第4話:校庭の匂いと恋の予感
月曜日。
花咲高校の校庭では体育祭の準備が進められていた。
春の陽光が地面を温め、土の素朴な香りが立ち上る中、生徒たちがテントを張ったり、道具を運んだりしていた。
悠斗はクラスメイトたちと汗を流しながら作業に励んでいたが、風に乗って妙な匂いが漂ってきた。
汗と土の匂いに混じって、甘く焦げたような臭いが鼻をくすぐる。
悠斗は作業の手を止め、鼻を動かした。
「これは…砂糖が焦げた匂い。それに微かな煙の香りと、甘いバターのニュアンス。誰かが校庭で何か燃やしてる」
周囲を見回すと、校庭の隅で小さな煙が上がっているのが見えた。
急いで駆けつけると、そこには1年生の女子生徒、鈴木葵が慌てて火を消そうとしていた。
彼女の長い髪からは、甘いキャラメルのような香りが漂い、汗ばんだ額が春の陽光に輝いていた。
「ごめんなさい! お菓子作りしてたら火が…!」
葵が涙目で謝る中、彼女が持っていたバッグが倒れ、中から手作りクッキーが散らばった。
少し離れた所に手持ちのガス缶バナーが転がっていた。
どうやら仕上げに炙り作業をしていたようだった。
それにめを向けた瞬間、風が吹き、葵のスカートがふわりと舞い上がる。
白い太ももが一瞬だけ露わになり、悠斗は慌てて目を逸らしつつも、その光景が脳裏に焼き付いてしまった。
彼女の汗は、キャラメルの甘さに微かな塩気を加え、どこか温かみのある匂いを放っていた。
火はすぐに消され、事なきを得たが、葵はしょんぼりとしていた。
「せっかくみんなにあげるつもりだったのに…」
悠斗は散らばったクッキーを拾い、匂いを嗅いで言った。
「焦げてるけど、甘いバターの香りが残ってる。汗と混ざった君の匂いも、優しい感じがする。まだ食べられるよ」
葵の顔がパッと明るくなり、
「ほんと!? じゃあ佐藤くんにあげる!」
とクッキーを差し出してきた。
その笑顔と、彼女の汗ばんだ手から漂うキャラメルの香りに、悠斗の胸が少し温かくなった。
放課後、花梨がその話を聞いて少し拗ねたように言った。
夕陽が校庭を染め、彼女のショートカットが風に揺れる。
「悠斗ってば、また女の子にモテてる。私の匂いよりクッキーの方がいいの?」
「そんなことないよ。花梨の匂いは…太陽みたいな明るさで、柑橘と汗が混ざって特別だよ」
悠斗の言葉に、花梨は照れ笑いを浮かべた。
その瞬間、彼女が持っていた水筒がこぼれ、制服が濡れて透けるハプニング。
薄いシャツ越しに見える柔らかなラインに、悠斗は慌てて目を逸らし、心の中で叫んだ。
(青春のドキドキが止まらない…!)
校庭の事件は解決しつつも、葵や花梨との間に恋の予感が芽生え始めていた。