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あの日の夏はまだ終わらない  作者: きさらぎ
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第5話 幼馴染

その日の夜、自室でぼんやりとしていた緋色はコンコンとノックの音に、振り返って「はい」と返事をする。その声に応えるようにドアから顔を覗かせたのは晃希こうきだった。緋色の一つ上の兄で、彼女と同じ紫杏学園高校に通っている。


 晃希はやや栗色がかった髪と日に焼けた肌、整った優しげな顔は少年のような少女のような中性的な雰囲気がある。


「緋色、コンビニ行かない?」


「行く」


 緋色は即座に返事をする。

 今日は入学式で授業も始まっていない。勉強するにもできないし、かといって、本を読む気にもなれず、寝るには早すぎるし、どっちつかずのまま、ぼんやりとしていたのだ。


「翔も行くってさ」


「翔くんも?」


********


 門を出ると既に遠野翔とおのしょうが自宅の前に立っていた。


 長身でくっきりとした二重瞼ときりっとした精悍な顔立ちをした翔は、晃希と同級生で学校も同じ紫杏高校に通う。

 晃希は体育科でサッカー部、翔は特別進学科で写真部に所属している。


「こんばんは。翔くん、久しぶりだね」


 前に会ったのは、確か卒業式の日だったよね? 緋色は考えながら翔に声をかける。


「そうだな」


 翔は言葉少なに返事をする。


 隣同士の幼馴染みとはいえ、以前とは違って頻繁に行き来することはなくなっている。最近は、緋色も落ち着いているから、なおさらだった。ただ心配はいつでもあるから、晃希と翔はいつも連絡を取り合っている。

 今日は入学式で、高校生活が始まった日。緋色の様子が知りたくて、晃希と誘ったのだ。


「どうだった? 高校生一日目は」


 晃希が気遣うような表情で緋色に話しかける。


「どうって、普通だよ。里花ちゃんと同じクラスだったから、すごく安心した」


「そうか。よかったな」


 言葉通りに安心したような笑顔を浮かべて、にっこりとした緋色に翔も安堵する。里花がそばにいれば大丈夫だろう。


「それにね、お友達ができたの」


「友達?」


 嬉しそうな表情の緋色に敏感に反応したのは翔だった。


(まさか、男じゃないよな)


 翔は藤と佐々の時を思い出した。

 ぴりっと緊張感が走る。あの時のショックは忘れられない、今でも。

 晃希は珍しいとばかりにちょっと目を見張る。


(人に興味のない緋色に入学一日目に友達ができるなんて誰だろう? まさか男じゃないよね)


 二人ともまっ先に考えることは同じだった。


「おんなじクラスのね、菜々ちゃん」


「女の子?」


 晃希は名前からしてそうだろうとは思ったが、一応確かめてみる。


(きちんと聞いておかないとね。翔のためにも)


「そうだよ。練習試合をしていた中学校なんだって。里花ちゃんと仲が良くて、だからわたしもお友達になったの」


 女の子だと聞いて、翔の肩の力がほっと抜けたのがわかった。

 練習試合をするほどの学校の生徒だったならば、言葉も交わしていたはずだろうに、まるで、初めて会ったみたいな口振りが少し可笑しかった。緋色らしくて。

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