【筆者解説】第6話(財務諸表の基本概念)
皆さんこんにちは。葵刹那です。二回目の筆者解説に入りたいと思います。案の定、解説の方が本文より長くなりましたので、第6話とは分けてお送りしたいと思います。本編と直接的な関係はないので、興味のない方は飛ばしてください。
さて、今回取り上げるテーマは財務諸表です。株をやっている人、会社で働いている人、これから就職する人、大学や専門学校で勉強している人、事情は人によって異なると思いますが、誰であっても必要?だろうと思われる知識は会計に関する知識です。
おそらく会計について多少の知識を持つ人は、会計という呼び名よりも「簿記」の方がなじみ深いかもしれません。日本商工会議所が主催する簿記検定試験は毎年多くの方が受けられていると思います。
実際問題、会計に携わる人間からすると、どうやって会計の知識を広めるかが課題だったりします。大学で会計学や簿記論等を教えていらっしゃる先生方も「本当は理論から教えるべきだけど、やっぱり筋トレ的に簿記を教えるしかないんじゃないか」なんて日々頭を悩ませている問題です。そこで私なりに考えたのは、こうしてラノベの中に取り入れてみることでアレルギー反応を起こさずに会計を勉強できるんじゃないか?ということです。
さて、ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、さっそう本題に入りましょう。今回は数ある財務諸表のうち、貸借対照表と損益計算書を取り上げたいと思います。ちなみに、第6話でジークが言っていた決算書とは、財務諸表のことを表しています。
《そもそも会計って?》
会計(Accounting)は、簡単に言ってしまうと「あらゆる経済活動をお金で測定して、報告しよう」という一連の手続きのことを言います。
シャルナーク戦記の世界で考えてみましょうか。第6話で取り上げたように、ヘルブラント城の壊滅は数多くの痛手をシャルナーク王国にもたらしました。奪われているもの、壊されているものはあるけど、どれくらいの価値が失われてしまったのかわからない。そんなときに役に立つのが会計です。
ヘルブラント城の王宮を例に考えてみましょう。王宮が出来上がった当時の価値が100だとします。その資産価値は、使えば使うほど減少します。新品と中古の差ですね。毎年価値が5ずつ減るとして、サミュエル連邦が攻め込む前の価値は30だったとします。
「お前たち、徹底的にやっちまいな!」
「「「おおぉぉー!」」」
リエラ中将の命令でヘルブラント城の王宮の価値は限りなくゼロになりました。さて、今後も使えるはずであろう王宮は使えなくなりました。これを会計的に捉えるとどういうことになるのでしょうか。そうです。30の資産価値が0になったので30の損失が発生したのです。このように、会計はあらゆる経済事象を金銭的(専門的にいえば貨幣金額)に捉えることができるのです。
余談ですが、皆さんが動物園や水族館で目にする動物や魚たちも会計上は資産として何らかの価値を持ってたりします。主に税金を計算するためですが。これからは、あのシロクマさんは○○円の価値があるんだよ~なんてことを考えながら見てみると新しい発見があるかもしれません。嘘です。このノリをわかってくれる人以外に話すのはやめましょう。幻滅されるのが関の山ですから。
《財務諸表の構成要素》
財務諸表は、主に6つの要素で構成されています。資産(Assets)、負債(LiabilitiesまたはDebt)、資本(Capital)、収益(Revenue)、費用(Expenses)、純利益(Net income)です。文献によっては、純利益を除いて5つの要素で構成されているという見方もありますが、ここでは6つの要素として紹介します。
資産はざっくりと分けると現金、売掛金(いわゆるツケってやつ。スマホの本体代を24回払いとかもツケにあたります)、棚卸資産(商店であれば、販売するための商品が該当します)、固定資産(建物や車両、備品など)で構成されています。また、資産の中でも一年以内に現金化できるであろう資産を流動資産、一年以上現金化されないであろう資産を固定資産といいます。シャルナーク戦記の例でいけば、国が保有する金貨などは流動資産にあたり、王宮や城といった建物は固定資産に分類されます。
負債は一言でいうと、他人からの借金です。この負債においても一年以内に返済されるで推定される負債は流動負債、一年以上返済されないと推定される負債は固定負債に分類されます。まとめると、一年以内に支払わないといけない借金は流動負債、一年以上あとに支払わないといけない借金は固定負債になります。
資本は、簡単なようで難しい概念かもしれません。またの名を自己資本、株主持分、純資産なんて言ったりもします。純資産っていう言い方があるように、純粋な資産を表します。資産から負債を引いて、残った金額がその組織が持つ純粋な資産、すなわち資本ってわけですね。
ここまでに説明した資産、負債、資本は、貸借対照表(Balance Sheetと呼ばれ、B/Sと略されます)の主な構成要素にあたります。詳細は貸借対照表のところで触れることにします。
収益は、売上高などの事業活動によって得られた金額を意味します。ジークがナルディアと共にサミュエル連邦の首都ミスリアへ向かっていた途中に両替商が出てきたと思います。両替商であれば、両替手数料が収益になります。行商人であれば、販売した商品が収益になるというわけです。
費用は、その売上を得るために支払った金額を意味します。先ほどの両替商の例でいけば、両替で稼ぐためにたくさんのシャルナーク金貨やサミュエルドルを準備する必要がありますね?そのためにかかった金額が費用というわけです。カジノであれば、勝ったお客さんには勝った分だけのお金を支払う必要があります。さらに、ディーラーや建物もカジノを営業するために必要です。そういった収益を得るためにかかった金額が費用にあたります。
純利益は、一定の期間(専門的には会計期間といいます)の収益から費用を引いた残額を表します。すなわち、一定期間でどれだけ利益が得られたかを純利益から理解することができます。例によって、先ほどの両替商を例にしてみましょう。両替商はジークから3%の利益を得ました。その金額を100としましょう。そこからサミュエルドルの用意にかかった金額、両替商の店の維持費を合わせて90と仮定します。さて、両替商の手元にはいくら残ったでしょうか。そうです。10が手元に残りました。純利益は10ということです。簡単な計算は以下の通りです。
100(収益) - 90(費用) = 10(純利益)
ここまでに説明した収益、費用、純利益は、損益計算書(一般にProfit and loss statementと呼ばれ、Income statementまたはStatement of Incomeともいいます。P/Lと略されます)の構成要素です。
《貸借対照表》
貸借対照表は、資産、負債、資本で構成されていることから、とある時点における静止画またはスナップ写真といわれています。つまり、その時点での経営状況を表しているのです。資産、負債、資本の関係性については、以下のような式で表すことができます。
資産 = 負債 + 負債
負債 = 資産 - 資本
資本 = 資産 - 負債
これらの関係を貸借対照表でざっくりと表すと以下のようになります。貸借対照表を見ることで、組織がどのような資産を持っているのか、資産のうち、どれくらいが借金で構成されているのかを見ることができます。
貸借対照表
―――――――――――
│ 負債
資産 │
│ 資本
│
また、資産のある左側のことを借方(Debit)、負債と資本のある右側を貸方(Credit)といいます。この、借方と貸方の合計金額が必ず一致することを「貸借一致の原則」と呼びます。第6話ではムネノリが少しだけこの話をしていました。
《損益計算書》
損益計算書は、一定の期間にどれほどのをあげたのかを表しています。損益計算書では、費用収益対応の原則という原則があり、この原則こそが一定期間における損益計算(いくら儲かったのか、いくら損したのか)を可能としているのです。なぜこのような原則があるのかを例で考えてみましょう。
〈例〉
サミュエル連邦は、清酒を販売するために酒蔵を建設しました。この酒蔵は20年にわたって使用する見込みで、建設に500サミュエルドルがかかりました。この酒蔵を使用することで、毎年100の収益、原材料費50の費用が見込まれています。ここでは会計期間を1年で区切っています。さて、サミュエル連邦はどのように損益計算をすればいいのでしょうか。
計算式:売上 - 費用 = 純利益または純損失(△は赤字という意味です)
パターン① 1年目:100 - (500 + 50) = △450
2年目以降:100 - 50 = 50
パターン② 毎年:100 - (25 + 50) = 25
さて、パターン②の25という数字はどこから出てきたのでしょうか。それは、建設費500サミュエルドルを20年で割った金額です。これを減価償却といいます。もしあなたが経営者であった場合、パターン①と②の数値のどちらが信用できますか?
パターン① ➔ 建設費をすべて1年目に負担させる。
パターン② ➔ 建設費を分割し、毎年その費用を負担させる。
パターン①では、1年目が異常な赤字になります。なお、損失の出た純利益は、純損失(Net loss)といいます。その点、パターン②はどうでしょうか。1年間に得られた収益にどの程度の費用がかかっているかが一目瞭然だと思います。得られた収益が費用より大きければ純利益となり、得られた収益が費用より少なければ純損失となります。これが費用収益対応の原則の考え方です。パターン①のように、一定期間の収益と費用が対応していない場合、その期間の適切な損益計算はできません。一定期間(ここでは1年間)に得られた収益は同じ期間に支払われた費用と対応していなくてはならないというわけです。
ここまで見てきたものは、損益計算書において以下の2パターンで表されます。借方は費用、貸方は収益を表しており、貸借対照表でもお話しした貸借一致の原則が適用されます。純利益が出た場合は借方に、純損失が出た場合は貸方に記載されます。なお、第6話で登場した特別損失は、損益計算書の費用にあたります。そのため、その年のシャルナーク王国の会計報告は大幅な純損失が計上されることでしょう。
損益計算書
―――――――――――
費用 │
│ 収益
純利益 │
│
貸借対照表
―――――――――――
│ 収益
費用 │
│ 純損失
│
このほかにも損益計算書には、営業損益、経常損益、税引前当期純損益といった単語が登場しますが、段々と煩雑な内容になるためここでは触れません。もしご興味があれば、簿記のテキストや財務会計のテキストをご覧ください。
解説は以上です。今回は財務諸表の基礎概念について解説しました。財務諸表は会計の基礎にあたる部分ですので、簡単な概念であっても知っているのと知らないのとでは大きく違います。私としては、これを機に会計に興味を持つ人が一人でも多く増えてくれれば思っております。それでは引き続き、シャルナーク戦記をお楽しみください。
【参考文献】
・ロバート・C・ヒギンズ著,グロービス経営大学院訳(2015)『ファイナンシャル・マネジメント改訂3版』ダイヤモンド社。
・藤井秀樹(2017)『入門財務会計第2版』中央経済社。




