第8話 兵器開発
ナミュール城で富国強兵に励んでいた俺のところに新たな情報がもたらされた。サミュエル連邦がベオルグ公国領を全て征服したという内容だ。
俺は執務室の机に地図を広げ、勢力図を書き換える。各国の領土は以下のようであった。なお、オスタリア大陸には全体で101城存在する。
・シャルナーク王国 11城 全体の約11%
・サミュエル連邦 41城 全体の約40.5%
・ウェスタディア帝国 41城 全体の約40.5%
・ツイハーク王国 8城 全体の約8%
・ベオルグ公国 滅亡
(サミュエル連邦とウェスタディア帝国の2強になったか・・・。シャルナーク王国の強国入りは夢のまた夢だな)
ナルディアとキキョウが精鋭部隊の教練に励んでいるが、それだけでは大国を圧倒する決め手にかける。新兵器を生み出す必要がありそうだ。
さて、俺の持つ知識で最大威力を持つもの・・・やはり火器だろう。この世界でも用意できそうなのは、火薬である。硝石が産出できるのが理想だが、無いようなら厩舎の土、糞などから採集すればいい。あとはその火薬を使う兵器だが・・・。思いついたものを白紙に設計図を書き始める。所々うろ覚えの部分があるが、そこは要調整である。
「ムネノリ」
「どうしましたか」
執務室で俺の補佐にあたるムネノリに声をかける。
「しばらくここの仕事を任せてもいいか?」
「わかりました!先生はどちらへ?」
なかなかのむちゃぶりだと思うが、ムネノリは快諾してくれた。
「しばらく鍛冶屋に行ってくる」
「鍛冶屋・・・ですか?」
鍛冶屋と聞いて首をかしげるムネノリだったが、そこは勇者であるジークを信頼している。きっと突拍子もないことをしてくれることだろうと期待の目線を向けている。
「ああ、これも戦いに勝つためだ」
俺は後事をムネノリに託し、さっそく鍛冶屋に赴く。そして、鍛冶屋のおっちゃんにカラクリの説明をし、実際に作成してもらう。俺はそれを見ながら少しずつ修正を指示する。
そんな作業を繰り返しているうちに、漠然とした記憶で描いたものが徐々に形になる。俺の思い描くマスケット銃の銃身はそう時間もかからずに作成することが出来た。後装式でライフリングを施しているマスケット銃である。村田銃をイメージして作成した。
銃身と併せて弾の生産にも入ったが、薬莢という問題が生じた。その問題を克服するために、さらに多くの時間がかかった。
なんだかんだ俺はサミュエル連邦への遠征の1ヵ月前まで開発に従事し、なんとか円錐型の弾を開発することが出来た。
数ヵ月工房に出入りして銃の生産に成功したわけだが、量産には程遠いことが分かった。職人の手作りであるため、どうしても時間がかかるというわけだ。現在までに用意できたのは銃2丁である。
弾をまっすぐ飛ばすためのライフリング加工に時間がかかるうえ、弾の作成にも時間が必要だ。量産するとなると、前装式の火縄銃が良いかもしれない。火縄銃もマスケット銃の一種だが、弾が丸型鉛と容易に作成できる。その反面、命中率と飛距離、湿気に弱いという弱点を抱えているが、この世界なら問題なく活躍してくれることだろう。遠征から帰ってきたらゆっくり考えるとしよう。
俺は何度か試射することでその使用感を確かめている。
「おぬし、なんじゃその変な鉄の棒は」
ナルディアにも使ってもらおうと試射に呼んだわけだが、とんちんかんな感想を漏らす。
「これは鉄砲というものだ」
「テッポウ?」
「とりあえず見ていてくれ」
俺は銃を構え、遠方の的に照準を合わせる。
「おぬし、あんな遠い的を狙っておるのか!?」
「ああ」
引き金を引く。
パーン
聞いたことも無いような高音が辺りに響く。
「ひゃっ」
驚いたナルディアは素っ頓狂な声をあげる。
「な、なな・・・あの的を撃ち抜いておる・・・」
若干声を震わせながら驚く。
「これが鉄砲というものだ」
何度か試射してわかったが、1キロ以上離れていても当てることが出来るようだ。やはりライフリング加工を施している効果は大きい。
「恐ろしいものを開発したのじゃな」
「ああ・・・これでまた多くの人が死ぬことだろう」
俺が物憂げな雰囲気を醸し出すと、ナルディアは俺の手をそっと手に取る。火器は画期的な発明である。その反面、戦争の犠牲者を加速度的に生み出してしまう。その極めつけは言うまでもなく原子爆弾である。
「ジークよ、余はおぬしの妻じゃ。おぬしの罪も余が共に背負おうではないか」
俺の考えてることを見抜いたうえで寄り添ってくれる。ほんと、頼もしい妻だ。
「ああ、ありがとう。そうそう、ナルディアの分もあるから撃ってみてくれ」
少し感傷に浸ってしまったが、本題に入る。
「ふむ?余には槍があるぞ?」
槍の使い手に鉄砲は必要ないと主張する。
「いまのを見ただろ?撃ってみればわかるさ。戦い方が変わるぞ」
目の前で弾を込めてみせる。準備のできた銃をナルディアに渡し、構えを教える。
「この引き金を引いたら、弾が発射される。反動に気をつけろよ」
ナルディアが構え、恐る恐る引き金を引く
パーン
再び甲高い音が響き、バシューンと弾が的を掠る。一発目にしては上々だ。
「あれを余がやったというのか・・・」
ナルディアの予想を上回ったのか驚きとともに鉄砲をまじまじと見つめる。
「そうだ。誰に扱えるというのがこの武器の最大の利点だ」
むむむとナルディアは考え込む。戦い方を変える武器というのを身をもって体感してくれたのだろう。
「これを余が使いこなせるようになれば良いのじゃな?」
「ああ、練習して命中精度を上げればいい」
ちなみに俺はかなりの命中精度を誇っている。不発弾を除いて1キロ程度なら的を外さなかったのである。これも勇者補正なのかもしれない。
それからナルディアは毎日教練終わりに練習していた。メキメキと実力を延ばし、いまでは的の真ん中に当てることもできるようになった。飲み込みの速さはさすが槍の名人というだけのことはある。
次に俺はメンテナンスの方法を教える。銃床や銃身を始めとした銃の分解の仕方と組み立て方、メンテナンスの仕方を自室に帰ってから徹底的に教え込む。目の前でメンテナンスをしてもらい、その結果を見ると概ね理解してくれたようだ。
メンテナンスも終わり、俺とナルディアはベッドで横になる。
「教練の方はどうだ?」
「うむ、いつ実践に出しても問題ないじゃろ」
「・・・なら来週あたりにするか?」
「おぬしに任せる」
若い男女が同衾している状況で、あまりにも色気のない会話である。
「ベオルグ公国の話は聞いただろ?」
「サミュエル連邦が吸収したという話じゃろ?」
この話は当然ナルディアの耳にも入っていた。
「そうだ。だからどう進路を取るかが課題だな」
「ツイハーク王国の国境まで遠征するという話かの?」
その場合はハルバード城を抜けひたすら北上することになる。縦長に勢力を延ばすことになり、防衛線も縦に伸びることになる。望ましくない占領の仕方だ。もし鉄砲を量産できていたなら火力でごり押しできるのだが・・・。
「前回取られた城を取り返してから北上することにするか」
「うむ、余も賛成じゃ」
話がまとまったところで、二人は眠りに落ちるのであった。翌朝、ティアネスに早馬を出して、来週遠征に向かうことを知らせる。追加兵力として4万を送るようにお願いした。
まもなくティアネスから返事が来たが、たった4万でいいのかという内容であった。前回はティアネスが多くの兵を引き連れた結果、守りが疎かになった。今回はその教訓を活かして、必要な兵数のみを率いることにした。4万で問題ないが、できればナシュレイ将軍を付けてくれと俺は返信する。ナシュレイは共にクヌーデル城で戦った仲である。俺の実力を知っているナシュレイの方が指示を出しやすいという理由もあるが。そういうわけでナシュレイを要求するのであった。
ーーーーー
ナシュレイ率いる兵がここに来るまで、数日の時間がかかる。その間に、ハンゾウたちの部隊の総仕上げをすることにした。
「ジーク様、全員揃っております」
庭に呼び出したハンゾウたちを見ると、統一された忍び装束が実に見事であった。
「さて、今日俺がお前たちを呼んだのは他でもない。これから遠征が始まる。その遠征が成功するかどうかはお前たちにかかっている」
諜報に破壊工作とやることは盛りだくさんだ。
決して表に出てくるものではないが、裏工作は物事の成否に直結する。
「だから今日、改めてお前たちに話しておきたいことがある。まず、この隊をこれから黒焔隊と呼ぶ」
「「「おおお」」」
ジャンたちから歓声が漏れる。ちなみに他には騎馬主体の火焔隊、歩兵主体の黄焔隊を作る予定である。
「隊長はハンゾウとし、副隊長はテリーヌにお願いする」
ハンゾウとテリーヌが頭を下げる。
「「はい」」
「厳しい任務も多くあることだろう。だからこそ、黒焔隊の報酬は他の部隊より色を付けることにする」
「「「おおっ」」」
部隊員が喜びの声をあげる。中にはガッツポーズをする者までいた。仕事に見合う適切な報酬を用意してあげるのはマネジメントの基本である。高い報酬は自信に繋がり、より専門性を磨く動機づけになる。俺の部隊にゼネラリストは必要ない。もっとも、すべてに抜き出るオールラウンダーであれば大歓迎だが。誰もが専門を持ち、分担して助け合うことで効率的な運用をおこなうのが俺の目指すスタイルだ。
「そういうわけで、今回はよろしく頼む。それと、早速2件お願いしたいことがある」
「何なりと」
ハンゾウにハルバード城とアンドラス城の偵察をお願いする。また、別件として俺が鉄砲を作らせた鍛冶屋の監視も頼んでおいた。この情報を聞きつけ、接近する者があれば身元を洗い出すようにしてもらう。もし、接近した者が鉄砲の情報を握っているようであれば、遠慮なく始末するようにも付け足してある。鍛冶屋には城内に専用の工房を作り、城館に住まいを与えている。出来る限りの待遇で迎えたつもりだが、万が一ということもある。そのときは黒焔隊の出番である。
「承知いたしました」
これで諜報部隊のハード面は整った。あとは彼らが経験を多く積んでくれるのを待つばかりだ。




