第一章 異変②
ULIは円形状のオフィスで、全部で七階建ての建物だ。階ごとに行われている業務は分かれており、その中でも部門ごとにオフィスが分かれているという完全隔離されている会社だった。窓は全面硬質ガラスでできており、銃弾も跳ね返すとか…。
真理子が所属している部門は研究部門だ。ここでは、環境や生物が人体に及ぼす影響を分析している。そして、その研究結果を解析部門に報告し、ICチップとの連携を図るというものだった。
真理子が自分のオフィスへ入ると、「あ、おはよう!また、バリバリ働いてもらうよ~」と課長の宗田史郎が言った。真理子は笑顔で返事をすると、デスクへ行きパソコンを起動させる。ふと雅子の言ったことが気になり、配信サービスの国営ニュースを読んだが、彼女が言っていたニュースはどこにもなかった。
「関東と連絡が取れないんだっけ…だから、ニュースもやってないのかな…」と、特に気にも留めなかった。
「マリちゃん、ちょっといい?この分析なんだけど…」
宗田に呼ばれ真理子は課長のデスクへ急ぐ。
「この分析なんだけど、マリちゃんに頼める?関東から送られてきたサンプルなんだが、どうも結果がおかしくて…。自然界に存在するものではなさそうなんだ…」
「分かりました。急ぎで分析してみます」
真理子は宗田から資料とサンプルを受け取ると、研究室へと向かった。その時、轟音とともに飛行機が町の遥か上空を飛んでいることに気づいた。
「飛行機…?」
宗田に頼まれた分析を急ごうと、彼女は特に気にも留めず、研究室へ入っていった。パソコンの前に座り、電源を入れ起動させる。職員番号、パスワードを入力し解析画面を開く。パソコンの隣にある分析装置を起動させ、サンプルの情報をパソコンへ入力する。そして白衣、マスク、ゴーグル、手袋を身に着け、手には宗田から渡されたサンプルを持ち、部屋の奥にある分析室へと歩いていく。
「えーっと…“このサンプルは関東の土壌から採取したもの”か…」
分析室へと入っていった真理子は、呟きながら分析を進めて行った。
「あ、マリちゃんおはよう。もう体調はいいの?」
「あ、西条さん!はい、もう大丈夫です。またよろしくお願いします」
真理子に西条と呼ばれた人物は、名前を西条隼人と言う。精悍な顔立ちで身長も高く、俗にいうイケメンという男性だった。お互いまだ気付いていないが、二人とも両想いだった。
二人は会話をしながら、各自のサンプルを分析していく。そして、西条が何かに気付いた。
「マリちゃんさ、それって関東のサンプルなんだよね?」
「あ、はいそうです…関東の土壌から採取したそうで…これがどうかしましたか?」
「いや…俺も頼まれたんだよ、関東のサンプル。俺は水と人体から採取したそうなんだが…おかしいんだよな。このサンプルには細菌類が含まれているんだが、形がウイルスともとれるんだよ…今は細菌かウイルスかを分析してるんだけど」
「ウイルスか細菌か…ですか…」
真理子はそう言ってパソコンに目を移した。そして電子音と共にサンプルの分析が終わった。
「西条さん!これって…」
「そっちも俺と同じか…。それ、既存の型と合うか?」
西条にそう言われた真理子は「やってみます!」と分析結果の型と既存の型が一致するか調べ始めた。その時、施設内に放送が響いた。
『全職員に告ぐ、これは訓練ではない。直ちに各自部室へ戻るように。繰り返す、全職員に…』
放送はそこで途切れた。
「この声って、所長ですよね…?」
「そうだな…とりあえず、サンプル結果だけ持ってオフィスに戻ろう。データはバックアップ取ってるし、メモリに保存すればいい」
西条はそう言って真理子を手伝い、急いでオフィスへと走っていく。
「あ、西条君、マリちゃん!良かった…二人がなかなか戻ってこないから心配したんだ」
「遅くなってすみません。あの、部長…これってどうなってるんですか?」
「いや、私にも分からなくてな…。所長が緊急放送を流したから、とりあえず皆をここへ集めてるんだ」
部長の林田宗太郎はそう言うと、自分のデスクから何やら分厚い冊子を取り出した。【ULI緊急時対応マニュアル】と書かれた背表紙が見える。この会社で唯一紙なのは、このマニュアルだけだった。
「久しぶりに紙を触ったな…破いてしまいそうだよ…」
林田はそう言いながら、マニュアルの目次を開く。
「…行かなきゃ」
真理子の呟きに西条が反応した。
「へ?マリちゃん、何か言った?」
「西条さん、さっきの結果が出たみたいなんです」
真理子はそう言って、自分のパソコンを西条に見せた。
「実は自分がサンプルの分析をしたとき、分析結果が出たら、私のパソコンに通知が来るようにプログラムしてあるんです」
“The analysis end,An analysis result was given.”と画面に出ていた。
「マリちゃん、今のこの状況でラボに戻るのは危険だ。何が起きてるか分からないんだ。サンプルならほかにもある。だから…」
「あのサンプル、何か特殊なんです!細菌でもない、ウイルスでもない…だったらあれは一体何なのか突き止めないとっ!」
真理子はそう言って部室を飛び出した。その後を慌てて西条が追う。