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あの日の夏はまだ終わらない  作者: きさらぎ
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第11話 出会いの種かもしれない

(すっげ! うまい。確か、全中優勝者だったよな?)


 所詮は女子だとタカを括っていたら……裕幸は対戦している緋色をチラリと見ながら思う。ほっそりとした手足とすらりとした華奢な体からは考えられないような速さと力強さ。正確なショット。フォームもフットワークも華麗で、手本にしたいような美しさだ。


 春の選抜でシングルス優勝。

 その成績には満足している。すべてストレート勝ち。高校生の中で自分の相手になるやつはきっと数えるくらい。それはこれまでのバドミントン選手としての自信と自負。


 桜木緋色。

 彼女の相手をしようと思ったのはほんの好奇心で、たまたま出会った、一目ぼれともいえる出来事があったから……


 ここは男女同じ体育館を使っていても、練習中の接触はほとんどない。男子は全国区の実力があるので、女子部とは練習しない。女子部も敢えて男子部と関わろうとはしない。校内では人気ナンバーワンの男子部ではあっても、何故か部内の女子達の人気はイマイチなのだった。

 そんなところにきて、女子との試合。しかも全中優勝者でかわいい子となれば、手を上げずにはいられなかったのだ。


 監督に感謝!! 


(おれも大概、場数踏んでいるけど……場慣れしているというか、男の速さについていくって、普通じゃ考えらないよな。始めこそ手加減したけれど、なんでついてこれるんだ? 点数でもおれのほうが上なのに、圧倒的な有利さも変わらないのに、勝っている気がしないのはなぜだろう?!)


 上下左右、ヘアピン、ドロップ、クリアー、ロブ、スマッシュ、ドライブ等……多彩なショットを見せながら、冷静に裕幸の動きを見極める。理性的な緋色のプレイは、本能的に動く裕幸とは正反対のものだ。

 惜しげもなく実力をさらしているように見えるのに、まだ何かしら隠し持っているような。


 (面白いな)


 1ゲームだけじゃもったいない。

 裕幸は次第に本気になり始めた。


(強いな。藤くんも佐々くんも上手だけど……この人はもっと上手)


 緋色は目の前の対戦相手を目で追う。選抜大会のシングルス優勝者だと里花ちゃんは言っていた。なるほどと思う。

 サービスから、クリアー、ドライブ、スマッシュ、ストレート、クロスにカットと、レシーブ力も攻撃力も格段に上だ。予想しづらい、トリッキーな動きがこの人の特徴。

 実力的には敵わないにしても何かあるはず。動きには何とかついていける。その先のプラスα。1点でも多くとりたい。

 緋色もまた負けないために、考え、動き出す。 



********


「翔、ここにいたんだ」


 晃希は体育館の二階、観客席の最上段に座っている翔に声をかけた。


「ああ。晃希こそ部活は?」


 翔が、淡々とした口調で話しかける。


「休憩にはいったからね。こっちに来てみたんだ」


 晃希は翔の隣に座った。


「あれっ。緋色試合してるの? しかも男と。相手は、ユッキーか。なんか、男の声援すごいねえ。すっごい盛り上がってるじゃん」


 晃希は身を乗り出すようにして、明るい調子で思わず声に出した。翔はどっかりと椅子に腰かけ腕組みをしたまま、ムスッとしている。緋色を応援する男子の様子が気に入らないらしい。


(さっきから機嫌が悪いなあと思っていたら、これが原因か……)


 やきもちを焼いているようにしか見えない翔に、クスリと笑みをこぼす。

 昔からそうだが、緋色のことに関しては、彼は心が狭い。しかもその感情がそのまま出る。隠そうとしない。


 藤と佐々に初めて会った時も一言も口を聞こうとはしなかった。今でこそ話をするようになったが、それは必要になったからだ。

 緋色は中学の時からずっと騒がれていて、それはもう仕方のない事なのだから、もう少し鷹揚に構えていてもいいのにと晃希は思っている。

 

(でも、この騒ぎを見ていると余裕なんて言っていられないか)


 人を好きになるのは難しいようで、とても簡単でもあるかもしれない。ちょっとしたきっかけで容易く恋に落ちる可能性だってあるかもしれない。

 緋色だっていつかは……そう考えると、いつどこに、どんな出会いがあるかなんてわからないのだから。

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