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熱気に包まれたドームスタジアム。
観客の声が、雷のように響き渡る。
今、フィールドの中心に立つのは、2人のファイター。
ひとりは、主人公──焔 真。
炎のエース《ヴォルグレイザー》をメインに据えた、直球勝負なデッキを操る、まっすぐな性格の少年だ。
そして、もうひとり。
その対戦相手は、
「微笑みの貴公子」こと、《アゼリア王国の騎士団長 アルヴィス》を主軸に据えた、まるで絵本から出てきたような男、
煌城レオ(こうじょう れお)。
彼は、王子のように優雅に立ち、礼儀正しく右手を差し出した。
「よろしくお願いします、真くん。ボクとのデュエル、楽しんでくれると嬉しいな」
──その笑顔が、まるで花が咲いたみたいだった。
「……あ、ああ! こっちこそ、よろしく!」
真は思わずたじろいだ。
(……なんだ、この感じ)
どこか、胸がざわつく。
それが何かは、まだ分からない。
試合が始まる。
「《アゼリア王国の舞踏会》を発動。
フィールドに《氷の騎士エリオット》と《薔薇の剣士ライナス》を同時召喚──!」
観客席がざわめいた。美麗なビジュアル、華麗な動き。
レオのフィールドは、まるで舞踏会のような演出で彩られていた。
しかも、ただ美しいだけじゃない。しっかりと盤面を支配し、隙を与えない構築力。
「うわっ……強い。けど、オレも負けてらんねぇ!」
真もすぐに《紅蓮の爆竜ヴォルグレイザー》を召喚し、激突する。
火と氷。爆炎と薔薇。
デッキの個性がぶつかり合う。
──ここまでは、ただのハイレベルな試合だった。
だが、試合の後半。
真は、レオの“ある違和感”に気づく。
(……あの人のカード、強い。美しい。戦術も完璧だ。
でも──なんで、そこに“何も”感じないんだ?)
レオの表情は終始笑顔。
戦況が傾こうと、カードを失おうと、微笑を崩さない。
だが──そこには「感情」がなかった。
(熱くもない、悔しがりもしない……それって、本気で戦ってるのか?)
そして、あるターン。
レオは「場をコントロールしつつ、決して真のキーカードを破壊しない」ように立ち回った。
(……わざと、か?)
一瞬、レオと目が合った。
ニコ、と微笑むレオ。
だがその瞳は、真っ直ぐな光ではなかった。
深い霧の奥から、こちらを見ているような、冷たさをはらんでいた。
(──怖い)
真は、思わず喉を鳴らした。
目の前の「王子様」が、どこかで“違うもの”に見えた。
(……なんなんだよ……その笑顔……!)
カードに映る《アゼリア王国の騎士たち》も、よく見るとどこか「無表情」だった。
絢爛な見た目とは裏腹に、その構図や演出には、「冷たさ」が混じっていた。
「真くん、どうしたの? 手が止まっているよ?」
「っ、いや……なんでもねぇよ!! オレのターン──!」
鼓動が早まる。
対戦は続く。
でも真の中には確かに、あの“違和感”が残り続けていた。
それは、「世界が見ている煌めく笑顔」と、
「自分だけが感じた冷たい光」の、決定的な差だった。
(この人、いったい──何を考えてるんだ?)
戦いはクライマックスへ向かう。
けれど、真の脳裏からは、あの違和感がずっと消えなかった。
まるで、光の裏に潜む影を見てしまったかのように。