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ルークス~最後の希望~  作者: 文月ゆら
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第一章 発生①

そろそろ物語は新たな展開を迎えます。

ホラー的要素が少しずつ入ってきますので、苦手な人はこれ以上読み進めるのを控えてくださいね。

 未知なる新種の病原体“Ⅹ”を検出してから、三時間半が経過した。ULI職員は、総理の報告を受け、各自が避難の準備を整えていた。

 研究所の外で何が起きているのか今、この時はまだ誰も知らなかった---。

「それぞれ準備は整ったか?大型の荷物はこっちでまとめて名前を書くから持ってきてくれ…」

 宗田がそう言ったとき、どこからともなく轟音が聞こえてきた。まるで地面が唸り声を上げているかのように、振動が伝わってくる。

「この音は…!?」

「どこから聞こえてるんだ!?」

 あたりを見回す研究員たち。「…飛行機…」真理子が呟いた。その声が聞こえたのか、林田が窓に近づき、そっとカーテンを開けた。人一人が覗けるくらいの隙間から見えたそれは、ULIの建物をすっぽりと取り込んでしまいそうなくらいの大きな飛行機だった。

 期待の腹側にある扉が開いたかと思えば、何やら液体が零れている。大きなノズルがすっと降りてきて、その液体を霧状に変化させ町中に噴霧した。辺りは一瞬にして霧に囲まれ、一メートル先も見えない状態だった。霧はULIの窓ガラスにまで到達し、意思を持った昆虫のように張り付く。

「みんな、窓から離れるんだっ!」

 何かの異変に気付いたのか、西条が大声をあげた。

「部長、感染者です!窓の外に感染者がいます!」

「え…感染者!?どこだ!?」

 西条は林田を連れて窓へと近づく。その後を追うように真理子も近づいたが、「君は来るんじゃない!」と止められてしまう。

「感染者はどこにいるんだ…?」

「あのビルの下です。ここから一時の方向…」

 西条は指で表し、林田の視線を感染者へと向ける。

「あ…」

 林田は声にならない声をあげた。何かに驚き、言葉が出ないようだった。

「み、みんな…マニュアル通りに行動しよう…恐らく避難誘導が来るのはもっと時間が掛かる。だから、それまでマニュアル通りに動くんだ…」

 林田はそう言って、【ULI緊急時対応マニュアル】を机から取り出し、目次を開く。

「どこだ…どれなんだ…今のこの状況に対応するページは一体…」

『職員に告ぐ、これは訓練ではない。現在、町中で暴動が発生。職員は身の安全のため避難を開始してください。軍隊が到着するまでマニュアルにある行動を取るように…繰り返す…』

「暴動…?暴動で避難なんてするか…?」

「恐らく、感染者のことを指しているんでしょう。」

「一体、どうなってるんだ…家族は大丈夫なのか…」

 そんな声が部屋のあちらこちらから聞こえてくる。

「あ、あった!これだ…“異常事態発生時は二人一組で行動することを原則とする。また、施設内地下に保管・常備してある避難装具・対バイオテロ装具を身に着け、緊急時非常食を各自持参。軍隊を待て。また、政府がバイオテロ非常事態宣言を発令した際は、マニュアル三八〇頁に則り行動するように。”と書いてある…。これは…バイオテロ…なのか…?」


 背筋がぞっとした。未だかつてバイオテロなんて事態は経験したことがない。今の日本はバイオテロとは無縁だと思っていた。“政府がバイオテロ非常事態宣言を発令した際は…”この言葉が研究員の頭の中をかき回す。

「家族に連絡をしないと…」

「俺もだ…妻と子供が…」

「わ、私も…」

 西条と真理子もインターネットメガネを装着し起動させる。昔のような携帯電話やスマートフォンは廃止され、企業で使用する以外の連絡手段はこのインターネットメガネに変わった。装着し起動させると、自動で腕に着けているICチップと連動する。すると個人の画面が開く。あとの操作はすべて視覚だ。目で操作できるのだった。もちろん、ICチップと連動させているため手動でも使用可能だ。


「繋がらない…インターネットメガネが使えない…」

「あ、俺もだ…」

 インターネットメガネの画面には“Unusable(使用不可)”と文字が出ていた。

「ICチップと連動しているインターネットメガネが使用できないって…政府が何か制御しているんですかね…」

 誰かが呟いた。声のしたほうを見ると、牧野だった。「牧野、それってどういうことだ?」林田が尋ねる。

「いや…私の父はインターネットメガネを統制している企業に勤めていまして。一度だけ、愚痴をこぼしていたことがあるんです。“政府だけがインターネットメガネを使用不可にできるようにプログラムしろだなんて無茶だ”って。ご存知の通り、インターネットメガネはICチップと連動できる国民のツールの一つです。それを政府が管理できるようになるってことは…」

「政府が俺たちを管理しているってことか…」

「はい…。それと、もし以前に父がこぼした愚痴が今回と関係あるとすれば、今起きているこの事態は、政府が計画したものかも…」

「計画か…陰謀か…」

 まさに非常事態だった。建物の外には感染者、建物の中でも家族と連絡が取れない…今、この建物にいる研究員たちが出来ることはマニュアル通りに行動し、軍隊を待つことだけだった。


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