序章:追放されし魔術師
「お前には失望した……」
父の冷たい声が、主人公リオの心をえぐった。目の前に並べられた豪奢なテーブル。家族は皆、立派な魔法を誇っていた。炎を操る兄、雷を召喚する妹、そして、風を自由にあやつる父。だが、リオは違った。
「雑魚敵殲滅魔法だと? そんな役立たずの魔法で、我が家の名を汚すつもりか!」
リオは黙って拳を握りしめた。何度も何度も試した。しかし、与えられたのはほんの小さな雑魚敵しか倒せない魔法だった。火や雷のように派手な力はない。敵を倒すにしても、それはあくまで「大量の弱い敵」に対してだけ効果的で、家族が誇る一対一の戦いで役に立つような魔法ではなかった。
「今日限りでこの家を出て行け。我が家にそんな無能は必要ない」
その一言で、リオの人生は決まった。
リオは小さな荷物を肩に背負い、重く冷たい扉を静かに閉めた。夜風が頬を撫で、満月が高く輝いている。街灯に照らされた石畳の道を歩きながら、リオは胸の奥に湧き上がる怒りと悲しみを押し殺した。
「こんなところ、出て行ったって何も変わらない。俺は……弱いんだ」
足元で乾いた砂利が音を立てる。数時間前までは、家族の一員だった。だが今は、実家の名も、温かい食卓も、すべて失った。
「でも……」
リオは立ち止まり、空を見上げた。彼の中で、わずかな希望の火がくすぶっていた。確かに今は弱い。だが、この魔法には何か秘密があるはずだと、どこかで信じていた。
「最弱だって言われたけど……俺は、この魔法で何かを成し遂げてみせる」
それが何なのかはまだわからなかったが、リオは決して諦めないと心に決めた。