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シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~  作者: 葵刹那
第二章 ナミュール城主編
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第1話 ナミュール城

 準備を済ませた俺たちは、まっすぐナミュール城へと向かった。一国一城の主と呼ばれるものに俺はなったのである。もっとも、任されたのは城の管理のみであり、内政は従来通り王都からの指示でおこなわれる。ティアネスにお願いしていた1万の兵たちは直接ナミュール城に向かっているとのことだ。


「のうジーク、1万の兵をどうするのじゃ?」


「そんなに気になるか?」


 ナルディアは強く頷く。


「旦那様が何をするのか知るのも妻の役目ではないか?」


「ったく、そう言われると話すしかないじゃないか」


 俺はやれやれと肩をすくめ、ナルディアはくふっと微笑む。旅行から帰る途中に練った考えをナルディアに教えることにした。


 1万の兵は、それぞれ騎馬隊として訓練する。ただ、騎馬隊というのは編成が難しく、熟練の兵士であることが求められる。その点は、鬼教官のナルディアがみっちり鍛えくれると信じている。最終的に半数が騎馬隊になれば御の字だろう。実際、騎馬隊で有名な武田騎馬隊でさえ戦場では下馬して戦っていたという。それだけ馬上槍の習得が困難と言うことである。

 そして、騎馬隊5千を赤色の鎧で統一し、残りの5千を黄色の鎧で統一する。ハンゾウを隊長とする諜報部隊は黒装束にする。これにより俺直轄の3つの備え部隊が出来上がるというわけだ。


「さすが余の旦那様じゃ。突拍子もないことを思いつくのう」


 呆れているような口調だが、褒めてくれているのはよくわかる。


「そんな俺を見込んだから結婚したんだろ?」


 ナルディアはニコニコしている。


「もちろんじゃ。余が一生おぬしを支え愛し続けよう。浮気したら許さぬからな?」


 隣を進むナルディアが上目遣いで浮気するなと言う。いつ見ても凶悪な破壊力に俺は目を逸らすのであった。


「あーっ、おぬし目を逸らしたなっ」


「い、いや、違うんだ・・・その、あまりにも可愛いから・・・つい」


「っ・・・」


「俺もナルディアを愛し続けよう。俺のパートナーとして末永くよろしく頼む」


「・・・バカ者」


 今度はナルディアが目を逸らす番である。俺たちの後ろを進むハンゾウたちが目のやり場に困っているようだ。もう少しみんなの前では自重するとしよう。ひとまずハンゾウたちが話を聞いていたのなら、話は早い。


「ハンゾウ、聞いての通りだ。お前には諜報部隊の編成を任せる」


「はい!お任せください」


「えーお兄ちゃんだけ隊長ってずるい」


 キキョウがそう言いだすのも計算内である。


「キキョウは黄色備えの隊長だ。ナルディアと一緒にみっちり鍛えて欲しい」


「やった!私も隊長だー!」


 最後はムネノリである。俺は内政を任せようと思っているが、やはりハンゾウやキキョウと比べて華やかさに欠けるのは仕方ないことだ。


「ムネノリには奉行をお願いしたい。

 決して目立つことはないが、何よりも大切な仕事だ」


 俺は項羽と劉邦の時代の蕭何を例にその重要さを説明する。蕭何の凄いところは、なにがあっても前線に兵糧を送り続けたことである。兵糧減少による撤退がよくある時代において、安定して兵糧を送れるという管理能力の高さは大いに評価されるべきである。実際に蕭何は韓信、張良と並び漢の三傑に数えられている。


「先生、ご配慮ありがとうございます!頑張ります!」


 決してないがしろにされているわけではないとわかったのか、ムネノリは安心したような表情を浮かべている。この前の戦いであえてヘルブラントに残したのはそういう理由からである。もし、大陸が統一されたなら、将軍なんかよりもムネノリのような内政官が重宝されることだろう。


 俺の計画は予定よりも早くナミュール城へ着く前に皆に話すことが出来た。あとは、これを実現させるだけである。


 そんなこんなで俺たちはナミュール城に着いた。俺とナルディアの城である。

ヘルブラントと比べれば小さな城だが、一万の兵を鍛えるには格好の場所だ。


 俺たちは早速城館へと向かった。領主が政務を執ることも想定された城館は、さながら城の中にある小さな城である。ロマネスク様式の城にバロック様式の城館。

それに加えて広大な庭と見るものを圧倒する美しい城である。よく手入れされたナミュール城は、長らく戦乱に晒されていない証拠だ。


 城館に入ると、広い玄関が迎えてくれた。部屋は30室程度あり、領主用の部屋はひと際異彩を放っていた。ヴェルサイユ宮殿が700室以上あることを考えれば、ここはこじんまりした館なのだが・・・。それでも俺たちには十分広い城館だ。

 領主用の部屋に入ると、鮮やかなカーテンにカーペット、立派なベッドが中央に置いてあり、快適な暮らしが約束されているといえよう。俺とナルディアは領主用の部屋を使うとして、この部屋に最も近い部屋にテリーヌ、ハンゾウ、キキョウ、ムネノリを配置する。あとは使用人を住ませる程度で、多くは空室になる。ジャンたちには、城に近い館に住まわせることにしよう。さすがにここでテント暮らしをさせるわけにはいかないからな・・・。使用人については、全てテリーヌに任せることにした。彼女なら、適切な人材を雇ってくれることだろう。


「ハンゾウ、キキョウ、ムネノリはこの3つの部屋をそれぞれ使ってくれ」


「ほんとによろしいのですか?」


 ハンゾウが疑問で返す。


「ああ、もちろんだ。俺たちの近くにいて欲しいからな」


「やったねお兄ちゃん!えへへ、ジーク様ありがと」


 3人の中でもキキョウは特に嬉しそうだ。やはり女の子はお姫様のような暮らしに憧れるものなのだろうか?


 住む場所の確保が終わり、急ぎの仕事に取り掛かる。既製品の防具に塗装を依頼するのだ。1万人分と量が多いため、早めにお願いする。その一方で裁縫を生業とする職人には紺色の忍装束を発注する。あとは潜入時に使える苦無と飛び苦無を鍛冶屋に依頼した。装備が揃えば諜報部隊のハード面は完成となる。


 あとは・・・といろいろ考えても仕方ない。ひとまず今日はこれでおしまい。残りは明日以降に考えるとしよう。


ーーーーー


 翌日、一万の兵たちがナミュール城に到着した。さっそくナルディアとキキョウに練兵をお願いする。本当は一日休ませてあげたいのだが、いかんせん時間がない。そこで午前は休みにして午後から訓練をおこなうことにした。二人に全てを任せるつもりだったが、大将として挨拶せよとナルディアが半ば強引に俺を練兵場へ連れてきた。


 練兵場にある指揮官用の高台へ向かう。やはり一万人となるとなかなかに圧巻である。無駄のない隊列を見ると、選りすぐりの精鋭であるとわかる。兵士たちが俺たちに目線を向ける。これだけの兵士に見られていると嫌でも緊張する。


「えー俺がこの軍の総指揮官のジークだ。まずは君たちの上官にあたる指揮官を紹介しよう。ここにいるナルディアとキキョウである。ナルディアは知っての通り俺の妻であり、国王陛下の娘でもある。キキョウは前回の戦いで敵将ビルダルクを討ち取った勇将である。いずれも君たちの模範となることだろう。

 それで今回、君たちを呼んだ理由だが・・・。俺はこの大陸最強の部隊を作ろうと考えている。いままでにないほど厳しい訓練になるかもしれない。だが、その先に最強部隊の栄誉があることを約束しよう。活躍すれば報酬も弾もうじゃないか!ぜひ励んでくれ」


「「「おおっ!」」」


 俺の檄に雄叫びで応えてくれた。ちなみに活躍ボーナス的なものは俺のポケットマネーから出すつもりである。この前、カジノでたんまりと稼いだ分が残っているからだ。ナルディアはうっとりとした恍惚の表情で聞いていた。それとは対照的に、隣にいたはずのキキョウがいない。どこに行ったのだろうか。と思ってたら、いつの間にか兵士たちの前にキキョウがいた。


「おぬしら、聞いた通りである。活躍すればジークが褒美をくれるそうじゃ。そのために厳しく鍛えるから覚悟するがよい!よいか、余の部隊に敗北の二文字など存在せぬ。余のために励むがよい!」


「「「うおおおおおおお、姫将軍様!」」」


 ん?姫将軍?

 なんだその新しい称号。いつの間に兵士からそう呼ばれていたのか。というか、俺のときより雄叫びが凄いけど・・・うん、きっと気のせいだ。そのあと俺は仕方ないと思いつつも少し凹んだ。やっぱり綺麗な女性には弱いよね。あはは・・・。


「さて、おぬしら、さっそく最初の訓練と行こうではないか!そこに居るキキョウを倒して見せよ。個人で攻めても良し、連携しても良し、好きに攻めるがよい!」


 ナルディアの言葉で、キキョウと兵士たちがそれぞれ手に持つ槍と同じ長さの木の棒を構える。


「おいナルディア、そんなことしてキキョウは平気なのか?」


 横で見ていた俺は堪らずに聞いてみる。


「無論じゃ。余はその程度で音を上げられるほどのか弱い鍛え方はしておらぬ。それに兵士たちに持たせているのは槍の代わりの木の棒じゃ。死ぬことはないじゃろ」


 死ぬことはないが、大けがをする可能性はあるということか。やっぱりナルディアは鬼教官だと再認識した。


「ほれ、キキョウもノリノリではないか」


 キキョウの方に目を向けると確かに楽しそうにしているキキョウがいた。


「ほらほらー遠慮なくかかってきなさい!このキキョウ様が相手しちゃうよー」


 一万もの兵がいる中、そんな余裕を出せるキキョウもキキョウで化け物だな・・・。


「うむ、ようやく動いたの」


 一人の兵士がキキョウに襲い掛かる。だが、近寄った瞬間にキキョウの棒が腹を突き、その場で倒れこむ。


「あれー?君たちって選りすぐりの兵士なんじゃないの?」


 余りにも兵士をさばいてしまったキキョウはさらに挑発をする。すると数人の兵士がお互いに合図をして襲い掛かる。3対1ならあるいは・・・と思ったが、相手が悪かった。キキョウが円を描くように棒を回すと3人ともあっけなく吹き飛ぶ。


「おい・・・キキョウ強すぎないか・・・」


 ナルディアは当然だろという顔で俺を見てきた。いやいや、大の男3人を吹き飛ばす腕力ってどんだけだよ。


「ふむ、ようやくおやつらは個の力では敵わぬと理解したようじゃな」


 ナルディアの言うように兵士たちも連携を取るようになっていた。10人程度が槍衾を作ってキキョウに襲い掛かる。だが、これもキキョウの相手にはならなかった。

一番端から真ん中までの兵士の棒をすくい上げていた。5本の棒はまとめてキキョウにすくい上げられ宙を舞う。獲物を失った5人はあっけなく突かれて脱落するのであった。こんな調子で500人くらいを片付けたところでナルディアは止めに入った。


「おぬしら、見ての通りじゃ。精鋭と聞いて呆れる。キキョウにすら勝てない己の弱さを思い知れ!よいか!明日から死ぬ気で励むのじゃ!もし手を抜いている者がいたら・・・その時は覚悟せよ。余が直々に指導してくれよう。以上、今日はゆっくり休むがよい」


 ナルディアもなかなかに辛辣な方法をとるもんだな。歴戦の兵士になればなるほど強くプライドをへし折られたことだろう。もっとも・・・まだ20歳にもなってないキキョウに負けるのだからそんなプライドは捨てたほうがいい。こいつらがどんな兵に仕上がるのか楽しみだ。


 練兵場を後にして、城に戻るとティアネスから使者が来ていた。ミシェルがもうすぐヘルブラントに着くから対応してくれと言う内容だった。対応と言っても向こうはツイハーク王国は友好のために来ている。別に俺が王の隣にいなくても問題はない。ということで、ティアネスとの対面が済んだらここに向かうよう使者に伝言をお願いした。俺とナルディアはミシェルとの久々の再開を心待ちにするのであった。

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