昔約束した幼馴染に再会したんだけど……
「昔約束した幼馴染に会いに都会にやってきたんだけど……」の続きです。
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2021/07/15 誤字報告ありがとうございます
「なんで教えてくれなかったんだよ!」
早川さんが幼馴染のゆうきだということが発覚したその後、浩二さん、ゆうきのおじさんの計らいで早川家にお邪魔することになった。
ゆうきが以前に言っていた通り、ゆうきの家は河川敷のそばにあった。普通に良さそうなマンション。きれいだし大きいし。ゆうきん家ってお金持ち?
「普通気づかない? 名前とかでさ」
ゆうきだと判明してからゆうきの口調は砕けていた。ずっとなんで同級生にまで敬語何だろうって不思議だったけどただのキャラづくりだと。何してんだ。
「俺ゆうきの苗字覚えてなかったんだよ。下の名前は同じだなぁとは思ってたけどそれくらいなら普通だし。第一早川さんって女子じゃん! ゆうきは男子だからわかるわけないだろ!?」
「私は今も昔も女子だよ!!」
いやそうなんだけどね!? 俺にとってゆうきは男子だったの!
「五年近く一緒にいたのに性別も知らなかったなんて……、拓真馬鹿じゃない?」
「うるせぇ! お前が紛らわしい格好してるからだろ!?」
髪は短いし男っぽい服装しか着ないし。行動も女子っぽくない。あの時の同い年の女子が何して遊んでいたからは知らんが間違いなくゆうきとは違う遊びをしていたはず。
「まぁまぁ二人とも。せっかくの再会なんだからお祝いしましょう?」
言い合う俺たちの間に入ったのはゆうきのおばさん。早川京子さんだ。さすが完璧美少女だとか言われるゆうきの母親だけはある。本当に四十路なのかよってくらい若々しい。昔っから綺麗な人だなとは思ってたけどあのころから全然変わってないわ。
おじさんにお呼ばれした俺は晩御飯をご馳走になることになった。昔はよく食べてたっけ。
「おばさんのご飯ひさしぶりだな。めっちゃうまかったから楽しみだわ」
「ふふふ、ありがとう拓真君。遠慮しないで食べてね?」
朗らかに笑うおばさん。その雰囲気はどこか見覚えがあった。
「あれか。ゆうきの猫はおばさんを真似てるのか」
「うるさい!」
ちょっと照れてるのか頬が赤い。図星か。
「はぁ……、ゆうきが女子ってマジかよ……」
「もぉ、まだ信じられないの?」
「いやだって、俺にとってゆうきが男子なのが普通だったし。お前だって今更俺が女子だって知ったら信じられないだろ?」
「ま、まぁ……、それはすぐには信じられそうにないけど」
まさに天変地異が如くだよ。俺が男子だったからってどれだけ悩んだと思ってるんだ……?
「それならゆうきの昔のアルバムでも見てみる? 小学校の卒業アルバムならゆうきも女の子の制服着てるわよ」
「ゆうきが女子の制服って……ぷふっ」
つい想像して吹いてしまった。ぷふっ。
「わ、笑ったなっ!」
「いやだって……ぷふっ」
「ふふ、ほら。これがゆうきの卒業アルバム」
そう言っておばさんが渡してきたのは三冊のアルバム。一冊が地元の小学校のもの、もう一冊が転校先のもの、残りの一冊が中学校のものらしい。
「あっ、お母さんなにしてるの!?」
ゆうきが慌てて卒業アルバムを取り返そうとするがそうはさせない。進路をブロックしおばさんから素早くアルバムを受け取った。そのままひょいひょいッと逃げてソファーに座るおじさんの隣に座る。
「お、ゆうきの卒アルじゃないか。懐かしいねぇ」
「ゆうきが女子の制服着てるのが信じられなくてさ。おばさんが貸してくれたんだ」
「どれ、あぁ、そういえばこのころのゆうきは髪が短かったね」
「うわぁ、まじで女装してる」
「間違ってないけど! 間違ってないけど女装って言うな!」
卒アルには本当にゆうきが女子の制服を着て女子と写真を撮ったものが多くあった。まじか。いや、でも案外似合ってるか?
別のアルバムに目を通す。それは転校先の都会の小学校のものだ。
「やっぱり六年からだと写真の数も少ないな」
「まぁそれは仕方ないさ。それでもみんなゆうきにはよくしてくれたみたいで友達も何人かできたみたいだよ」
「そっか」
ハブられたりしてないみたいでよかった。ゆうきが引っ越すってなって少し心配だったんだよな。今となれば男っぽい女子だからってイジメられたりしてなかったかなとか。
「でもなんか転校してから男っぽさ抜けてない?」
気になったのはそこ。転校先の小学校はどうやら制服がなく服装が自由なようでみんな各々好きな服装をしていた。その中でゆうきははじめはズボンが多かったが季節が経つにつれスカートをはき始めたりフリルが付いたものを着だしたりと明らかに服装が女子に寄っていた。それも髪も伸ばし始めたみたいで卒業時にはボブからセミロング程度には伸びていた。そこまで来るとゆうきは明らかに女子だとわかる見た目になっている。
「よく分からないけどこっちに引っ越してきた時からおしゃれを教えてほしいってゆうきにせがまれたわね」
「へぇ、なんで?」
「べっ、別に、ただ……、ちょっと頑張ってみようと思っただけで……」
何やら言ってるけどごにょごにょしてて聞き取れない。
「あぁもういいから! アルバム返して!」
「はいはい」
ご立腹なゆうきにアルバムを返却する。ちょっと弄りすぎたしな。意識を刈り取るボディーブローが放たれる前に手を引いておこう。あれは痛いとかじゃないんだよね。痛みを越して深いところを抉り取ってくるから。何か大事なもの取られた気がする。
さて、おばさんのご飯のお時間です。今日はシチューらしい。キノコシチュー。それにサラダとアスパラガスのベーコン巻き。あとパンね。洋食ですか、いいですねぇ。
美味し。おばさんのご飯美味し。
「おばさん美味い!」
「そう? よかったわ」
「そうだろうそうだろう。京子の料理はうまいんだ。それとゆうきも幸子に似て料理上手なんだぞ?」
「マジか。ゆうき料理できんの?」
「簡単なモノならね。お母さんほどじゃないけど……」
流石完璧美少女とか言われてるだけある。
「あっ、そういえば急に招待したけど大丈夫だったかい? 家でご飯が待ってたりしないかい?」
「ん、大丈夫。俺一人暮らしだから。今日買った材料は明日の晩飯にすればいいし」
「拓真独り暮らしなんだ」
「そうそう」
「そりゃご両親も寂しいだろう。一人息子がこんなに早く家を出たらねぇ」
ははっ、まぁあの両親なら寂しがりはすれども止めないと思うけど。寧ろ思いっきり背中を押してくれる。お前がやりたいならどこまでも応援するぞ! って。
「明くんや美穂さんは元気にやっているかい? こちらに引っ越してからはどたばたしてて連絡取れていないんだよね」
「きっと元気にやってるよ。あの二人だからね。今もおしどり夫婦らしく人目を憚らずイチャコラしてると思うよ」
「はははっ、あの二人は相変わらずか」
早川家とのご飯は終始会話の途切れることなく和気あいあいとした様子で進んでいった。久しぶりの団欒で俺の心はぽかぽかだ。今なら余熱で発電できそう。
ちなみに明と美穂は俺の父さんと母さんの名前だな。父さんと母さんの名前なんてめったに呼ばないから急に呼ばれると理解するのに間が開くな。明と美穂って誰だよって。
「晩御飯ありがとうございました! それじゃ帰るわ」
「気を付けて帰りなさい」
「またいつでも遊びに来てね?」
「拓真、また明日!」
「おうっ、学校でなー」
早川家をおいとました頃には夜は更け二一時近くなっていた。昔話とかでつい時間を忘れてたわ。はよ帰って寝よっと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、教室にたどり着いた俺は隣の席に座るゆうきに元気よく挨拶する、
「よっすゆうき!」
「あっ、えっと、おはようございます拓真」
……猫被ってんねぇ。俺にばれてるけどやめないんだなそれ。
「おう彩輝、おはよう」
「……あ、あぁ。おはよう拓真」
「どうした?」
なんか彩輝が幻覚でも見てるのかって顔してる。こいつキメてるのか? 流石都会。
「あぁ、いや、なに。お前ら付き合ってんの?」
「ぶふっ」
「え? 付き合ってるって誰が」
なんかゆうきが吹いてるけど、どうしたんだ?
「お前らだよ! 拓真と早川が付き合ってるのかって聞いてんの!」
「はぁ!? なんで俺らが付き合ってるってことになってんの!?」
「いや、だって昨日まで「早川さん」とか、「酒蔵君」ってな感じだったくせに急に下の名前で呼んでるじゃん! 邪推するのも仕方なくない??」
「あ、あぁ。そういうこと」
そういやそうだった。昨日までの俺は早川さんがゆうきだって知らなかったんだったわ。そりゃ急に名前呼びになってたらそんな勘違いもするか。
……なんか教室がやけに静かになってるなっと思ったら全員聞き耳立ててたわ。
「そういうわけじゃない。ただゆうきが、早川さんが俺の小一のころからの幼馴染だったって発覚したんだよ。んで昔からゆうきって呼んでたからそっちの呼び方にしただけ。おーけー?」
「はぁ。なに、お前幼馴染の事忘れてたの?」
「いや、忘れてたってか昔と違いすぎてわからなかったんだよ」
「へぇ、早川ってそんなに変わったんだ」
「あぁ、昔はもう男まさ―――」
「た、拓真! 昔のことは恥ずかしいので言わないでくださいっ」
どれだけ今と昔のゆうきが違うのか説明してやろうとしたらゆうきに口を押さえられてしまった。ただ身長差のせいで殆ど寄りかかってるみたいになってるけど。ちょっと抑えすぎて口が痛いんですけど。爪立てんな。
なんか周りからの視線が痛い。クラス中から視線を集めてるよ。
「えぇ……、みんなどうしたん」
「こんな早川が珍しいからだろ」
「うぅ……」
にやにやと笑みを浮かべる彩輝が揶揄するように言い、ゆうきは手で顔を覆って縮こまる。
まぁ、そうか。確かに昨日までのゆうきと今の狼狽えたゆうきとじゃえらい雰囲気違うもんな。なんか、ごめんな。
「拓真の、ばかっ」
はい、可愛らしい罵倒をいただきましたっ。
その後なんやかんやとその場の収拾をつけ、本日も楽しい学校生活が始まります。とはいえ、まだちらちらと伺うような視線が鬱陶しいけど。やめてっ、俺に視姦されて悦ぶ趣味はないの!!
さて、面倒な座学を睡魔に襲われながらもどうにか熟し、待ちに待った体育の時間。最近は体育館でバスケットボールをやっていた。
バスケと言えば昔は河川敷のハーフコートでゆうきと勝負をしたもんだ。あいつフェイントが上手いんだよな。視線誘導とか僅かな動きで何度騙されたことか。
体育の授業は割かし自由が利く。なので久しぶりにゆうきと勝負しよう。
「へい! ゆうき、俺と遊ぼうぜ」
「拓真、いいですよ。ワンオーワンでいいすか?」
試合をするときは男女分かれるが今の時間は混合だ。やたらと大きな体育館の一角、ハーフコート分を使ってゆうきと対峙する。
学校指定のジャージ姿。裾や袖を折って髪を後頭部で結ったゆうきがタムタムと軽い音でボールを突く。先行はゆうき。そのままタムタムとボールを付きながら素早く俺の間合いに潜り込んできた。ふっ、甘いぞゆうき! 貴様はこの次に混ぜるフェイントで俺の隙を突こうというのだろうがそうはいかない! それも織り込み済みな俺は自らのフィジカルにものを言わせたパワープレイで打ち破ってくれるわ!!
「とったぁぁあ!!」
「きゃっ」
ゆうきの手からボールが離れ、バウンドしている間を狙ってボールを弾こうと手を伸ばす。さぁここだろう。ここでゆうきのとくいなトリッキープレーがさく裂して―――
取れたんだが。ゆうきが女子特有の高い悲鳴を上げ、俺の手がボールをあっさり弾いちゃったんだが。えぇ……。
「おいおい拓真! 流石に女子に本気出しすぎだろ?」
「え?」
なんか彩輝に責められた。いや、そりゃ本気で行くだろ。相手はゆうきだぞ?
「ちょっと酒蔵君? いくら幼馴染だからって早川さんに手荒すぎない?」
あれ、四面楚歌なんだが。苗字くらいしか知らないクラスの女子に加えほかのクラスメイトからもちょっと非難されてる。えぇ……。
「あー、大丈夫か。ゆうき?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
ちょっと困惑気味のゆうきは苦笑を浮かべながら平気だと主張する。うん、怪我はなさそう。
流石にこのまま続けられず俺はボールを弄びながら彩輝のもとに行く。
「おっかしいなぁ……」
「何が?」
「いや、ゆうきが予想以上に弱すぎるっていうか……。昔はもっと強かったんだよ」
「いや、そりゃ子供のころの話だろ? 今のお前らじゃ男女で差がありすぎるわ」
まぁ確かに身長だけでも三十センチ近く差はあるけど。けどあのゆうきがそんな差で押されるほど軟じゃないと思うけどなぁ……。
そんなもんなのかなぁ。
なんだか不燃焼気味でその日の体育は終わりを迎えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほれゆうき、ジュース」
「わー、ありがとう」
放課後。ゆうきを伴って帰宅した俺はリビングのソファーで寛ぐゆうきにオレンジジュースの入ったコップを渡す。
今日は家でゆうきと遊ぶ約束をしていたのだ。ゆうきとやりたいなーって思ってたゲームが結構あるからどれをするか迷うぜっ。
「どれする? 好きなの選んでくれよ」
「じゃぁ……、これ!」
ゆうきの細い指がビシッと指示したのはスマブラだ。某有名格ゲー。最近ではeスポーツとして人気を博しているあれだな。
「よっしゃ。ぼこぼこにしたるぜっ」
「ははっ、やってみろー!」
意気込みゲームをスタートする。互いのキャラを選択し、ステージはシンプルな終点。
いつかゆうきと再会したときに完勝してやるとやり込んだからなぁ。俺の必殺コンボに泣くんじゃねぇぞ? 俺のしずえさんが火を噴くぜ。
対するゆうきはリドリーを選択していた。美少女なゆうきがなかなかに凶悪な見た目のこいつを選ぶってなんか面白い組み合わせ。
だがしかし! 容赦はせんっ。たとえ凶悪なモンスターでもしずえさんは微笑みつつ圧殺するっ。
「たはー! 拓真つよっ」
「あー、だろ?」
うん。結構強かった。そこそこ強かった。けどしずえさんはモンスターに屈することはなかった。くっころはキャンセルですか。
ゲームをしている間に結構時間は過ぎていたようだ。もう十八時だよ。全員集合せねば。まだ二時間早いって? それな。
「はぁ、楽しかった。それじゃそろそろ帰るね」
「送っていくぞ」
少しずつ明るい時間が伸びてきているとはいえ今はまだ暗い。ゆうきと言えど今は女子。昔からだけど。とにかくこんな時間に一人返すとおじさんに怒られそうだし。
暮れた空を見上げつつ。ゆうきん家に向かう。家との距離はそこまで空いてはいない。精々歩いて送っていけるほど。
「懐かしいねー。よく遊んだ帰り一緒に帰ってたよね」
教室でもなく、人もいない今。ゆうきは昔のように砕けた口調をしている。やっぱりこっちのほうがらしい。昔より柔らかい口調だけど、ゆうきに丁寧な言葉を向けられるよりは全然いい。学校での口調はむずむずしてしかたないんだよ。尻がかゆい。
「泥だらけになりながらな。母さんやおばさんによく怒られたっけ」
「あれは拓真だけでしょ? 私は怒られたことないし!」
「いやなにいってんの? 真っ白なシャツを茶色にして怒られてただろうが」
田んぼのそばの側溝をウォータースライダー代わりにして遊んで汚してたろ。藻がいい感じに滑って水流の勢いで押されて流れるとまさにウォータースライダー。楽しかったわ。怒られて泣きかけたけど。
「そうだっけ?」
「そうだったし」
とぼけるゆうきの表情は緩んでいた。楽しそうに昔を思い出しているようだ。
そうやって昔話に花を咲かせていればあっという間にゆうきが住むマンションについてしまった。
「送ってくれてありがとね! ゲーム楽しかったっ。また明日学校で!」
「おう、じゃーな」
手を振るゆうきに振り返して踵を返す。しばらく歩いて近くの河川敷にやってきた。流れる川に夜空が反射し控えめにキラキラ瞬いている。
「たのしかった、か……」
ゆうきの別れ際の言葉を思い出す。
ゆうきは笑顔だった。楽しそうに遊んでいたし、明るく笑っていた。だけどさ。俺は……、
「全然つまんねぇよ……」