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ピースケの呪い

 マーメイルがピースケと出会ってから、まだ半日にも満たない時間しか経ってない。

 だが、ピースケはまた怒っていた。

「どうしてわざわざ面倒くさい場所を通るんだよっ」

「だって、糸は最短距離でつながってるんだもん。そのままたどったら、こういう場所に出ちゃうのよ」

 ケンカをする彼らの前には、金の毛並みも艶やかな九尾のキツネがいた。それも、マーメイルより大きな身体をしている。それが……五匹。

 九尾と言うからには、尻尾が九本。身体の後ろに看板でも背負っているのかと言いたくなるくらい、見事に広げられて。そのせいで、余計に身体が大きく見える。

 ピースケが怒る理由は、テリトリーを侵害された、と感じたそのキツネ達が現れたからだ。テリトリーを迂回(うかい)するルートを通ればこういう事態が回避されるのに、それをしようとしない魔女に対してである。

 言ってから「奥まで来たことがないんだったな」と思い出す。森の地形など、頭に入っていないだろうから、ひたすら直進するしかないのだ。崖や大河などの進行を妨害する何かが目の前に現れない限り、別の道から行こう、とはならない。

 そう考えると、糸の存在も微妙に厄介である。

「今は蜘蛛の巣に捕まってないんだから、お前も少しは何とかしろよ」

「無理」

「簡潔な答えだな」

 マーメイルに期待なんて、ピースケはこれっぽっちもしていない。だが、即答されると、それはそれで腹が立つ。少しはためらうなり、戸惑うなりしろ、と言いたい。

「だって、あたしは攻撃魔法の練習なんてしてないもん」

「自慢するなっ」

 たとえ入口付近でも、こんな森へ入るのだから多少は使えるようにしよう、と思わないのだろうか。よく今まで無事だったものだ、と感心する。

「誰にでも、役割ってものがあるのよ。あたしは、あたしにしか見えない糸をたどること。ピースケは、こういう障害物の除去ね」

「お前の方が、圧倒的に楽そうだぞ」

 目の前のキツネもそうだが、この先に障害物がどれだけ待っているのだろう。

 考えると、ピースケは気分が重くなる。絶対、頼む相手を間違えた。

「失せ物探しの術だって、立派な魔法よ。ピースケは強いんだから、何とかなるわ」

「丸投げした奴に言われたくない」

 そんな言い合いをしている間にも、キツネは彼らを囲み、姿勢を低くしてじりじりとこちらへ迫って来る。

 それを見ていると、ピースケはいらいらしてきた。

「お前達に用はない。散れっ」

 衝撃波がキツネに向かう。目には見えない力で、キツネの身体は吹っ飛ばされた。テリトリーに侵入されたとは言え、相手が悪かったのだ。

「すご……あんなに大きなキツネを一度に飛ばすなんて」

 マーメイルなら、一匹だってまともに相手をするのは無理だ。九尾のキツネが魔女を喰うかは知らないが、少なくとも大ケガはさせられている。

「呆けてないで、さっさと行くぞ。また来たら厄介だ」

「キツネだから、確か幻術を見せたりするのよね」

「わかってるなら、走れっ」

 子犬に怒鳴られ、マーメイルは走った。ピースケに「糸はどっちだ」と聞かれ、彼女の答えを聞いて走る子犬。その後を、マーメイルは必死に追いかける。

 運動神経は悪いと思わないが、犬の後を追うのはかなりきつい。しかし、置いて行かれると自分の命に関わるので、マーメイルも必死だ。

「も……ムリ……」

 マーメイルの足が止まった。木の根や大小の石があったりと、平らな道ではないので身体に余計な負担がかかる。激しい呼吸に、心臓まで吐いたらどうしよう、とありえない心配をしてしまった。

 一方、ピースケは軽く息を切らせているだけ。何だかずるい。

「あーあ、ピースケが子犬じゃなく、成犬の黒妖犬(ブラックドッグ)だったらよかったのに」

 少し呼吸が落ち着いてくると、マーメイルが不満そうにつぶやいた。

「どうして?」

「乗せて走ってもらえそうだもん」

 成犬ならさっきのように囲まれない、なんて言葉が出るのかと思えば、楽をしたいがための希望だった。

 腹が立つと同時に、ピースケはマーメイルの考え方にあきれる。

「横着なことを考える奴だな。俺が成犬でも、乗せるのはお断りだ」

「少しくらい、いいじゃないの」

 黒妖犬は名前こそ犬だが、成犬になると子牛程にも大きくなる。マーメイルが乗ったくらいなら、走るのも支障はないはず。

 マーメイルが追い付くのをピースケが待つより、彼が乗せてくれた方が移動も速くなりそうな気がするのだが。

「乗りたいなら、本物の黒妖犬を捕まえて乗るんだな」

「そんなの、捕まる訳ないじゃない。乗ったって振り落とされそうだし。そもそもプライドの高い魔犬が、あたしを乗せてくれるとは思えないもん」

「俺ならいいのか」

「えーと……」

 ピースケもプライドは十分に高そうだ。

「ほら、あたし達の目的は、少しでも早くブローチを見付け出すことでしょ。一緒に早く移動できるのって、お互いにとっていいと思うんだけど」

「早く取り戻したいとは思うが、そこまで迅速さを求めていない。今走ったのは、あのキツネ達のテリトリーから離れるためだ」

「それはそうだけど……ほら、やっぱり早く着くに越したことはないでしょ。……何となく変な気がする」

「何が」

 ふいに話題が変わり、ピースケは首を傾げた。

 敵の気配がどうの、というのであれば、ピースケも気付かないはずはないが、この周辺に現在おかしな気配はない。

「ピースケの呪いなんだけど」

「俺の……今更何だ」

 呪いに変とか、変じゃない、なんてあるのだろか。

 そんなことを言うマーメイルの方が変だ、とピースケは思う。

「呪いって、だいたい相手を不幸にしてやろうって思ってかける訳でしょ。もしくは死んでしまえ、みたいな感じで」

「まぁ……そうだな」

「それなのに、ピースケのかけられた呪いって中途半端」

 自分で言いながら、マーメイルは首を傾げる。

「中途半端って、どういう意味だ」

「黒妖犬の子犬って、一見かわいいけど基本的にどーもーでしょ。弱い存在にしたいなら、他にも色々あるのに。ピースケはブローチに魔力を封じられたって言うけど、その割にさっきみたいなすごい力がまだあるじゃない。呪いをかけた相手って、何がしたかったのかしら。この状態だと、ちょっと困らせてやりたいだけ、みたいな感じ」

 本当にどうかしてやりたいと思うなら、黒妖犬ではなく普通の犬の方がピースケを(おとしい)れることができる。さらに「完全に」魔力を抜いて放り出せば、自分が手をくださなくてもピースケを獲物と認識した誰かによって死を与えられる。

 マーメイルの存在は予定外だったかも知れないが、それは横に置いておくとして。

 魔女の力を借りなくても、戦う力を持つピースケならそのうち封じられた自分の魔力を取り戻し、元に戻れるだろう。

 そうなれば、ピースケが反撃に来るかも知れないし、今度は呪いをかけた相手が不利になりかねない。呪いを返されることだってある。今でも強いピースケが元に戻れば、きっと無事では済まないだろう。

 そう考えていくと、ピースケにかけられた呪いは中途半端なのだ。

「お前、ぼーっとしているようで、妙に鋭くなったりするんだな」

「ぼーっとって部分は、間違いなく余分よっ」

 ぼんやりしている、と言われることはあるが、ぼーっとしている、というのは悪口に近いではないか。

 特に、ピースケが言うと。

「それで? あたしの考え、当たってるの?」

「まぁ、な。奴は俺を殺そうとしているんじゃない。魔力を完全に封じなかったのは、意図的なものだ。そうでなくても俺の魔力が強すぎて、ブローチくらいでは収まり切らないからな」

 はぐらかされるかと思ったが、予想を裏切ってピースケはちゃんと話してくれた。まずそのことに、マーメイルは驚く。

 それから、封じきれない魔力と聞いてどれくらいのものなんだろうと思ったが、想像できる範囲を軽く超えてしまった。

「奴って、ピースケに呪いをかけた相手を知ってるのね」

「ああ。目の前でかけられたからな」

「ええっ? だって、ピースケって絶対強いじゃない。そのピースケを呪うって、相手はどれだけ強いのよ」

 しかも、魔力を完全に封じない、というのは、余裕の現れだろうか。ピースケが報復に来ても返り討ちにできる、という自信がある……ともとれる。

 とんでもない種族を相手にしようとしているのでは、とマーメイルは不安になってきた。

「ピースケって、本当は何の種族なの」

 マーメイルは、ダメ元で聞いてみた。

「……悪魔だ」

「ほえ?」

 マーメイルの目が点になる。

「脱力するような相づちをうつな」

「だ、だって、悪魔って……」

 何か言おうとして、まともな言葉にならない。

 それでも、マーメイルが何か言おうと口を開いた時、近くでがさっと音がした。

「まったく、落ち着ける場所がないのか、この森は」

 ピースケが小さくため息をついた。

 現れたのは、巨大な黒トカゲだ。全身真っ黒で、さっきのキツネと大して変わらない。せいぜい、脚が短いので視線が低い、というくらいか。それが三匹。

 薄暗い森の中で、ウロコが黒光りしている。一抱えもある身体は、さしずめ焦げた丸太だ。

「いやああっ。何、これっ」

 一方で、マーメイルは悲鳴を上げた。そんな彼女の様子に、ピースケが不思議そうな顔をする。

「お前、魔女だろ。どうしてトカゲを怖がるんだ。薬を作る奴なら、トカゲだかイモリだかヤモリだかを黒焦げにしたりするんじゃないのか」

「それはあたしの手の平サイズ! こんな大っきいの、気持ち悪いっ」

 トカゲ達の表情は変わらないが、マーメイルの言葉を理解し、気分を悪くしたらしい。短くも太い前脚を出し、こちらへ近付こうとしてくる。

「こいつらなら、普段の百倍を軽く超える薬が作れると思うがな」

「いらないっ。そんな材料、絶対いらないっ。あたしは地道に少しずつ作るわ」

 魔女だって、気持ち悪いという感覚や嫌悪感というものを持っている。マーメイルにとって、目の前にいるトカゲがそうだ。

「……だそうだ。お前達に用はないが、そっちはあるって顔だな」

 トカゲ達は、無言でゆっくりと向かって来る。

「ピースケ、何とかしてっ」

「たまには自分で何とか……しろよ」

 語尾が弱まる。マーメイルの方を向きながらピースケが言おうとしたが、彼女はすでに近くの木の後ろに隠れていた。

 現在、ピースケ対トカゲの図である。

 いるよな。逃げる時だけ足が速くなる奴……。

「ったく、俺はお前の用心棒じゃないぞ」

 言いながら、ピースケは冷気を吐く。途端に、トカゲ達の動きが鈍った。身体が大きくても、寒さに弱いのは共通しているようだ。

 その頭の上に、ピースケの力が見えないハンマーとなって振り下ろされる。トカゲ達は地面に叩き付けられ、そのまま動かなくなった。九尾のキツネと同じく、相手が悪かったのだ。

「すっごーい」

 隠れている木の陰で、マーメイルが手を叩く。ピースケが大きくため息を吐いた。

「おい、糸はどっちに伸びてるんだ。さっさと行くぞ」

「さっき、迅速さは求めないって言ったじゃない」

「さっさと行かないと、俺のやることが増えるからだっ」

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