魔法使いの必殺技「呪術師魔術師許可局認定魔術 マサチューセッツ・パミョパミョ氏風 爆伐顎破ッ!!」
二人組の冒険者パーティーが、ゴブリンの群れに襲われた。
本来、この世界のゴブリンは無害で、亜人に分類されている。しかし、穢れや淀みの影響を受けると、異常種と呼ばれる凶暴な個体が発生するのだ。異常種ゴブリンにはメスが産まれず、人間の男を殺し、女を拐う化物だ。
この冒険者たちは、妖晶石の採取依頼で洞窟へやって来た。そこに異常種ゴブリンが巣くっていたのである。
「きゃっ!」
原始的な槍で脇腹を突かれ、剣士ラナがくずおれる。魔法使いザックが杖を振り上げた。
「ラナから離れろ、『火球』!」
「グギャ!」
「『風刃』!」
「ギィ!」
初級魔法の牽制に化物たちが距離を取り、二人の様子を伺っている。横たわるラナに駆け寄った。度重なる攻撃に服は裂け、傷を負った痛ましい姿である。
「『ヒール』」
「うぅ」
出血は止まったが、もっと高度な魔法でなければ全快には至らない。ザックは十分な魔力と技能を持っている。だが、クズリア人の彼には簡単な魔法しか使えない理由があった。絶望するザックへラナが弱々しく微笑みかける。
「凄いわ。全然、噛まなかったね、ザック」
「ラナァ!」
「ねえ、聞いて。あたしを置いて貴方は逃げて」
誰もクズリア人の魔法使いとは組みたがらない。古クズリア王国の王族が神の怒りに触れたため、クズリア人が魔法を使うには制限がかかるようになったと言われている。
彼らだけ呪文が言い難くなっているのだ。強力な魔法ほど難易度が高い。噛んだり詰まったりすると、最悪、攻撃魔法が自らにはね返る。
ラナはそんなザックと組んでくれた。銅級冒険者から上がれないザックを疎ましがらず、励ましてくれた。いつしかラナはザックにとって、かけがえのない存在になっていた。
「馬鹿野郎、大切な仲間を見捨てられるか!」
「ザック」
立ち上がって杖を構える。上級範囲魔法『爆頭裂光』を放つしかない。ザックの場合、恐ろしく呪文が言い難くなる。チャンスは一度きり。失敗すれば一斉に飛びかかってくるだろう。
――できるのか、俺に?
――違う、やるんだ。ラナのために!
極限まで集中し、カッと目を見開いた。ザックが起死回生の呪文を叫ぶ。
「くらえ! 呪術師魔術師許可局認定魔術 マサチューセッツ・パミョパミョ氏風 爆伐顎破ッ!!」
閃光が迸り、ゴブリンの頭が次々と破裂する。化物は全滅し、負傷した相棒の筋肉質な肩を支えて、無事、洞窟から脱出できた。
二人の冒険者は、男同士の熱い友情に涙したのだった。