表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日の夏はまだ終わらない  作者: きさらぎ
8/56

第8話 部活デビュー

 バドミントン部の練習日。


 今日は新入生の初顔合わせの日で、男女部合同で行うことになっている。

 監督とコーチの紹介の後、新入生の自己紹介があった。

 それも終わって、そろそろ男女分かれて、練習に入ろうとみんなが準備を始めようとしていた時だった。


「監督、ちょっと提案があるのですが」


 そういったのは、大学生コーチの水木香織(みずきかおり)だった。

 赤みのあるウエーブのかかった長い髪をシュシュでまとめポニーテールにした女性。


「なんだ?」


「はい。せっかく全中優勝者がいるので、桜木緋色さんに模範試合をしてもらったら、どうかと思って」


(試合? わたし?)


 急に名前を出された緋色は戸惑う。


 上級生がデモンストレーションで手本を見せるのなら分かるが、新入部員がいきなり試合とは……


「香織、何言い出すんだよ」


 突拍子もないことを言い出した香織に対して、隣にいた男子コーチの長谷川優太(はせがわゆうた)が肘をつつく。

 好青年といった感じの穏やかな雰囲気をもつ男性だ。


「だって、見てみたいじゃない? 亮が育てた選手よ。興味あるじゃない?」


 耳打ちするように小声で優太に言った。


「それはそうだけど、全中見に行っただろ?」


 それにこれから彼女を見る機会は充分にある。窘めるような口ぶりで言ってみたが、香織はそのくらいでは意に介さない。


「何か月前の話? それとこれとは別よ。それに見てよ。この盛り上がり」

 

 香織は男子生徒達に顔を向ける。


「おお、いいねぇ」


「賛成。見たい。お願いしまーす」


 わーと男子達から歓声が上がっている。男子はお祭り好きが多い。楽しいイベント大歓迎である。

 普段の練習は男女同じ体育館だが、扉で仕切られているので、お互いに見ることはあまりない。ましてや女子のレベルはそう高くはないので、今年、全中優勝者が入ってきたことがうわさになっていて、みんな少なからず、いや、かなり興味があったのだ。新入部員の紹介の時から緋色に視線が集中していた。


「水木、まったくお前は」


 男子部の監督、南康之(みなみやすゆき)は、香織を見ながら困ったように息を吐いた。


 三十代後半の中肉中背のまだ若い監督。実業団を経てこの学校の教師となった。それ以来、現在では全国優勝も何度も経験し、全国でも名の知れた強豪校へと押し上げたカリスマ監督だ。


 優太と香織はここの卒業生で、今大学二年生なので三年生は知っている。


 女子の監督は小野圭吾おのけいご。どこか育ちの良さを感じさせる物腰をしていた。彼は新任で初監督なので、ここの事情に慣れてはいない。


 男子の中では手拍子が起こっている。


「監督、なんていうかな?」


「大丈夫よ。ランキング戦だって監督が始めたんでしょ。困ったふりをしているだけよ。こういうの、好きだと思うなぁ」


 困惑気味な優太とは対照的に香織は楽しそうだ。目が輝いている。


「わかった。試合するか。いいか? 桜木」


 監督の声に、


「ほらね」


 香織は得意気に優太にウィンクした。


 男子部員達から、わーと歓声が沸き大きな拍手が起こった。

 一応、本人の了解をとるような言い方だが、断れるような雰囲気ではない。緋色はしかたなく返事をした。


「じゃ、準備して」


 男子は大歓迎。女子の一、二年生はわりと好意的な感じだが、三年生はあまりいい顔はしていない。

 緋色はいったん女子の体育館へ行き、バックを持って戻ってきた。それから、ストレッチを始める。


「緋色、大変なことになったわね」


 体を動かしている彼女のすぐそばに来たのは里花。


「うん。なんか断れなかった」


「あの様子じゃね。わたしでも、断れないわ」


(周りの盛り上がりに押し切られた感じ)


 里花は監督と男子部員たちを横目でちらりと見ながら言った。それから、香織の方に視線を移す。彼女は、にこやかな顔で優太と話をしていた。


(大学二年生。しかもここのOBか。まったく余計なことをするわね)


 里花はチッと小さく舌打ちをした。


「じゃあ、相手は誰にするか……そうだな。こういう機会も中々ないから、男子、誰かするか?」


 不意打ちのような監督の言葉に男子部員達がざわめく。


「監督さすがね。女子は絶対やりたくないだろうし、三年生なんかすっごく緊張して青ざめてたもんね。男子だったら、余興的にも充分ね」


 香織は監督の采配に感心する。よく分かっている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ