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あの日の夏はまだ終わらない  作者: きさらぎ
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第9話 対戦

「はい。おれ」


 監督の問いに、素早く手をあげた男子がいた。


 松嶋裕幸(まつしまひろゆき)

 快活という表現がぴったりの人好きのする二年生の男子だ。校内では男女限らずほとんどの生徒から、ユッキーと呼ばれていて人気がある。部員の中でもトップの実力者だ。


「よし。決まりだな。21点で1ゲーム。それで試合をしよう。審判と線審入って」


 監督の一言でみんながサッと動く。主審と副審は女子マネージャー。線審は三年生だ。


(やっぱり、あの時の真紅のウェアの子だ。さっき自己紹介の時、見たことあるなぁって思ってたんだよね)


 実は裕幸は早朝ジョギングの時に緋色に会っている。

 ここの生活にも慣れたし、二年生になったし、心機一転して走るコースを変えてみようと思って変更したのだが、如何せん、距離が長すぎた。なので三日で断念した。だからあれ以来、あのコースは走っていない。ただ彼女とはあの三日間ともすれ違ったから覚えている。

 

(可愛い子だったから、忘れられなくて。まさかここで会えるなんて、ラッキー。運命の出会いってやつじゃん)


 思いがけず再会した嬉しさも手伝ってコートに入る足取りも軽い。緩みそうになる口元を引き締めながら、真剣な顔の緋色と軽くシャトルを打ち合う。


 そして、試合が始まる。


「ユッキー、がんばれよ」


 男子達から声援がとぶ。女子達は関心、無関心、興味津々とそれぞれ表情は違うが、おとなしく静観している。


「ラブオールプレイ」


 緋色のサーブから始まった。高めに奥に上げる。


 始めはクリアーから。しばらくはからだを解すように、相手を探るように軽く打ち合う。そしてだんだんドロップ、スマッシュと織り交ぜていく。

 裕幸のスピードについていっている。彼も初めから全力を出しているわけではないが、レベルは全国でもトップクラスだ。その速さについていく。


「フォームが綺麗ね。それに、フットワークも無駄がない。すごい」


 二年生の女子が驚いている。これはみんなが一様に感じていることだ。それに男子と試合をしても、ぜんぜん遜色がない。


「緋色ちゃん、がんばれ」


「よし、いいぞ。その調子。緋色ちゃん」


 いつの間にか、男子達が声援を送っている。

 だんだんとお互いに調子が出てくると、動きもスピーディになってきて、ラリーも続く。一年生の女子から、これだけ見事な試合を見せられると、つい応援したくなってくる。


「緋色ってすごいんだ。びっくりだわ。直接見るとホント迫力だね」


 いつの間にか隣にきていた菜々が里花に話しかける。


「でも、全国優勝者ならここにもいるから、ダブルスでもよかったんじゃないのかなあ。そっちも面白そうだったけど」


 菜々は悪戯っぽい笑みで、里花の隣にいる高橋美佑(たかはしみゆ)を見た。

 美佑は緋色とのダブルスでペアを組み、去年の夏、中三で全国優勝をした。緋色はそのダブルスとシングルスで二冠を達成している。


 肩を覆うくらいの髪を今は後ろに一つにまとめ、可愛らしい雰囲気持つ美佑は、控えめに笑顔を作ると首を横に振った。 


「無理」


 即座に言い切った言葉は彼女の雰囲気とは裏腹に、きっぱりとしたものだった。


「どうして?」


 菜々は、不思議そうに尋ねた。


「このギャラリーの中ではやりたくない」


「えー。全国優勝者が、何言ってるのって感じだけど?」


「全国ではこんなにギャラリー近くなかったし。雰囲気もこんなんじゃなかったし」


 そういうと、男子部員のほうに視線を移した。菜々も里花も同じように顔を向ける。男子部員は女子部員のちょうど真向かいにいる。

 応援が白熱しすぎて、今にもコートの中まで入っていきそうな勢いがある。一言でいうとにぎやかしさを通り越して騒がしい。騒がしすぎる。声だけではなく身振り手振りまで。まるで体育祭での応援合戦のよう。


 全国でも名の知れた強豪校のはずで、それらしく落ち着きのある伝統み溢れる空気を醸し出しているかと思いきや、ただのお祭り騒ぎ好きの部員の集まりにしか見えない。

 三人はがっかりしたように肩を落とした。 


「うーん。言われてみれば、わたしもいやかも。だったら、この中で試合ができる緋色ってどれだけ大物なのって感じよね」


 菜々はこの騒ぎの中、男子と堂々と試合ができる実力と集中力につくづく感心する。過去に何度か練習試合で緋色と試合をしたことはあるが、菜々の方が勝っていたくらいで、強いという印象はなかったのだ。その頃はむしろ美佑の方が実力的に印象に残っていた。

 だから、全国出場を決めた時にも驚いたが、まさか優勝するとは、しかも二冠を取ることなど思ってもいなかったのだ

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