本好きの秘密
図書館で司書をしている僕には密かな楽しみがある。
それは週に三回ほどやって来る彼女の存在だった。
「こんにちは」
彼女が微笑んで挨拶をしてきた。
まだ少女と呼べるほどの幼い顔。
いや事実、彼女はまだ中学生になったばかりだと聞いた。
ただ、それでもその顔つきはまるで酸いも甘いも嚙み分けた賢者を思い起こさせるような品性をまとっている。
故に彼女を見るたびに思ってしまうのだ。
まるで少女のように幼い、と。
「今日はこの本を借りるのかい?」
僕が問いかけると彼女は頷く。
カウンターに置かれた本はいずれもが分厚い。
きっと、歳不相応の印象は文字と言葉で織りなされた知識によるものなのだろうと僕は思う。
「難しい本ばかりだ」
「この厚みが好きなの」
僅かな会話をして僕は図書館カードに本のタイトルを書きこむ。
「全く頭が下がるよ。君の勤勉さには」
すると少女は気恥ずかしそうに照れ笑いを一つして言った。
「また来ますね」
「あぁ、待っているよ」
家に帰って私は借りてきた本を枕のないベッドの上に置く。
私には密かな楽しみがある。
「今度はどうかなぁ」
本を重ねて即席の枕をつくり、そしてその上に頭を乗せる。
寝るのに丁度良い高さの枕を探す。
それが私の密かな楽しみ。
とっても罰当たりなもの。
それが、私の楽しみ。
だって、こうすれば夢の中でも彼に会えるから。