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あの日の夏はまだ終わらない  作者: きさらぎ
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第18話 部内恋愛OK!

「ねえ、ちょっとなんか食べに行かない? お腹空いちゃった」


 しんみりとなってしまった空気を払拭するように、梓が明るい調子で言うと、勢いよく立ち上がった。


「そうね」


 夏海も目じりの涙を指で拭う。


「親睦会も兼ねてファミレスでも行きます?」


「そうしよう」


 真帆の言葉にみんなが賛成した。


「あっ、でも、部活は?」


 思い出したように言った綾乃に、


「大丈夫、今日と明日は、ランキング戦の書類作成になってるから部活の方は休み」


 真帆がすかさず答える。


「でも、プリント類は?」


 パソコンの電源は落としたが、書類や道具類も散らばったまま、部屋を出て行こうとするみんなに、未希が尋ねると、


「ここはパソコン予科室で、許可制。ランキング戦が終わるまで、貸し切っているから大丈夫」


 これまた、真帆のそつのない答えが返ってきた。



 みんなで廊下を歩きながら、


「さっきさあ、マネージャーって普段は何もすることないとかって言ってたけど、大事な仕事あるじゃん」


 梓が唐突にそんなことを言い出した。


「大事な仕事って何よ?」


「部員達の監視」


 おおっ! 

 夏海と真帆、知香の二、三年生組は思わず納得。一年生にはまだよくわからない。


「いわれてみれば、それが一番の大仕事かも? あの桜木緋色との試合だって、ホントはレッドカード出したかったんですよね。めっちゃ、うるさかったし」


「真帆も思ってたんだ? 実はわたしも」


 賛成したのは梓。


「わたしはイエローカードかな?」


 夏海の意見に「わたしも」と手を上げたのは、知香だった。


 これで、二対二。


「あなたたちの意見は?」


 四人が一斉に振り向いて、綾乃と未希を見た。


 急に意見を求められても困るんですけど……さあ、どっちって、二人を見つめる真剣な表情がコワい。いつの間にか勝負みたいになってる。


 綾乃と未希は一歩後ずさってしまった。二人いるから、それぞれに賛成すれば、引き分けでいいのかもしれないが、それはそれでわざとらしい気もする。


「すみません。これから、勉強します」


 苦肉の策で綾乃が言うと、二人で頭を下げた。


「上手に逃げたね」


 夏海が笑った。


「そうだ、うちはさ、部内恋愛OKだから。遠慮せず彼氏作ってね」


 梓が思いついたようにまた別の話題をふった。

 上級生のありがたい言葉ではあるが、頷く前に、彼女らの彼氏を好きになってもいけないし事前に現状を把握しておきたい。


「おねえさま方はどうなんですか?」


 未希の問いに、


「わー。男子部はかんべんして」


 まっ先に顔をしかめて否定したのは梓だった。


「ごめんね? わたしも対象外だわ」


「わたしも、男に見えないし」


 夏海と真帆も否定する。

 部内恋愛OKって言っていたから、それぞれイチオシの男子がいるか、彼氏がいるのかと思ったら……ファンクラブもあるのに? 未希はもう一度聞いてみる。


「イケメンがいっぱいですよ?」

 

「「「それでも、イヤ」」」


 力いっぱい否定された。なぜだろう?


「ちょっと、失礼じゃん」


 そんな中、知香がぷんと怒って口を尖らせる。


「あー。ごめん、ごめん。知香ちゃんはユッキーが好きなんだもんね?」


 からかいを含んだ真帆の言葉に知香は真っ赤になった。


「もう、勝手に暴露しないでよ。恥ずかしいでしょ」


 誰もいない廊下とはいえ、他に聞いている生徒がいたら……もし、ファンクラブのメンバーに聞かれたら……


「ちょっと、言いにくいんだけどさぁ……」


 立ち止まって考えていた風な梓が珍しく言い淀む。


「言いにくいなら、言わない方がいいと思うけど、止めといたら?」


 イヤな予感。

 無駄だとわかっていても夏海は警告してみた。この場面では、レッドカードを出したい気分だ。


「ユッキーってさ、桜木緋色に気があるよね?」


 言った。


「だって、四天王にさえ見向きもしなかったのに、彼女にだけは話しかけるもん。でしょ? 絶対、好きだよねぇ」


 言い切った。


 知っていても誰も言えなかったことを、事もなげに言い切った。


 それを聞いた知香はというと、真っ赤な顔を通り越して怒りでわなわなと震えていた。すわった目でキッと梓を睨んで、


「帰ります。人が気にしていることをペラペラと。梓さんとは話したくありません。一緒に食べたくもないし」


 すっかり機嫌を損ねてしまった知香は、ツンと顔をそむけると一人、早足で歩き出した。肩ほどのふわふわの天パーの髪を揺らしながら、ずんずんと遠くなっていく知香の姿に、夏海が梓をつつく。


「ほら、あんたがデリカシーのないこと言うから、知香怒っちゃったじゃない。どうすんのよ?」


「どうするって、ホントの事言っただけじゃん?」


「あんたねえ、いくらホントの事でも、言っていい事と悪い事があるでしょ。空気読みなさいよ。好きな男子に他に好きな子がいるなんて、ショック以外の何ものでもないでしょ?」


「あっ! そっか、そうだよね」


「やっと、気づいたの? ほら、追いかけて。知香の機嫌直してきて」


「へーい」


 梓は反省したのか分からないような返事をすると、知香を追いかけていった。



「知香ちゃーん。ごめーん。ホントの事はいえ、ちょっと言い過ぎた。謝るからさぁ、一緒にお茶しようよ」


 猫なで声の梓の余計な一言に、またもやカチンとくる。


「はあ? わたし、帰るって言いましたけど?」


「そんなこと言わないでさぁ、知香ちゃんがいないと淋しいじゃん? ねえ、一緒に行こうよぉ」


 知香の手を握ってぶんぶんと左右に振る。


「知りません」


「しょうがないからさ、おごったげる」


「何が、しょうがないですか? しかも何気に上から目線だし。ホント、梓さんって無神経ですよね。帰りますから、離してください」


 失言しまくりの梓の手を勢いよく振り払うと、またずんずんと歩いていく。


「ちょっと、待ってー。知香ちゃーん。もうちょっと、スピード落としてー」


 梓はまたもや慌てて追いかけていった。


 二人のやり取りを聞いていた夏海が、 


「説得に失敗したみたいね。ホント、言葉選びが下手よねぇ」


 お手上げって感じで頭を軽く振った。 


「そうですよね、行きますか?」


「そうね。追いつく頃には仲直りしているといいけど」


「大丈夫ですよ。知香もいつまでも根にもつタイプじゃないし」


「それもそうね」


 夏海と真帆はのんびりと歩き出した。

 呆気にとられて言葉もない綾乃に、未希がこそっと話しかける。


「紫杏って、超進学校って聞いてたから、どんなお堅い人達の集まりかと思っていたら……個性派揃いだよね。おねえさまって言うのも、先輩に、さん付けなのも、特進の女子だけっていうし、なんか変わってるよね」


「……そうだね」


(思っていたよりも、随分違う気もするけれど、それでも……いっか)


 綾乃は未希と並んで、夏海達のあとをついていった。

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