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【完結】聖女に恋する6人の男たち   作者: ぷよ猫


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11 私 ~エピローグ

 暗黒の王と魔女キルケート。

 ()()の両親と一つ屋根の下で暮らすのは、私が生まれた最初の人生の時以来だ。

 前回は孤児だったし、全然関係のない人の子どもだった時もある。

 変わらないのは必ず近くにマノンねえさんがいることと、人生のどこかでアランに出会うことだけ。


 この世界が再構築された後、私は王都の薬商の娘としてすくすくと育っていった。

 六歳の頃から段々と過去世を思い出すようになり、十七歳になった今は前世で()()()、いや、お父様がしでかした意地悪のことも知っている。

 あの時は本当に酷い目に遭った。十八歳でアランと引き離され、その一年後に彼を失い、「大破界」を唱えるのに魔力が()()()()()足りなくて、三人の男から頂戴するはめになったのだ。この世界の人々の魔力量は総じて少なく、多いとされる彼らからでも必要量を集めるのに三年近くかかってしまった。

 他の男と寝たことがバレたらアランに叱られてしまうかもしれないけれど、どうせすぐにオサラバする肉体である。それに私は魔女の娘で、アランは淫魔の息子だ。神界はその辺のことには緩い。致し方なかったと勘弁してほしい。

 アラン亡き後、すぐに私もこの世界から去ることを考えたけれど、「ほら、今回は無理だったじゃないか」とあの男……お父様に得意気な顔をされるのが嫌で一泡吹かせようと頑張った。


 その甲斐あって、お父様は反省したらしい。

 今まで、しつこいくらい飛び回っていた青い蝶も姿を見せない。あの蝶は、お父様の一部で作られた目であり、耳である。そうやって、自分が近くにいない時でも娘の様子を窺っているのだ。はっきり言って、ちょっとウザイ。

 だがそれも終わりだ。今世を全うした後は、輪廻を離れて神界の新居で念願の結婚生活が約束されている。

 

「やっと子離れする気になったみたいよ」


 母のキルケートはクスッと笑い、まるで駄々っ子を宥めるようにソファでうたた寝をしているお父様の頭を撫でた。

 両親は仲が良い。私とアランがそうであるように、お父様とお母様も運命の相手なんじゃないだろうか。だって、お母様はいつだって、隣に降臨してくるお父様の存在にすぐ気がつく。


「お母様たちは『結婚』しないの?」


 私の疑問にお母様はポッと顔を赤らめる。


「わ、私は魔女よ。魔女である限り、誰とも結婚なんてしないわ」


 じゃあ、()()()()()()()()()()するの? なんて、意地悪な質問はしないでおこう。魔女の輪廻が終わるのは、まだまだ先の話なのだから。


「ところで今世でマノンねえさんを見かけないのだけれど」


 もしかしたら守護の任を解かれたのではないか。前回、世界を消滅させるのに彼女も加担していたから、お父様の不興を買っても不思議ではない。


「あら? いるわよ。この国の王妃になってるわ。もしまた()()あっても王命であなたたちを結婚させてくれるそうよ。彼女は守護者の鑑ね」


「え、そうなの?」


「たまに夜中にお忍びでやって来るわよ。気づかなかった?」


「全然。王妃様が一人で城を抜け出してくるの?」


「護衛騎士と一緒よ。アランの()()()()()とね」


 なるほど、どうやらお父様はこの世界の再構築で、サプライズを施したらしい。

 ちなみに護衛騎士のアランの父親は、かつての異世界勇者だそうだ。マノンねえさんに見初められた当時は圧倒的強者であった彼も、転生を繰り返して今ではすっかり普通の人である。


 また、お父様は前世で私に関わった人たちが幸せになれるように、上手く采配してくれた。自分のせいで彼らの運命を狂わせてしまったのだから、当然の配慮と言えるだろうけれど。


 まず、マノンねえさんの愛人だった王弟は、遊び人ではなく愛妻家として通っている。その娘の一人は、ラングレー公爵の一人息子のデイヴィットと婚約中である。今度こそ彼は爵位を継ぎ、王弟に似てしっかり者の妻と公爵家を盛り立てていくことだろう。

 近衛騎士団長のブラッド・ラングレー公爵は、未だ存命の元気な妻と平穏な家庭を築いている。今回は平民の聖女は誕生しないため、聖女護衛の任務は発生しないはずだ。

 デイヴィットの妻だったエミリアは、幼少の頃からドーソン医師の息子ブライアンと婚約している。ドーソン医師は伯爵なので、いずれ伯爵家の女主人になる予定だ。

 ブラッド・ラングレーの部下であり、その息子デイヴィットの友人であるヒースは、近衛騎兵隊長として勤務。火炎魔法の腕を見込まれ、絶世の美女と名高い辺境伯の一人娘との縁談が進行中である。いずれ辺境伯を名乗ることになるだろう。

 隣国とのきな臭い噂は、先日、和解が成立し立ち消えとなった。そして第三王子ルーファスが、親善の証として次期女王の王配の座につくことが決まった。両国の平和のため、今後も王族として重要な役割を担うことになる。


 そして私の恋人アランは、今世でも私の恋人だ。

 彼は幼少の頃に、薬商の跡取りとして我が家に引き取られた。

 お父様の計らいで、前世の記憶を持ったまま私の婚約者として一緒に育った。

 今世では苦労せずのんびり過ごせるようにという配慮らしい。まさに至れり尽くせりである。

 仕方ないので「一生口を利かない」という脅しは撤回して、私は孝行娘としてお父様に優しく接している。

 ただ一つ残念なのは、前世でアランに贈られたムーンストーンのネックレスがないことだ。

 光の屈折で青白く煌めくシラー効果が、アランの瞳のようで気に入っていた。あれには私の魔力が通してあり、それをたどることで前回アランの居場所と気配を探ることが出来たのだ。


「リーシェ、そんな事より早くしないと待ち合わせに遅れちゃうわよ」


 お母様に急かされて、私は慌てて家を出る。

 今日は、私の誕生日の三日前。今世でも、婚姻可能な十八歳でアランと結婚する予定なので、独身最後のデートなのだ。


「アラン!」


「リーシェ!」


 美術館近くの噴水広場で落ち合うなり、私は愛しい人に抱きついた。

 アランの匂い。

 アランの逞しい腕。

 耳に注がれるアランの声。

 やっぱりアラン、アランなのだ。


 私たちはエドメ・ダンビエの絵を鑑賞するために国立美術館に向かった。

 前世の孤児院で一緒だった彼は、今話題の新鋭画家だ。

 隣国で注目を集め、この国の王妃つまりマノンねえさんの肖像画を手掛けたことで一気に火がついた。

 その肖像画といくつかの絵が公開されることになり、エドのことが懐かしくなって足を運んだのだった。


「素晴らしいわ」


 あまりの見事さに私は思わず賞賛のため息を吐いた。

 マノンねえさんの漆黒の髪、射貫くような金色の瞳、人を惑わす妖艶な微笑み。指先に青い蝶がとまっている。

 隣のアランを見ると、少し恥ずかしそうにしている。


「いつもは記憶がなかったから母親だと意識したことがなかったけど、こうして見ると照れ臭いな」


 ということらしい。

 前世の記憶があるのが当たり前の私からすると、マノンねえさんが母だろうと友人だろうとあまり気にすることはないのだけれど。

 

 他の絵画も鑑賞し、食事をして帰る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 アランと手をつなぎ、歩きながら夜空を見上げると、あの日と同じ青い月が昇っている。


「見てアラン、ブルームーン」


「ああ、綺麗だな」 


 広場の噴水までやって来ると、アランは私の手を離した。ゴソゴソとポケットをまさぐる。


「やっぱり今日、渡そうと思って」


 取り出したのは、あのムーンストーンのネックレスだった。

 以前、お父様から受け取ったのだと言う。


「戦で死ぬ直前、青い蝶を見てすべて思い出したんだ。リーシェとの試練も暗黒の王の顔も。ああ、これはお義父さんにしてやられたなと思って。まあ、それは仕方がない。でもこれだけは――――」


 私の首に腕を回してネックレスをつける。


「約束しただろ。もう一度プロポーズするって」


 私の涙を指で拭いながらアランは「()()()一緒にいよう。結婚してほしい」と言った。

 彼の求婚の言葉がこの世界ではなく神界の結婚を意味し、「ずっと」が永遠に近い時間であることに気づいて、私は喜びに打ち震えた。


 闇夜の黒髪、今夜の月と同じ銀色に光る青い瞳。

 人を虜にする魅惑の微笑み。

 私にだけ愛を囁く形の良い唇。


「アラン……アラン、愛してる。私には、あなただけよ」


 憶えていてね。

 私の永遠の恋人。


 私は、抱きすくめられたこの腕から、もう二度と離れないと青い月に誓った。


これで完結です。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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