲は忠誠を誓ってくれる。
でも。
(……つまらないな)
勝つたびに、虚しさが背中を撫でる。
本当は今だって、あのギャンブルデッキを回したくてうずうずしてる。
1ターン目から運ゲーに突っ込んで、爆死するか、ありえない大逆転か、どっちかに転がしたくて仕方ない。
可愛いフェアリーデッキで、花びらが舞うような戦場にしたい日もある。
《アリス》を出して、対戦相手のフィールドを不気味に支配する夜も欲しい。
でも──それをした瞬間、「キャラがブレた」と言われる。
僕は今や、トッププレイヤー。
王子様の仮面を外せば、崩れてしまうものがある。
だから──今日も演じる。
笑って、勝って、王道のデッキを回す。
(……ただの、偶像だ)
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けれど。
今日、対戦した少年──焔 真の目が、気になった。
彼だけが、僕の笑顔を真正面から受け止めて、眉をひそめた。
(……バレた、か?)
怖い、というより、ちょっとだけ嬉しかった。
誰かに気づかれるのを、きっと、心のどこかで望んでいたんだ。
(焔くん。君だけは、僕の仮面の裏を見つけてくれるかい?)
願ってしまった瞬間、自分がまたずるくなった気がした。
でも、そのくらいには──
この王道だけの舞台は、少し寂しいんだよ。