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シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~  作者: 葵刹那
第二章 ナミュール城主編
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第22話 コートウェイク決戦③

「城門から敵兵が出てきたぞ!逃がすな!」


 ティアネスから剣を預かったダルニアは、城外のサミュエル軍に飛び込もうとしていた。


「邪魔する者は斬る!」


ザシュッザシュッ


 ダルニアは敵を斬って進む。


ドガーン


「お、おい、なんの音だ!?」


 遠くでデルフィエの魔法が炸裂する。デルフィエによる攻撃であることは百も承知である。


(敵の集中が削がれた!いまだっ)


ドガーン


 2発目の雷鳴が轟く。


(デルフィエ殿、かたじけない)


「う、うわああ」


「また鳴ったぞ」


ドドドッドドドッ


 雷鳴の方に注意が向いている隙に、ダルニアの馬が敵兵たちの横を駆け抜ける。


「しまった、弓を射かけろ!」


「おい、そんなことしたら味方に当たるだろ」


「あんな強いやつ、相手にする方がバカらしい」


「ちっ、しゃーない。ったく貧乏くじを引いたね。反対側はあんなに盛り上がってるのに」


「仕方ないだろ」


「向こうは武勲を立て放題。こっちはなんもなしだ」


「まあまあ、生きてるだけ感謝ってものだよ」


 サミュエル軍の兵たちはダルニアのことを意にも介していなかった。その甲斐もあり、ダルニアは無事に包囲網を突破し、ジークのいるアルメール城を目指していた。


ーーーーー


 シャルナーク軍とサミュエル軍の対峙するコートウェイク高地では、夜襲明けの朝から戦端が開かれていた。


「もう攻めてきたというのか」


 明け方にようやく寝たかと思えば、数時間も経たずに叩き起こされた俺の機嫌はすこぶる悪い。


「俺も前線に行く。バイス、本陣は任せた」


「えっ、ですが殿下」


「ナルディアの応援に行くだけだ。本隊を動かす必要はきっとないだろう」


 バイスは俺の親衛隊長である。俺のいる本陣には、俺が直接率いる本隊が守りを固めている。


「承知いたしました」


 バイスに本陣を任せた俺は馬に乗って第一陣へ向かう。


ーーーーー


「弓隊、射続けるのじゃ!」


パシュン

パーン


 ナルディアは弓隊を指揮しつつ鉄砲で威圧する。そのため、弓の弦の音と発砲音が合わさっている。


「柵に近づいてきたものは槍で倒すのじゃ」


「ナルディア」


 俺の姿を捉えたナルディアが驚いた目をする。


「ジーク、本陣はどうしたのじゃ」


「任せてきた」


「なっ、総大将がそんな気軽に動くやつがあるか!」


 口調は注意しているが、どこか嬉しそうである。


「ヒューお熱いわね~」


 ミシェルが円月輪を投げながらからかってくる。


「そうからかうなって。ん?その小さい円月輪はどうしたんだ?」


「投擲用に作ったのよ」


 投げられた小型円月輪は回転しながら敵兵の首を刈っていく。もちろん一方通行で使い捨てである。


「ミシェルが円月輪の使い手ってことは知ってたけど、すごいな」


 面白いように刈られていく敵兵を見て哀れに思うくらい見事な腕だ。費用対効果は悪そうだが・・・。


「ふふ、嬉しいわ。ねえジーク、ナルディアの使ってるこの武器は?」


「これか?」


 俺は自分のマスケット銃を見せる。


「あら、ジークも持ってたのね」


「俺が作ったからな」


 ミシェルはマスケット銃に興味津々だ。


「マスケット銃という武器じゃ」


 ナルディアが得意げに答える。なんで得意げなんだ。


「ジークといるとなんでもありね。その武器の性能おかしくない?」


 ミシェルは半ば呆れた表情をしている。


「それは褒めてるのか?あ、そうそう、国に戻ったらこれとは違う鉄砲をこれから量産するつもりだよ」


 量産と聞いてミシェルが驚きの声をあげる。


「もちろん褒めてるけど・・・これを量産するの!?」


「そのつもりだ」


パーン


 会話をしつつもナルディアは攻撃を続けている。ここが前線であることを忘れてしまいそうだ。


「ほんとにジークは計り知れないわね。あなたが友達で良かったと心から思うわ」


 ミシェルは呆れているのか安堵しているのか複雑な表情をしていた。ひとまず俺もマスケット銃で銃撃に加わる。


パーン


 銃撃が増えたことで敵は明らかに怯んでいる。そして、サミュエル軍の屍が面白いように増えていった。


「ああ、俺もミシェルが友達で良かったと思ってるよ」


 ミシェルは俺の言葉を冗談半分で受け取っておくわといわんばかりに片手をフリフリと振ってくる。


パーン


 俺とナルディアのマスケット銃が火を噴く。


「この程度の攻めならなんとかなりそうじゃな」


 敵の攻めはこちらが十分に対応できる範囲であった。前線の視察も兼ねて訪れたが、この様子なら大丈夫そうだ。なんて思った直後にサミュエル軍が一斉に動き出す。


「おい、ナルディア、動いてない敵も動き出したぞ。突破できないから全軍を投入するってわけか」


 サミュエル軍は総力をあげて攻め寄せてくる。全軍でのぶつかり合いとなれば、兵力に劣る我が軍は圧倒的に不利だ。


「ジーク、ここは任せよ」


「ああ、俺は本陣に戻る」


 ここに留まっていては全体の戦局を見ることはできない。俺は本陣へと引き返す。


「殿下!」


 バイスが戻ってきた俺を出迎える。


「バイス、焙烙玉を用意しておけ」


「はっ」


 敵の右翼が第二陣を、左翼が第三陣に襲い掛かる。キキョウとナシュレイがそれぞれ弓を射かけて敵をけん制する。第一陣を攻める敵軍は、鉄砲と円月輪を恐れて思い切った攻めができずにいた。その分、左右やや後ろに位置する第二陣、第三陣に多くの兵が流れる。後詰めを送っておいた方がいいかもしれない。本陣にいるアキレスとジブリールの両将軍を派遣する。


「アキレス!」


「はっ」


「本隊の左翼5千で第二陣を援護」


「承知!」


 俺はアキレスをキキョウの守る第二陣へ派遣する。


「ジブリール」


「ここに」


「本隊の右翼5千で第三陣を援護」


「ははっ」


 ジブリールをナシュレイの守る第三陣へ派遣する。これで当面は持ちこたえられるだろう。とはいえ、温存するべき予備兵力を投入したことには変わりない。時間との闘いである。


(まだかメイザース!)


 焦りを覚えるが、急いては事を仕損じる。どっしりと構えるしかない。もっとも、いざとなれば俺が一軍を率いて敵を蹴散らすつもりだが。


「ナルディアに伝令、第二陣か第三陣が破られそうであれば退却せよ」


「はっ」


 第二陣と第三陣のいずれかが破られた場合、ナルディアの第一陣が挟撃されてしまう。そうなる前に退却してもらおうというわけだ。


「申し上げます。敵本陣から煙が上がりました!」


 サミュエル軍の本陣を警戒した兵から報告がくる。


「よしっ、よくやった!」


 待ちに待った吉報に思わずガッツポーズし、テントを出る。俺の目にもはっきりと敵本陣から煙が上がる煙が見えた。


「全軍に通達、敵本陣は陥落。本陣を落としたと叫びながら攻撃せよ」


「「「はっ」」」


 伝令兵が各陣に向かう。俺はメイザースを救うために出撃準備に入る。


「バイス」


「はっ」


「本陣は任せた。俺は騎馬兵を連れて出撃する」


「承知いたしました」


 俺は馬に跨り、剣を高々と掲げ、前に下ろす。


「騎馬兵は続け!」


「「「おおぉぉー!」」」


ドドドッドドドッ


 俺は真っ先に第二陣へ向かう。


「キキョウ!」


「はいっ!」


 俺の声にキキョウが元気よく答えてくれる。


「火焔隊の出番だ。アキレスと守備の指揮を交代して俺についてこい」


「はーい、了解です~」


 キキョウは馬に跨り、後方で待機していた火焔隊が到着する。出撃準備完了だ。


「みんな、行くよー!」


「「「おおぉぉー!」」」


 俺とキキョウが率いる騎馬隊は全軍に先駆けてサミュエル軍に突撃する。


「お前たちの本陣は陥落した!道を開けろ、邪魔だ!」


ザシュッ


「じゃまじゃまー!」


ザクッ


 俺の剣とキキョウの槍が第二陣に攻めかかる敵兵を餌食にしていく。


「ひ、ひいいい」


「なんだこの強さは」


 サミュエル軍の兵たちがじりじりと押される。そして、ついにサミュエル軍の兵士たちも本陣の状況を認識した。


「お、おい・・・本当に本陣が燃えている・・・」


「嘘じゃなかったのかよ・・・」


 本陣が陥落したと喧伝しながら進むことの効果は絶大であった。第一陣、第三陣を攻めていた敵も雪崩を打つような勢いで潰走する。


「急ぐぞ!」


「「「おおぉぉー!」」」


 俺たちはサミュエル軍の本陣へまっすぐ突撃し、敵を蹴散らしている間にサミュエル軍の高地にある本陣へと迫っていた。


ドカーン、ドカーン


 敵本陣から炮烙玉の音が響く。


ザシュッ


ドスッ


 俺たちは本陣を囲む敵兵を蹴散らす。


「うわ、敵兵だ」


「なんでこんなところに」


 サミュエル軍の兵たちは蜘蛛の子を散らすように四散する。前からはメイザース、後ろからは俺やキキョウの攻撃を受けているから当然だ。

 俺は焙烙玉の音が鳴りやむのを待ってから、兵士を本陣に送る。安全が確認されてから外はキキョウに任せて本陣に入る。


「メイザース、無事か!」


「はっ、ソレルの首です」


 メイザースがソレルの首を持って俺に駆け寄ってくる。その身体は多くの返り血を浴びていた。なんだかんだ怪我はなさそうである。俺はソレルの首を確認し、メイザースをねぎらう。


「見事だ!」


「はっ、恐れ入ります。敵は背後を全く警戒しておらず、余裕でございました」


 メイザースによると、全軍で攻めていたサミュエル軍の本陣は手薄になっていたそうだ。そこをメイザース率いる500が襲い掛かったというわけだ。


「誰か、メイザースたちを馬に乗せてやれ。残りの兵は引き返して敵を蹴散らすぞ」


「「「おおぉぉー!」」」


 ソレルの首を近くの兵士に持たせる。メイザース率いる別動隊は一軍の中盤に配置し、出来るだけ敵と接触しないよう配慮した。


「進めっ!」


ドドドッドドドッ


 高地から駆け下りてくる一団に敵も味方も釘付けになる。


「敵将ソレルは討ち取った!降伏する者は武器を捨てよ!」


 ソレルの首を槍に刺して高々と掲げながら駆け下りる。これにより、サミュエル軍の末端に至るまでが一目で総大将の死を理解することができる。

 そして、現に多く敵兵が思考停止に陥っていた。そのような中で、いち早く戦場を離脱する一軍があった。少将キルキス率いる一軍である。


「キルキス・・・」


「グイード、いまは生き残る方が先だ」


「そうだね。しかし、背後を衝くとは・・・」


「夜襲が上手くいったから油断したのかもしれない。反省は後だ。キルキス隊、離脱するぞ!」


「「「おおぉぉー!」」」


 サミュエル軍各部隊の反応は様々であった。ソレルの後を追う様に、突撃して果てる者。諦めて投降を選ぶ者。キルキスのように逃走を図る者である。

 また、この戦場にける火焔隊、黄焔隊の働きは目覚ましく、精鋭部隊として存分の働きを示してくれた。後で十分に褒賞を与えられることだろう。


 こうしてコートウェイク高地の戦いはシャルナーク軍の勝利で幕を閉じた。シャルナーク軍の損害は死者3千、負傷兵約1万5千であった。その一方、サミュエル軍は死者7千、負傷者3万、逃亡者は数知れず、投降者2万であった。


「みんな、厳しい戦いだったが俺たちの勝ちだ!」


「「「おおぉぉー!」」」


「国に戻るぞ!」


「「「おおぉぉー!」」」


 俺は兵をまとめ、アルメール城に引き返す。

 その夜は我が軍の兵士たちに酒や肉を振舞い、城内では盛大な宴が催されていた。


「ジーク殿下、ご戦勝おめでとうございます。まずは一献」


 メイザースがお酌して回る。


「ありがとう」


「王女殿下もどうぞ」


「うむ」


 俺とナルディアはメイザースに注いでもらったお酒を飲み干す。


「メイザース、今回の武勲第一である」


 今度は俺の番である。俺は酒瓶を持ってメイザースの器に酒を注ぐ。


「恐れ入ります」


「ナシュレイ、今回もご苦労」


「はっ、ありがとうございます」


 次に、メイザースの隣に座るナシュレイの器に酒を注ぐ。


「それとナシュレイ、相談したいことがあるのだが・・・」


「守備の任でしょうか」


 酒を注ぐ次いでに戦後処理のことを話そうと思ったら、どうやら読まれていたようだ。


「察しがいいな。その通りだ」


「お任せください。このアルメール城を守り通して見せましょう」


「サミュエル軍は当分攻めてこないと思うが、よろしく頼む」


「はっ」


「今日は遠慮なく楽しんでくれ」


「ははっ」


 その後は、アキレスやジブリールを始めとした諸将に酒を注いで回って労をねぎらう。残る課題はブロワ城以北の守備だが、ツイハーク王国が攻めてこなければ特に何もする必要がない。最低限の守備兵力でなんとかなるだろう。

 そして、忘れないうちに、アスタリア女王に向けた返礼品と手紙を用意する。もちろんミシェルが参戦してくれたことの御礼である。手紙を書き終え、宴会で盛り上がる広間に戻ると、べろんべろんに酔っぱらったミシェルとナルディアがいた。


「あーっ、ジークだー」


 ミシェルが俺を指差している。


「おぬし、どこへ行ってたのじゃ」


 ナルディアがミシェルの相手を押し付けおってといわんばかりの抗議の目線を送ってくる。


「ちょっと事務仕事をしていてな」


 ナルディアの態度が変わる。


「うむ?どういうことじゃ?」


「アスタリア女王への御礼の準備だよ」


 御礼と聞いたミシェルが絡んでくる。


「えー姉さんに御礼?そんなものいらないわよ。私が勝手に来たんだから」


「そういうと思ったが、今後の友好関係を考えたら送っておいた方がいいだろ?」


「んーえへへーそれもそうかもねーほら、飲みなって」


 ミシェルが器に酒を注いで差し出す。こいつ、本当にさっきの話を理解していたのか?なんて思ったけど余計なことをいうのは野暮かもしれない。とりあえず言いたいことは一言だけだ。


「お前、酔いすぎだろ」


「わたし?わたしは酔ってないわよ」


「酔ってるやつは大体そういうのじゃ」


 俺が言う前にナルディアのツッコミが炸裂する。


「えへへ、ジークさまぁ」


 そこにやや顔を赤くしたキキョウが乱入する。寝不足で体力が低下している状況でこれ以上絡まれるのは勘弁である。というかみんなも寝不足だったような・・・。もしかして酔いがひどい原因は寝不足と疲労か?


「キキョウ、ミシェルは円月輪の達人なんだよ」


 とりあえず俺はキキョウが食いつきそうな話題を振ってみる。


「知ってるよー前に訓練場で師匠を襲ってたもん」


そしたら思わぬ単語が返ってきた。襲ってたとはどういうことだろう。あーもしかしたらミシェルがナミュール城に来た時の話かもしれない。そんな話があったような気がする。


「あら、私は襲ってなんかいないわよ。結婚祝いをしてあげたのよ」


「むっ、おぬし、本気で投げてたではないか」


 ナルディアはどこがお祝いなんだと言いたそうにしている。


「国王が自慢してたわよ?槍の名人なんですってね。名人なら本気で投げないと失礼になるじゃない?」


「あれが当たってたらどうするつもりなのじゃ!」


 キキョウの投下した爆弾で場が荒れはじめる。やはりナミュール城へ来た時の出来事のようだ。ミシェルが俺とムネノリのいる執務室を出ていったあと、何をしていたのかが明らかになる。ミシェルとナルディアは言い合いに夢中で、俺のことをまったく見ていない。よし、俺はこっそりと広間を抜け出して寝床へ向かう。


「ふう、なんとか無事に終わったな。それじゃおやすみ」


 誰もいない部屋でそう呟いて眠りにつく。

 翌朝、先に寝るのは何事かとナルディアにこっぴどく怒られたわけだが・・・。まあそれはそれとして、今日はいよいよナミュール城へ出発する日である。午前中は二日酔いになった者を考慮して休養とし、午後にアルメール城を出ることにした。

 ところが、間もなく出発というタイミングで、息を切らしたダルニアがやってきた。


「ジーク、大変だっ!」


 ダルニアの目は血走っており、馬も酷く疲れている。俺とナルディアは目線を合わせ、ただ事ではないと瞬時に悟った。

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