魔王、目覚める。②
続きです。忘れていたわけではないです。転生課が優先なだけです()
ため息をついて崩れた玉座の破片を握ると、破片はパキンと音を鳴らして崩れてしまった。
石で作られた台座がこの程度で崩れてしまうほどの風化だ。下手をしなくても魔王城は立て直したほうが良いかもしれない。
今までは封印結界のお陰で形を保っていたのだろうが、このままでは些細な地揺れなどで倒壊しかねない。
資材についてもそうだ。反攻のために集めていた資材、糧秣などは軒並み駄目になってしまっているであろうことは想像に易い。
防衛と反攻に向けて兵を集めていたお陰で、人的資材に関しては問題ない。だが、これを良しとするかは別だ。なぜなら、それだけの兵を養えるだけの糧秣が無いのだから。
まずはこの世界がどれほど変化しているか確認し、地盤を整えなければならない。そう考えたからこそ魔王は側近に情報収集と城の修繕を頼んだ。
暫く待つと、側近が再びやってきて隠密を走らせたこと、そして城が修繕不可で有ることを話した。
「地精に確認を取らせました所、この城は老朽化による基礎の浸食が進んでおり、立っているのも不思議なほどだそうです」
報告に対して魔王は苦虫を噛み殺したような顔になる。
そして、重々しく、心底悔しそうに「やはりか」とだけ呟いた。
「城内に残るのは危険だそうです。魔王様の気持ちは察しますがここは退去の判断を……」
「仕方あるまい……。それで、資材の方はどうだった」
「全て、風化による腐食、浸食で使い物になりません」
「で、あるか……」
資材もなく、ただ多くの兵が居るだけ。これでは再起以前に、このまま魔王軍が崩壊しかねない。魔物は人と違い共食いだってしてしまう。食べる物が無ければ弱いやつを殺し、その肉を食らうだろう。
このまま城から避難するだけでは駄目だ。早急に食事を用意する必要がある。
そう考えながら魔王は側近と共に城を出た。すると、目の前には驚くべき光景が広がっていた。
「……ここは本当に最果ての荒野なのか?」
かつては草も生えない荒廃した大地が広がっていた魔王城の周りには鬱蒼とした森が広がり、結界によって作られていたであろう境目のせいでまるで魔王城だけが森の中に突然現れたかのようになっていた。
「おお!魔王様!もっとこっちに来てくれ、そこは危険じゃ!」
唖然とする魔王が呼び声に反応して振り向くと、城壁の外の一角が伐採され更地になっていた。どうやら一時的な陣を構築しているらしい。
混乱していた兵も居たはずなのに動きも早い。魔王は流石魔王直属の部隊だと感心した。
魔王を呼んで居た地精の元へ移動すると、まるで魔王が出るのを待っていたかのように城壁の一部がガラガラと音を立てて崩れた。
「……悲しいものだな。長年住んできた城を放棄せねばならんとは」
「仕方ないですじゃ。あのまま住んでいてはいつ倒壊に巻き込まれてもおかしくありませんだ」
「そうだな……。それで、周辺の調査は済んでいるのか?ここが最果ての荒野だったとはとても思えん」
「わしらもそう思っただが、地質調査から間違いなくここが最果ての荒野だった場所ですじゃ。少なくとも500年。もしかしたらもっと経っている可能性もありますだ」
「そうか、そんなに……」
無情な現実を突きつけられ、落ち込む魔王に地精は続けてこう言った。
「ですが、お陰で食料についてはなんとか出来そうですじゃ。現在、森の調査を兼ねて狩猟部隊を巡回させておりますだ。既にオニグルミやスダジイのような種子類が取れておりますだ。もう少しすれば狩猟部隊が動物を狩ってきてくれるはずですじゃ」
「それは良かった。一時凌ぎにはなりそうだな」
目下の問題であった糧秣がなんとかなりそうだと判り、魔王は喜ぶ。人的資材は居るのだ。食料さえなんとかなれば資材は集められる。
隠密部隊の方にはかつて魔王城の近くに有った街を廻らせている。魔王は一歩づつではあるが復興に向けて動けている実感を得ていた。