第2話:体育倉庫の秘密と汗の香り
新学期が始まって1週間が経ったある日、花咲高校の体育の授業が騒がしくなった。
校庭での準備運動を終え、体育倉庫に道具を取りに行った女生徒たちが、慌てて戻ってきたのだ。
春の陽光が校庭を照らし、汗ばんだ生徒たちの笑い声が響く中、異変が起きた。
「なんか変な臭いがする! カビ臭いっていうか…汗臭いっていうか…気持ち悪いよ!」
クラスメイトの藤井彩花が鼻を押さえながら訴えた。
彼女の柔らかなロングヘアからはフローラル系の香水が漂い、悠斗の鼻に心地よく響く。
彩花の華奢な体から放たれるその香りは、汗と混ざって微かに甘酸っぱいニュアンスを帯びていた。
彼女の額には汗が光り、体育の授業で少し火照った頬がピンク色に染まり桜の淡い香りが漂っていた。
彼女の汗は、運動後の熱を帯びた肌から放たれ、フローラルな香水と混ざり合って、まるで春の花畑を思わせる柔らかな匂いを醸し出していた。
悠斗は鼻を軽く動かし、彼女の言葉に反応した。
「分かった。僕が見てくるよ。匂いで何か分かるかもしれない」
体育教師に許可をもらい、悠斗は体育倉庫へと向かった。
後ろから花梨と彩花が「危なくないかな?」と心配そうに付いてくる。
校庭の土の香りと汗ばんだ生徒たちの匂いが混ざり合う中、倉庫へと続く小道を進んだ。
倉庫の扉を開けた瞬間、強烈な匂いが悠斗を襲った。
埃っぽい空気に混じって、汗の濃厚な臭いと、どこか動物的な脂臭が漂っている。
悠斗は目を細め、深く息を吸い込んだ。埃は古びたマットや跳び箱に積もり、湿気を帯びた匂いを放っていた。
汗の臭いは人間のものではなく、もっと野性的で濃密なものだった。
「これは…汗と埃の匂いがベース。そこに、動物の脂みたいな臭いと、微かに甘い腐臭が混ざってる。人間の匂いじゃない何かがある」
花梨が
「え、動物!?」
と驚き、彩花が
「気持ち悪いよ…」
と顔をしかめる中、悠斗は倉庫の奥へと進んだ。
古いマットや跳び箱が積まれた薄暗い空間で、彼の鼻はさらに細かく匂いを嗅ぎ分ける。
脂臭は動物の毛や皮膚から放たれるような、濃厚で生々しいものだった。
甘い腐臭は、どこか果実が発酵したようなニュアンスを帯びていた。
奥に進むと、古いマットの裏に隠された小さな木箱が見つかった。
中を覗くと、驚くことに小さなハムスターが一匹、丸まって震えていた。
毛並みからは脂っぽい匂いが漂い、箱の底には腐りかけたリンゴの欠片が転がっていた。
誰かがこっそり飼っていたらしい。
悠斗が箱を持ち上げた瞬間、倉庫の扉が強風でバタンと閉まり、真っ暗になった。
「きゃっ! 何!?」
彩花が驚いてよろめき、悠斗にしがみついてきた。
彼女の柔らかな体温と、フローラル系の香水が汗と混ざった甘い香りが一気に悠斗を包み込む。
胸に押し当たる感触と、彼女の息づかいが耳元で聞こえ、悠斗は頭がクラクラした。
「だ、大丈夫だよ! すぐ開けるから!」
慌てて扉を開けると、そこには花梨が呆れた顔で立っていた。
「悠斗ってば、また女の子に絡まれてる…。鼻だけじゃなくて運もいいね」
その言葉に彩花が「違うよー!」と顔を赤らめ、倉庫の中は一気に笑い声に包まれた。
夕陽が倉庫の隙間から差し込み、ハムスターの毛並みをオレンジ色に染めた。
ハムスターの飼い主はすぐに判明した。1年生の男子生徒が、親に内緒で飼っていたペットを学校に持ち込んでいたのだ。
事件は解決し、放課後、彩花が恥ずかしそうに悠斗に近づいてきた。
校庭の桜が風に舞い、彼女の髪に花びらが絡まる。
「さっきはごめんね…びっくりして変なことしちゃって」
「いや、大丈夫だよ。彩花の香水、近くで嗅ぐと甘くて華やかだね。汗と混ざると、もっと柔らかくなる」
悠斗の言葉に、彩花は顔を赤くして笑った。
その時、彼女が持っていた水筒の蓋が緩んでいて、水がこぼれ、制服が濡れてしまう。
薄いシャツ越しに透ける下着のラインに、悠斗は慌てて目を逸らし、心の中で呟いた。
(こんな青春、毎日でもいいかもしれない…!)
体育倉庫の事件は解決し、彩花との距離が少し縮まった気がした。