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ルークス~最後の希望~  作者: 文月ゆら
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第一章 発生③

「この部屋の扉は前後の二つです。感染者はここから見えるだけで、五人。その半分が女性です。感染しているため、普段よりも力はないかもしれません。何かあっても、押しのけられるかも…。じゃあ、手順を説明します。まず、後ろのカーテンを半分だけ開けます。そして鍵を静かに開けて扉に手を掛けて待っていてください。私が前の扉を開けます。そしたら感染者は部屋の中に入ってくるはずです。感染者が中に入り始めたタイミングで、私たちは部屋から出ます。…上手く行くかは分かりませんが…」


 真理子の説明は理解できた。あとはそれを行うタイミングだ。三人は阿吽(あうん)のタイミングで行動を開始した。

 雅子と薫はカーテンをゆっくりとめくり、鍵を開け扉に手を掛ける。それを確認した真理子は前の扉の鍵を開ける。そしてゆっくり扉を開けた。それに気付いたのか感染者は唸り声を上げながら部屋に向かってくる。一瞬、腰が引けた。しかし、ここから出ると言う強い気持ちが真理子の体を動かす。二人の感染者が部屋に入らない…このまま部屋から出れば、その感染者と鉢合わせする。一か八か音を鳴らそうか…。その時、真理子の脳裏には薫の言葉が浮かんだ。


(まるでゾンビみたい…ゾンビなら音に寄って来るはず…)


 そうか!音だ!真理子は激しい音を立てた。それに気付いたのか感染者は真理子を見る。そして真理子めがけて向かってきた。真理子は廊下の感染者が部屋に入ったのを確認すると、一目散に部屋を飛び出す。

真理子が部屋から出たのを確認すると、薫と雅子は急いで扉を閉めた。感染者は扉の開け方を知らない。鍵は必要ない。

部屋から慌てて飛び出した真理子は、床に膝をつき肩で呼吸をしていた。


「はぁ…はぁ…あ…上手く行った…」

「マリちゃん!あなた、本当にすごいわ…今度は私があなたに助けられた。ありがとう…」

「おばちゃん…。あ、早く地下に避難しましょう!」


 真理子は監視カメラの映像を確認し、タイミングを見ながら承認部門へと歩いていく。雅子と薫は真理子のあとを素早くついていった。

三人は承認部門へ行き、部室の下にある地下の扉を開ける。そして薄暗い階段を下りて行った。長い廊下が目に入る。通路を進み、十字路へたどり着いた。


「ロッカーだ…私のバッグがある…」


 よく見ると部門ごとに設置されているロッカーの扉が開いている。バッグが残されている人のは、恐らく感染者だろう。“人間”ならバッグを取りに来ている。ここにバッグが残されているとすれば、それは感染者で間違いないだろう。


「装具を着けて、早く合流地点へ行きましょう!」


 雅子の声につられ、三人は装具を身に着け始めた。そして、通路を進んでいく。合流地点があるのは、ちょうど施設の真ん中にあたるエレベーターホールだ。このエレベーターは地下から屋上のヘリポートまで行けるものだ。直通ボタンを押してから階数ボタンを押すと、各階に止まることなくその階まで直通でたどり着くことが出来ると言う優れものだった。

 合流地点へとたどり着いた三人は、エレベーターのボタンを押す。しかし反応しない。真理子はパソコンを操作しセキュリティシステム画面に切り替える。施設内のセキュリティを確認すると、エレベーターにロックが掛かっていた。


「ダメだ…外せない…相田さん!エレベーターのロック解除、分かりますか!?」

「わ、私には分かりません…」

真理子はパソコンを操作する。しかし、いくらロック解除を試みても外せなかった。


「りちゃん…マリちゃん…」


 雅子に呼ばれていることに気付いた真理子は、急いで雅子の方を見る。彼女の視線の先には感染者だ。装具を付けた感染者がそこにはいた。


「そんな…せっかくここまで来たのに…」


 真理子はもう諦めかけていた。ここまで何とかやってこれた。しかし目の前には、かつて"人間"だったはずの仲間の変わり果てた姿。

真理子は視界だけでなく、頭の中にも(かすみ)が充満しているかのように、思考が停止した。もう諦めるしか…。そう思った矢先、軽快な音と共にエレベーターの扉が開いた。

その音に反応した三人と大勢の感染者たち。しかし人間の方が速かった。真理子たちはエレベーターに乗り込み、ボタンを押そうとする。まだ手を触れていないのにも関わらず、エレベーターは勝手に動き始める。誰かが操作してる…もしかして、西条さん…?霞が充満した頭を振り、真理子は必死に頭を働かせる。


「到着階は七階…屋上じゃない…?」


 すぐさま、ノートパソコンで監視カメラの映像を確認する。そこに感染者はいなかった。真理子たちの視界に入ってきたのは、テロ対策の装具を身に着け、自分たちを待っている非感染者…仲間の存在だった。その中央にはまるで戦場で戦う軍を引き連れた、西条の姿だった。手にはパソコンが…操作しているのは西条だった。


「西条さん…」


 真理子は目頭と心が熱くなるのを感じた。そうだ…ここで諦めちゃいけないんだ。無事にみんなの元へ戻って、今のこの状況を把握する。そして"X"の正体を突き止めなければ。真理子は自分を奮い立たせた。

 エレベーターが七階で止まった。ゆっくりと扉が開き、明るく広いフロアが目に入る。


「マリちゃんっ!!」


 研究員たちの真理子を呼ぶ声が聞こえた。真理子は仲間の元へ走っていく。雅子や薫もそれぞれの仲間を見つけたようだ。


「ここにいるのが全員ですか…?」

「…そうだ。我々がこの施設の非感染者、すなわち生存者だ…」


 力なさげに答えた林田の気持ちを痛いほど理解できる。真理子が所属する研究部門の仲間も何人かいなかった。全員が助かったわけではなかったのだ。


「西条さん…エレベーター、ありがとうございました。助かりました…」

「え…?エレベーター?…何のこと…?」


 真理子は西条の態度に驚く。エレベーターを操作したのは西条ではないと言うことなのか。そうだとすれば、一体誰が…。


「西条さんではないんですか?…私がエレベーターのロックを外せなくて諦めた時、エレベーターが開いたんです。そして、七階のボタンが押されてました。監視カメラの映像を確認したら、パソコンを持っている西条さんの姿が見えて…。てっきり西条さんかと…」

「ごめん…。俺じゃないんだ。けど、無事で良かった。誰か分からないけど、ここまで無事に君を連れてきてくれた人に感謝だよ…」


 西条は再び真理子と会えた喜びを噛み締めていた。そこへ、雅子が近づいてくる。


「中原さん…ご無事で良かったです。彼女を、安藤さんをここへ連れてきてくれて感謝します…」

「いいえ…私がここへ連れてきてもらったのよ。一度は私が助けた。でもその後からはずっと、私とセキュリティ部門の相田さんを守って助けてくれたの。私の方が感謝しないと」


 喜びを分かち合えたのは束の間だった。建物の外から聞こえてきた大きな爆発音。その音に驚き、一同は悲鳴を上げた。林田たち数人が窓に近づく。


「爆発だ…」

「地上が火の海だ…」

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