表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/32

第3話:図書室の怪香と隠された想い

 週末が近づいた金曜日。花咲高校の図書室は静寂に包まれ、春の陽光が窓から差し込んでいた。


 埃っぽい本棚の間を抜ける風が、古い紙の匂いを運び、悠斗はその香りに身を委ねていた。


 昼休み、彼はいつものように窓際の席で本を開き、鼻を軽く動かしながら周囲の空気を味わっていた。


 図書室特有の紙とインクの乾いた香りに混じって、どこか甘いバニラのような匂いが漂ってくる。


 それは、図書委員の林美月の存在だった。


 彼女のショートボブの髪が揺れるたび、バニラと温かい木の香りがふわりと広がり、悠斗の鼻を心地よく刺激した。


 美月は静かな性格で、いつも穏やかな笑顔を浮かべているが、その日は様子が違った。


 彼女が慌てた様子で悠斗の席に駆け寄ってきたのだ。


「佐藤くん、助けて! 図書室の奥から変な匂いがしてて…生徒たちが気持ち悪いって出てっちゃったの!」


 美月の声は小さく震え、彼女の額には緊張の汗が浮かんでいた。


 その汗は、バニラの甘さに微かな塩気を加え、どこか切実なニュアンスを帯びていた。


 悠斗は本を閉じ、立ち上がった。


「分かった。僕で見てくるよ。匂いで何か分かるかもしれない」


 美月が


「ありがとう!」


 と目を輝かせる一方、彼女の汗ばんだ手が一瞬だけ悠斗の腕に触れた。


 その温もりと、近くで感じるバニラの濃密な香りに、悠斗の心が少し乱れた。


 図書室の奥へと進むと、確かに異様な匂いが漂っていた。


 古い紙の乾いた香りに混じって、酸っぱく湿った臭いが鼻を刺す。


 さらに、微かに甘い花の香りが漂い、奇妙なコントラストを生み出していた。


 悠斗は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「これは…酢酸の酸っぱい匂い。それに、カビの湿った臭いと、甘い花の香りが混ざってる。誰かが本の間に何か隠してる」


 美月が


「え、隠してる?」


 と首を傾げる中、悠斗は本棚の奥を調べ始めた。


 埃っぽい棚の間を進むと、古い百科事典の間に小さなビニール袋が挟まっているのが見つかった。


 中には、腐りかけたリンゴと手紙が入っていた。


 リンゴからは発酵した甘酸っぱい匂いが漂い、手紙には「図書室を汚すな」と殴り書きがされていた。どうやら誰かの嫌がらせらしい。


「これ、犯人探さないと…」


 美月が呟いた瞬間、彼女が本棚に手を伸ばしてバランスを崩し、悠斗に倒れ込んだ。柔らかな胸が悠斗の腕に当たり、バニラと汗が混ざった甘い香りが一気に広がる。


 彼女の体温が制服越しに伝わり、悠斗は顔を赤くして「うわっ!」と声を上げた。


「ご、ごめんなさい!」


 美月が慌てて離れるが、彼女の顔も真っ赤。


 汗ばんだ首筋から漂うバニラの匂いが、悠斗の鼻に残り続けた。


 ラッキースケベの瞬間が、図書室の静寂を一気に破った。


 放課後、花梨と彩花も加わり、4人で犯人捜しが始まった。


 悠斗は手紙に残る微かな香水の匂いを頼りに、嗅覚をフル回転させた。甘い花の香りは、どこか人工的で濃厚なものだった。


「この香水、3年生の女子がよく使ってるやつだ。汗と混ざると、少し重くなる」


 その推理に、花梨が


「すごいね!」


 と目を輝かせ、彩花が


「探偵みたい!」


 と笑った。


 結局、3年生の女子生徒が犯人と判明。


 彼女は図書室のルールを守らない生徒に腹を立て、嫌がらせをしていたのだ。


 事件解決後、美月が恥ずかしそうに悠斗に近づいてきた。


 夕陽が図書室をオレンジ色に染め、彼女の髪に柔らかな光を反射させる。


「佐藤くんってほんとすごいね。私、匂いってあんまり分からないけど…私の匂いってどう?」


 悠斗は少し考えて答えた。


「美月さんは…バニラと、少し温かい木の香り。汗が混ざると、柔らかくて落ち着く匂いになるよ」


 美月は顔を赤らめ、花梨が


「また女の子に優しいこと言ってる!」


 とからかう。


 その瞬間、花梨が持っていた本が滑り落ち、拾おうとした拍子にスカートがめくれ、白い太ももがチラリと見えた。


 悠斗は慌てて目を逸らしつつ、図書室が笑い声に包まれた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ