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シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~  作者: 葵刹那
第三章 富国編
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第14話 軍団編成

 俺はナルディアから届いた知らせに心底驚いていた。もちろん同盟ではなく妊娠のことである。


「えっ!師匠妊娠したの!!おめでとうジーク様!」


「ジーク様おめでとうございます」


「先生おめでとうございます」


 この知らせをハンゾウ、キキョウ、ムネノリの三人に話すと自分のことのように喜んでくれた。


「でも師匠が帰ってくるまで時間かかるんだね。それはちょっと寂しいかな」


「ナルディア様が帰ってくるまでちゃんと訓練するんだぞ?」


「お兄ちゃんに言われなくたってちゃんとやってます~!そんなお兄ちゃんだって早く結婚しなよ」


「なっ、それは」


 ハンゾウがキキョウを注意すると、思わぬ言葉が出てきてハンゾウが動揺している。


「安心しろ、ナルディアがハンゾウとテリーヌの結婚式をちゃんとあげるようにとわざわざ書いて寄こした。戻ってきたらすぐに式を挙げられるよう準備しておこう」


 俺の言葉にキキョウがニヤニヤしながらハンゾウを見つめる。


「ジーク様、お心遣いありがとうございます」


「気にするな。盛大におこなうことは難しいだろうが、せめて身内で楽しい式を挙げようじゃないか」


「ちぇーいいなあお兄ちゃんは結婚出来て。私だって結婚式あげたいもーん」


 さっきまでニヤニヤしていたキキョウが今度は拗ねる。こっちの世界でも結婚式は憧れなのだろうか?


「こればかりは縁だからな。そのうちキキョウもいい人が見つかるかもしれないぞ?」


「乱暴な妹をもらってくれる人がいればいいのですが・・・」


「あー!お兄ちゃんひどーい。私は乱暴なんかじゃありませーん」


 俺としては何気なく言ってしまったことだが、ハンゾウのいうことはごもっともである。乱暴というと語弊があるかもしれないが、最前線に立つ将軍であることを考えると、なかなか貰い手が見つからないかもしれない。やっぱり俺が探した方がいいのかな・・・なんて思ったが、しばらくは政務で余裕がなさそうなので、落ち着いたら探すということで保留にする。ともあれ、これでナルディアが子どもを産むまで俺一人で政務をおこなうことが決定した。父親になる実感は湧かないけれど、生まれてくる子どものために頑張ろうと心に誓う。


ーーーーー


 一週間ほど経つと、ヒューズが求賢令に関する草案を持ってきた。俺はそれに目を通し、改善点をあげる。それを何度か繰り返し、三週間で公表できるレベルまで仕上げることができた。求賢令を国中へ知らせると、こぞって様々な人材が押し掛けたという。才能ある者をどれだけすくい上げられるかがヒューズの腕の見せ所だろう。


「ジーク様」


 執務室で政務をおこなっている俺のところにハンゾウがやってくる。ハンゾウが来るということは何かあったのだろう。


「なにがあった」


「鍜治場のことを聞いて回る不審な人がいます。配下に追跡させていますが、どういたしましょうか」


 それは十中八九サミュエル連邦が送り込んだ密偵だろう。鍜治場に目をつけるということは・・・いうまでもなく焙烙玉か鉄砲の情報が目当てだろう。


「今すぐ捕まえて尋問しろ。一人で入り込んでいるとは思えないから、その仲間もまとめて捕まえるんだ」


「わかりました!」


 俺が命令してから二時間ほど経った頃だろうか。ハンゾウが戻ってきた。


「申し訳ございません。捕まえようとしたところ、自決しました。おそらく毒によるものだと思われます」


 ハンゾウは悔しそうに報告する。俺としては生きたまま情報を引き出せるのが最善だが、死んでしまったのであれば仕方ない。サミュエル連邦から偵察に来ていたとみて間違いないだろう。


「ハンゾウのせいではない。あれだけ戦場で使えば探られるのなんて時間の問題さ。それよりも情報が漏れた様子は?」


「鍜治場はジャンたちに守らせております。漏れる心配はないです」


 ジャンは俺とナルディアが旅行したときに出会った野盗の頭だ。いまではハンゾウの部下として真面目に働いている。


「そうか、それなら何よりだ。警戒を強めておいてくれ」


「はっ」


 サミュエル連邦がこちらを警戒しているのはあまり良い状況ではない。幸いなのは、ウェスタディア帝国がサミュエル連邦に攻撃を仕掛けており、こちらを攻撃する余裕がないことだ。もっとも、うちも向こうも戦ばかりで国が疲弊しているのが大きな理由だが。そんなことを考えていると、新たな報告が上がってきた。


「申し上げます。サミュエル軍とウェスタディア軍が交戦し、プレストン城を失ったとのことです」


「誰か、地図を持ってこい。詳しく話してくれ」


「はっ」


 俺は地図を広げ、詳細な情報を確認する。報告によると、プレストン城を落としてウェスタディア軍30万は二手に分かれたそうだ。片方はリブル川で援軍に来たサミュエル軍に敗北し、城に籠ったという。もう片方はウスター城を落とし、ハンスタントン城に迫るも撃退され、本国へ撤退したらしい。ウェスタディア軍がせっかく落としたウスター城だったが、ウェスタディア軍の装備を着たサミュエル軍の兵士にまんまと裏をかかれてあっけなく失ってしまったらしい。


「サミュエル軍がウェスタディア軍に偽装してウスター城を落とした?」


「はっ、どうやら本国へ撤退途中のミネバ率いるウェスタディア軍とサミュエル軍が交戦し、ウェスタディア軍が窮地に陥っているという偽りの報告をウスター城の守将に告げたようです。その兵たちはウェスタディア軍が使う正規の軍装を身にまとっていたため、守将はその兵たちを受け入れるために疑うことなく城門を開きました。サミュエル軍はその隙をついて、一気に城へなだれ込み、あっけなく陥落したようです」


「その指揮官は誰だ」


「はっ、新元帥のモーリスとのことです」


「モーリスか・・・。ご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」


「ははっ」


 俺は改めて大陸の地図を眺める。ウェスタディア軍は30万もの大軍で攻めた割にはプレストン城しか成果があがっていない。これはウェスタディア軍があまりにも弱いのか、モーリスがよほどの戦上手なのか、どちらにしても華々しい戦果とは言えない。ヘルブラント城を急襲した時もそうだが、モーリスの手際は見事としか言いようがない。そんな智略を持つ優れた人が元帥である以上、サミュエル連邦の攻略は一筋縄ではいかなそうだ。


「誰かいるか」


「はっ」


「メイザース将軍を呼んでくれ」


「ははっ」


 しばらくするとメイザースがやってきた。軍事長官の任を預かるメイザースは、軍部を束ねる将軍として全軍を預かっている。


「お召しにより参上いたしました」


 メイザースは跪いて頭を下げる。


「最近の軍はどうだ?」


「はっ、順調に訓練をおこなっております」


「そうか、それはなによりだ。今日呼んだのはほかでもない。俺は方面軍を設立しようと考えているが、どうだろうか?」


 現在は、シャルナーク王国の北側は旧ベオルグ公国領を含めてアルメール城にいるナシュレイが防衛に当たっている。ヘルブラント城とナミュール城はシャルナーク王国の南に位置していることから、有事の際はすぐに救援することができないのである。そこで、北方軍、南方軍というような具合にそれぞれが自由に動けるよう軍団の創設を考えている。


「はっ、左様でございますか・・・。そういうことであれば拙者と国王陛下がそれぞれを統率するのはいかがでしょう。地図はございますか?」


「誰か、地図を持ってきてくれ」


 メイザースの提案を受けて、地図を用意させる。例によって俺の親衛隊が準備する。そのうち身の回りの世話を担当する近習を雇う必要があるかもしれない。


「書き込んでもよろしいでしょうか?」


 俺が頷くとメイザースは筆を持ち、城の名前を丸で囲む。


「これらの城は拙者が、残りのナミュール城周辺を国王陛下が統率するということでいかがでしょう?」


 メイザースの提案をまとめるとこうだ。俺はナミュール城近郊の城(ヘルブラント、クヌーデル、アインタール、アストルガ、カディス、クエンカ、ウェルバ)をまとめ、残りがメイザースの支配下となる。


「これが妥当だろう。ナシュレイは俺の補佐にしたいが構わないか?」


「はっ」


「わかった。それではメイザースを征東大将軍に任じる。もちろん軍事長官との兼任だ。正式な辞令は後ほど宰相府の者に書かせる」


「ははっ、身命を惜しまず任務に当たりまする」


 征東大将軍とは臨時で設けた役職だ。その名の通り、シャルナーク王国の東側(サミュエル連邦およびウェスタディア帝国)の征服を目的としている。また、宰相府は俺が直轄する組織だ。俺が宰相を名乗るにあたって設けた組織である。財務部を始めとしたすべての組織に対する介入権があり、法律関係以外の辞令を始めとした文書の作成をおこなう。俺の分身に等しい組織といっても過言ではない。


「管轄の城で何かあれば俺の許可なく出兵していい。軍事長官としての職務もあり、大変だと思うがよろしく頼む。時期が来たら俺とメイザースの二方面からサミュエル連邦を攻めることになるだろう」


「ははっ、お任せください」


 メイザースは軍事長官として軍部の人事権を握っており、それに加えてシャルナーク王国が領有する半分以上の城の兵権を持つこととなった。これほどの力を持たせるのは妥当だろうか。俺はそう自問するが、メイザースは先王ティアネスからの忠臣であり、俺の力をよく知っているはずだ。ナルディアがいれば良いアドバイスを貰えると思うが、いない以上は俺一人で判断するしかない。間違っても反乱などという愚かなことはしないだろう。

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