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3話

 この国が国として成立したのは二年前のことだ。元々この辺は村が集まっており、交流も盛んだった。

 しかし、ある時を境に北の村を侵略せんとする集団が現れた。彼らは自らを「魔術の徒」と呼び、魔術を使って暴虐の限りを尽くした。


 それに対抗するため、村の冒険者をかき集め戦争が起こる。それが五年前、僕たちの記憶に新しい「戦争」だ。

 しかし、なぜか「魔術の徒」は早々に投降。元締めの公開処刑によって戦争は終わりを告げた。


 その戦争以降、色々なものが変わった。

 「魔術の徒」の残党はぬけぬけと冒険者として活動し、魔術とはなんたるかを周りの冒険者に広めた。曰く、彼らとて雇われの身だったらしく自らもまた被害者だと同情を誘ったのだ。


 そして魔術によって力と名声を得た連中は、金にものを言わせここら一体の村を纏めて国を作ってしまった。

 それ以降冒険者は国営事業になり、元から魔術の徒の残党に嫌悪を示していた連中からは僕たちのことを政府の犬と呼ぶようになった。


 ここまで長々と語ってきて僕が何を言いたいかというと、政府は魔術の徒によって運営されている現状、戦争には勝ったが僕たちは支配されているのだ。魔術の徒の姑息な手管によって。


 夜が明け、朝日が山々の隙間から顔を出す。

 この村は山に囲まれているため周囲から独立しており、唯一国の支配から逃れた土地でもある。


 見渡す限り、木でできた素朴な家と畑しかない。国は魔術を使い、せっせと近代化に勤しんでいるからか、僕はこの光景が眩しく感じた。


「そういえば妹さん、うまくカイとやれてるかしら?…あなたにずいぶんとゾッコンだったようだけど」


「ゾッコン?割とサバサバしてた気がしたが。まあ、あいつは昔から優秀なんだ。父さえ存命だったら、この役割はきっとあいつがやってただろう。」


 王からの勅命を受け、しばらくこの町に滞在していたせいか、旅の荷物が少し重く感じた。

 村で仕入れた穀物や自身の体のメンテナンスに必要なものを詰め込んだせいだろう。


「…戦死したのでしたね、悪いことを聞いたわ。」


 紅い髪をくるくると指で触り、バツの悪そうな顔でそう言うユイに、少し笑ってしまった。


「なによ、素直に謝ったのに…私の家は、戦争に行かせて貰えなかったんだもの。元村長の一族としてだけれど、責任の一端は感じるものよ」


 彼女の家系は代々村長を任されていた。異能…現在では魔術と呼ばれる能力を使える珍しい家系だったからだ。

魔術が使える条件というものあり、少しややこしくなるので今回は割愛する。つまり、魔術とは選ばれた人間しか使う事が許されない代物なのだ。それに選ばれた家系は必然的に上に地位を得る。


「僕はお父様の行動を誇りに思うよ。一流だとかそうじゃないとかの話じゃない。自分の土地を守るために命をかけた。一人の人間として敬意を払うべき行動だ。だから、謝る必要なんてない。」


「二人の両親は素晴らしい人だったんだなァ!いやほんと、私の両親も見習ってほしいよ!悪い事があったらぜええんんぶ忌児である私のせい、良いことがあったら創造神様のおかげ。脳みそのアップデートが間に合ってないのさ!」


 ヤシラはそう言い快活に笑っているが、素直に笑えない。

 この手のブラックジョークは苦手なのだ。


「アザマの家系はあなたのお父様に魔術臓器が発現したんでしたよね?奇跡に近い所業と、話題になっておりました。」


「…そうだな、僕のお父様は運が良かった。」


 魔術臓器、魔術を行使するために必要な臓器のことだ。魔力と呼ばれる異能を行使する力の源が生成される機関であり、長い間魔術を使える人間と使えない人間の違いという議論に終止符をもたらした。

 というのも、これは魔術の徒による知識提供によって明かされた。驚きと同時に、異能を学問として捉え、励んできたと言うこの集団に畏怖にも似た感情を覚えた記憶がある。


 疑問を未解決のまま放置せず、その現象をある程度納得出来る段階まで独学で学んだのだ。その道のりの長さは果てしないものだっただろう。


 村を抜け山に入る。

 高い木々を縫うように敷かれた、申し訳程度の舗装路を荷台を引きながら歩く。

 強化魔術でコーティングされた荷台は、山地特有のでこぼこ道も平地と変わらぬ走りを見せる。


「このまま真っ直ぐ進むと低級の魔物が住む領域に当たる。みんな、そろそろ気を引き締めていこう。」

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