第22話 結婚式
あれよあれよと決まった俺とナルディアの結婚。ティアネスはすっかり乗り気で早速結婚式典を催すことが公表された。
ティアネスとの話し合いを終え、我が家に戻ると一同は驚きをもって迎えた。
「お嬢様・・・本当に、本当におめでとうございます」
テリーヌは涙交じりに祝言を述べるのであった。きっと、何度も縁談を蹴ったことと関係があるのだろう。ハンゾウたちも祝いの言葉をかけてくれた。キキョウだけは少し寂し気な顔をしていたが・・・。
「姐さん方、おめでとうございます!まさか姐さんがお姫様だとは・・・ご無礼の段、お許しください!」
ん?聞きなれない声がした。そう思って目を向けると、そこには元盗賊のジャンがいた。っていうか、ナルディアのことを姐さんって呼んでるのか。
「うむ、分かればよいのだ。これからも精進するがよい」
ナルディアも満更ではなさそうだ。ジャンはサミュエル連邦に向かう途中、俺たちを襲った山賊の元頭目だ。その子分共々ハンゾウに任せたんだっけか。そういや、こいつらはどこに住んでいるのだろう?俺の家はもう定員オーバーだから、50人もの部下を住まわせる場所がない。
「なあ、ジャン、お前たちはどこに住んでるんだ?」
「へい、あっしらは裏庭のテントに住んでおりやす」
まさかのテント暮らしだった・・・。ハンゾウを見ると、彼は気まずそうに目を逸らした。苦肉の策ってわけか。まあ、無責任に頼んだ俺のせいだしな。ナミュール城に移ったら労ってやるとするか。
「ジーク様、お土産は??」
「もちろん買ってきたよ」
そういいながらミスリアで買ってきたお菓子をみんなに分ける。
「あーっ、クッキーだー!」
バリボリとクッキーを食べる音が響く。
「これ、おいしい!お茶の味?」
「そうだよ。抹茶と言ってね。程よい苦みと甘さが絶妙だろ?」
「さっすがジーク様、ありがとうね」
気に入ってもらえて何よりだ。あとでデルフィエとダルニアの分も送っておくとしよう。ひとまずいま我が家でやるべきことは全て済ませた。あとは明後日おこなわれる結婚式を待つのみである。
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結婚式当日、俺たちは王宮へと向かった。ティアネスがいうには城内にある礼拝所で式をあげるという。式を挙げてからは馬車に乗り、ヘルブラント中をパレードする流れになっている。夜になると城内で盛大な宴会が催されるらしい。
城に着くと、着替えのために俺とナルディアは分かれた。俺は王族が身に着けるという正装に着替えさせられる。正直、鎧姿の方がかっこいい気がするが・・・。この場面になってようやく結婚するという実感が出てきた。ナルディアは王の娘で、俺はティアネスの義理の息子になるのである。
いよいよ式典の時間である。式場内はデルフィエなど国の重鎮が多く参列していた。もちろんテリーヌやハンゾウたちも呼んでいる。いざ式が始まると、式の展開は俺の知っているものと大差なかった。新郎である俺が先に入り、その次にティアネスを伴ったナルディアがバージンロードを歩いて入ってくる。真っ白なドレスに身を包んだ黒髪の美少女が入ってきたときには、多くの人が絶句していた。俺もあまりの可愛さに絶句する。
ナルディアが俺の正面に来て、ティアネスから俺に手を取る役目が変わる。次に全員で讃美歌を歌い、シャルナーク王国の最高司祭による聖書朗読がおこなわれる。そして、いよいよ結婚の誓約の場面となった。
「病めるときも、健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
よく知られるフレーズを司祭が唱える。
「「誓います」」
俺とナルディアはタイミングを同じくして答える。
「それでは指輪の交換を」
俺たちはお互いに指輪を交換する。
「それでは誓いのキスを」
俺の鼓動がこれまでにないくらい早くなる。ベールをあげると目をつぶるナルディアが露わとなる。その姿はこれ以上もないくらい神々しく見えた。ゆっくりと顔を近づけ、唇を合わせる。唇を合わせた瞬間、形容しがたい衝撃が俺を駆けぬけた。俺もナルディアを好きなんだろう。自由奔放でいて繊細、そんなナルディアと過ごす日々が思い出される。なし崩し的に決まった結婚だったが、俺も内心はそれを望んでいたのかもしれない。
最後に司祭が二人の結婚が成されたと公表した。これで名実ともに俺たちは夫婦となったのである。
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俺たちは馬車に乗り、ヘルブラントを回る。多くの民衆が祝福の声を上げてくれた。パレードは無事に成功し、いよいよ宴会である。宴会と言っても披露宴のようなものかもしれない。宴会場には多くの関係者が集まっていた。時間になると、国王ティアネスの挨拶から始まるのであった。
「皆の者、今日は誠にめでたい日である。このワシに息子ができたのである。大いに楽しみ、大いに飲んでほしい。早速だが、ワシから娘夫婦に対して贈り物を渡したいとおもう。ナミュール城を与えることとする!」
ナミュール城を渡すと聞いた参加者は驚きの声と歓声があげる。この国に王以外の特定の個人が所有する城は存在しない。異例の出来事に驚きの反応は当然ともいえる。驚いたのはハンゾウたちも例外ではない。
「お兄ちゃん聞いた?ジーク様がナミュール城を貰うんだって」
「俺もそう聞いた」
「ってことは、私たちもお城に住むことになるのかな?」
キキョウは楽しみーと聞こえてくるような表情でハンゾウと話す。
「まあ待て、俺たちはジーク様にただ従うだけだ」
「ふふ、それもそうね」
ハンゾウは妹をたしなめ、キキョウも素直に応じるのであった。
「まったく・・・父上も考えおったの」
俺と一緒に前の椅子に座るナルディアが感心したような声を漏らす。
「ナミュール城のことか?」
「うむ。結婚祝いと言うことであれば表立って不満が出てこぬであろう?」
「なるほど、そういうことか」
「嫉妬というのは醜いものじゃからな。嫉妬のあまり良からぬことを考える輩も出てくるかもしれぬ。じゃが、余の婿となれば話は別である。忠誠心のある者であればすんなり受け入れることじゃろうな。父上もよく考えられたものだ」
どうやらティアネスなりに考えてくれていたようだ。というより、領主がいるのに城主がいないというのも不思議な話である。おそらく、城だけは直轄地として扱っていたのだろう。
「なあ、ナルディア、これから忙しくなるぞ?」
ナルディアはくふっと笑みを浮かべ、望むところじゃと言ってくれた。ティアネスの挨拶が済むと、デルフィエを始めとした長官、将軍たちが挨拶に来る。正直、多くの人が形式的に話しかけてきたから対応が実に面倒だった。
「よっ、すっかりお疲れじゃないか」
「んなもん、ダルニアなら言わなくてもわかるだろ?」
「まあな」
タイミングを見計らって来てくれたダルニアが救いであった。
「形式的なことに俺は興味ないからな」
ナルディアが俺の耳を引っ張る。
「いだっ、いたたっ」
「おぬしよ、これからは王族となるのだ。こういうことに慣れる必要もあるのではないか?」
ナルディアの言うことはもっともである。でもお前だって城は退屈だーとか言ってただろと思ったがあえて伏せておく。耳を引っ張るのはひどいと思うが、日頃の仕返しかもしれない。
「はっはっは、すっかり尻に敷かれているんだな」
ダルニアがからかってくる。
「お前も家じゃそうなんだろ?」
「よくわかったな。まあ、奥さんが強いくらいがちょうどいいもんだよ」
からかい返したつもりが、思いのほか素直な返答で拍子抜けである。
「ふーん、そんなものなのか」
「年長者の俺が言うんだから間違いはない。ともあれジーク、それに姫様、この度はおめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「うむ、わざわざすまぬな」
「ってあれ、ジークは国王陛下の息子になるってことだよな・・・となると、もう気軽に呼び捨てできないな」
ダルニアがまたまた冗談交じりの口調で俺をからかう。俺の答えを分かり切ったうえで、あえて言っているのだ。
「んなもう、言わなくてもわかるだろ?」
「ヒュー、さっすがジーク様、お心が広いですね」
「ったくお前はからかいすぎだっての」
「あははは、いやー悪い悪い。たまにはナミュールへ行ってもいいだろ?」
「ああ、もちろん歓迎する。その時にでも、またハンゾウたちの稽古をつけてやってくれ」
「またタダ働きか?」
「食事くらいは出そうじゃないか」
「ったく、友人にひどい扱いをしやがる」
「「あはははは」」
ダルニアが話に来てくれたおかげですっかり気がまぎれた。宴会と言う名の披露宴を終えた俺たちは、無事に初夜を過ごし、2日後にはナミュール城へ向かうことになった。もちろん、ハンゾウたち全員を引き連れての引っ越しである。必要最小限のものだけ準備し、不要なものは追々送ってもらうことにした。こうして、ナミュール城主となった俺の新たな日々が幕を開ける。
これにて内務長官編は完結です。
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次回はナミュール城主編となります。




