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シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~  作者: 葵刹那
第二章 ナミュール城主編
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第24話 王位継承

 ティアネス亡き後、国の立て直しを思索する俺は、その第一手としてナルディアのもとを訪れた。もっとも俺と同じ部屋に住んでいるため、自室に来ただけだが。


「俺だ」


 ノックして反応を待つ。


「入ってよいぞ」


 ナルディアの許可を受け、部屋に入る。


「大丈夫か」


「うむ。その・・・迷惑をかけたの」


 ナルディアは目を赤くしていたが、泣いている様子はない。


「無理しなくていいからな?」


「うむ・・・ジークは王の話をしに来たのじゃろ?」


 あえて切り出さずにいた本題をナルディアの方から切り出す。


「そうだ」


「覚悟は出来ておる。もちろんおぬしも王となるのじゃろ?」


「俺が王に?」


「ジーク様、過去に同様の例がございますので問題ありません」


 テリーヌが補足する。女王と王という2名の君主による統治は可能なのかと思ったが、問題ないらしい。前例が気になるところである。


「というわけじゃ。ジークよ、余と共にこの国を治めてくれぬか」


 国王の娘と結婚したのだから、当然俺に断る権利はない。というより、もともとナルディア一人に王の重責を背負わせるつもりもない。


「引き受けよう」


「ジークよ、感謝する」


「こういうのは二人で背負った方がいいだろ?」


「うむっ、おぬしの言う通りじゃ」


 俺とナルディアはクスクスと笑い合う。ナルディアが笑うところを見るのは、いつ以来だろうか。それほどまでにこの短期間に起きた出来事は壮絶だった。

 俺たちはメイザースたちが戻り次第、先王の葬儀と戴冠式をおこなうことにした。


ーーーーー


 数日後、メイザースたちがナミュール城に到着した。強行軍で兵士が若干脱落していたが、仕方のないことである。


 メイザースたちの休養を一日設け、翌日ナミュール城でティアネスの葬儀が執り行われる。本来なら国葬でもって、全国民が喪に服するべきだが、今回は非常時であるため簡素なものとなった。戴冠式も同様である。

 葬儀の翌日、俺とナルディアは身を清め、シャルナーク正教会の教皇による戴冠がおこなわれる。


「ただいまをもって、シャルナーク王国は女王ナルディア・シャルナークを、国王ジーク・シャルナークをお迎えする」


 教皇の宣言により、正式に俺とナルディアはシャルナーク王国の共同統治者となった。


「「「女王陛下万歳!」」」


「「「国王陛下万歳!」」」


「「「シャルナーク王国万歳!」」」


 俺とナルディアの挨拶も終わり、戴冠式は滞りなく終了した。早速政務に取り掛かりたいところだが、残念なことにヘルブラントの王宮は破壊されてしまった。そこでナミュール城に新たな王宮を建設しつつ、人事に着手する。


 俺とナルディアは執務室に籠り、各役職を割り振る。内政官がことごとく失われたため、熟練の政務官は数少ない。


「ジーク、余はおぬしに内政を任せたいと思っておる」


 何も書かれていない白紙を前にナルディアはそう提案する。もとよりそのつもりだ。というより、本来の俺は内政向きのはずだから。


「ああ、俺に任せてくれ。でも、これで内務長官の時みたいに好き勝手出来なくなるな」


 俺の軽口にナルディアは苦笑いを浮かべる。自由時間が減るというのは本当のことなんだけどねっ。


「なーに、おぬしが早く仕事を片付ければよいのだ」


 うちの嫁さん、もとい女王陛下はなかなか鬼だった。俺は苦笑いしつつ答える。


「出来る限り頑張るよ」


「うむっ」


 早く終わる仕事量ならいいが、当分はそうも行かないだろう。やることが山積みなのだ。それに、復興に何年かかるのかもわからない。気が重くなるばかりだ。かといってデメリットばかりではない。この国の土台が崩れ去ったということは、自由に再建できるということである。サミュエル連邦の元総統、ミチヤス・サイオンジのように内政を自由に進めることができるのである。


「そうだ、まずはビジョンを決めないとな」


「ビジョン?」


「俺たちがどういう国にしたいかってことだよ」


 俺の頭には、この国の目指すべき将来が思い浮かんでいる。


「ジークはどう思うのじゃ」


「俺は大陸統一だな」


 ナルディアはくふっと笑う。ティアネスの念願だったからな。当然俺もそれを引き継ぐ。


「実におぬしらしいの」


「決まりか?」


「うむっ、余はどこまでもおぬしについていくのじゃ」


「次に当面の戦略だが・・・」


「内政の立て直しじゃろ?」


「それしかないな」


 紙にビジョンと戦略を書いていく。戦略はビジョンを実現するための行動指針である。


「さて、これを実現できる人選をしないとな」


 財務長官を始めとした各役職を割り振っていく。名前を埋めていくと、やはり人手不足が否めない。


「これは俺の負担が凄そうだな・・・」


「仕方あるまい。おぬしほどの男はそう多くはおらぬ」


「あとは新世代の台頭を待つしかないか」


 こうして次のような人事草案が出来上がった。


女王:ナルディア・シャルナーク

国王兼宰相:ジーク・シャルナーク

財務長官:ムネノリ

総務長官:ヒューズ

法務長官:ゼンメルヴァイス

教育長官:エドワルド

土木長官:ナターシャ

軍事長官:メイザース


 俺とナルディアは出来上がった草案と睨めっこする。国王である俺が宰相という役職を付けた理由は至ってシンプルである。あくまでもシャルナーク王国の君主はナルディアであることを対外的に示すためである。もちろん内政を俺が担当するという理由もあるが。そんなわけであえて俺は国王兼宰相という名称を用いている。


「こうしてみると全体的に若いな」


 若手と呼べない長官はゼンメルヴァイスとメイザースくらいで、全体的に若手中心の布陣となっている。国王もまだ20代前半であることから、ある意味バランスのとれた人事かもしれない。外交に関してはあえて長官を設けていない。俺とナルディアで外交関係は取り組む予定である。


「よし、次はどんな指示を出そうか」


「ヘルブラントの再建をするべきじゃろ?」


 当面の目標に廃墟に近い状態となったヘルブラントの復興を盛り込む。


「あとは俺が前に提示した政策を盛り込むか」


「うむ、それでよい」


「数年は遠征できないな」


「守りをしっかりせねばの」


 俺とナルディアは話し合っていくうちに案を固めていく。


「そうそう鉄砲の改良もしないと」


「なかなか改良の時間を取れぬかもしれぬな」


「そこらへんはなんとかするさ」


 こうして俺らはシャルナーク王国の新たな人事を公表し、さっそく国政の立て直しを開始する。各長官が動き始めて俺の仕事量はようやく減少傾向に入った。それまでは寝る間を惜しんで働いていたのである。

 仕事がひと段落した頃、ミシェルからの返事が返ってきた。


「ナルディア、ミシェルからの返事だ」


 その内容は、ツイハーク王国の女王アスタリアも同盟を歓迎すると言う内容だ。


「これで背後は安心じゃの」


「ああ、これでサミュエル連邦に集中できるな」


 と、ここで一つ思いついたことがあった。


「ナルディア、ツイハーク王国に行きたいか?」


 俺の問いかけにナルディアはうんうんと何度も頷く。


「それなら決まりだな。アスタリア女王へ挨拶に行ってこい」


「おぬしはどうするのじゃ?」


 ツイハーク王国へ行けると聞いてナルディアは嬉しそうである。まあ、さすがに国王が二人とも外国を訪れるのは難しいだろう。そんなわけで俺は残る。


「俺は残るよ。仕事がたくさん残っているからな」


「むぅ、余だけ行くのは悪いではないか」


 ナルディアは少し申し訳なさそうにしている。


「旅行じゃなく公務なんだから気にすんな。行ってこい」


「そうか?なら行ってくるのじゃ」


「ミシェルによろしくな」


「うむっ、余に任せるのじゃ」


 ナルディアはツイハーク王国へ向けて出発し、俺はナミュール城に残って国王としての職務をこなす。


「国王陛下、財務長官よりの報告書です」


 ムネノリから報告書が上がってきた。さっそく目を通すと、そこにはヘルブラント陥落でどれほどの損害を被ったかが如実に記載されている。ヘルブラントに貯蔵されていた資産をサミュエル軍に持っていかれてしまったことが大きな原因である。今年の国家財政は大赤字だ。


(こうなったら新しい何かを開発して外国に売るしかないか)


 俺は赤字を埋めるべく、シャルナーク王国の新産業の発掘に着手するのであった。

第2章はこれにて完結です。

ここまでのご感想や評価等がございましたらぜひお気軽にお寄せください。

第3章は富国編となります。

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