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シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~  作者: 葵刹那
第一章 内務長官編
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第18話 ミシェルの正体

 俺はカジノでミシェルという女性と出会った。ミシェルは俺に乗っかる形で大勝ちし、俺と仲良く出禁になってしまう。それでも大勝ちして機嫌を良くしたミシェルは俺たちを食事に誘ってくれた。俺とナルディアは誘いに乗り、3人でレストランに来たのであった。


「3人ね。個室でお願いできる」


 ミシェルに連れられてレストランへやってきたが、随分と高そうな店だった。俺たちは個室に案内され、それぞれ好きなものを注文するのであった。


「好きなものを頼んでいいわよ」


「え、ほんとにいいんですか?」


 この店のメニューに書いてある金額は他の店と一桁ほど違うようだ。昨日、俺とナルディアでいった料亭に匹敵する値段である。


「もちろんよ。今日はお姉さんがご馳走するっていったでしょ?あ、といってもコース料理だから好きに頼めるのは飲み物しかないわね」


「わかりました。ありがとうございます」


 うんうんとミシェルは頷く。


「スペシャルディナーを3人分もらえるかしら。あなたたち、なにか飲み物は?」


「では赤ワインを」


「余も同じく」


「なら赤ワインをボトルでもらえる?」


「かしこまりました」


 今晩も高級料理をいただくことになりそうだ。この店は鉄板料理の名店のようで、豪快にステーキを焼く音が聞こえてくる。


「さて、注文も済んだことだし、改めて今日はありがとうね」


「いえいえ、偶然です」


「いやだわ。偶然であれだけ勝てるわけないもの。安い家を買えるくらい稼いじゃったわ」


「おぬし、いったいいくら買ったというのだ?」


 小声でナルディアが聞いてくる。


「えっと、ざっと21万かな」


「なっ・・・21万!?」


 シャルナーク金貨とのレートを1枚2千サミュエルドルで計算すると、ざっと105枚分だ。確かに家を買えるかもしれない。ナルディアは驚きのあまり声を失っていた。


「ねえ、ところであなた、ジークって言ったわよね?」


「そうですが」


 ミシェルの目線が鋭くなる。


「もしかしてあなた・・・シャルナーク王国の人じゃないの?」


「いえいえ、敵国の人がここにいるわけないですよ。私はベオルグ公国出身です」


 出まかせをいう。


「ふーん、あなたは?」


 ミシェルはナルディアを見る。


「ん?余もベオルグ公国の出身じゃ」


 ナルディアも俺に乗っかってくれた。間一髪である。


「余・・・ねぇ」


 あ、これはいけない予感がする。また余って言いやがった。


「ねえ、あなた、本当はどこかのお姫様かなにかじゃないの?」


「そんなわけ、な、ないではないか。余はどこにでもいる娘じゃ」


 あっ・・・詰んだかもしれない。挙動不審なうえに自分を余って呼ぶ娘がどこにいるんだよ。ミシェルがクスッと笑う。


「あなた、よっぽど嘘が下手なのね。警戒しなくていいわ。私はあなたたちの敵じゃない」


「その根拠は?」


 これ以上ナルディアに話させるとますます墓穴を掘りかねない。俺が対応することにする。と、そこで店員が赤ワインを運んできた。


「赤ワインをお持ちいたしました。また、こちらが食前酒のスパークリングワインと前菜の海老とアスパラガスのサラダになります」


 3人のグラスに赤ワインを注ぎ、食前酒と前菜が置かれる。


「さて、先に乾杯と行きましょうか。せっかくの出会いを祝して、乾杯」


「「乾杯」」


 3人が食前酒をくっと一口で飲み干す。隣のナルディアはんんっと声を出し、スパークリングワインを堪能していた。俺の気も知らないで。


「おぬし、そう身構えるな。この女は危害を加える気などない。ましてやここが監視されているわけでもない」


 能天気なようでちゃんと見ているようだ。ミシェルはうんうんと頷いている。


「警戒されるのも無理はないけどね。私から自己紹介したほうが早いかもしれないわね。私の名前はミシェル、アスタリアの妹よ」


 どうやら向こうは胸襟を開いてくれたらしい。アスタリア・・・どっかで聞いたような・・・。


「ほう・・・おぬし、あの女王の妹だというのか」


 ナルディアは理解しているようだ。


「ええ、あなたたちも私と似たようなものでしょ?」


 ナルディアがふっと笑う。


「お見通しのようじゃの。余はシャルナーク王国国王ティアネスの娘でナルディアである。そこのジークは余の護衛じゃ」


 女性陣でいつの間にか話が進む。・・・っておい、いつから俺は護衛になったんだ。


「やっぱりっ!そうだと思ったのよ。ジークって新しく内務長官?という役職に就いた人でしょ?」


 ミシェルが歓喜を前面に出している。


「ええ、よくご存じですね」


「おぬし、有名になって良かったの」


 ナルディアがニヤニヤしながら茶化す。


「もちろんよ。いきなり長官に抜擢されるのだもの。どんな人なのか各国が情報を集めるに決まってるじゃない。それに、クヌーデル城の話は有名だもの。まさに智勇兼備の人ってことでしょう?」


 想像以上にあの戦いの話が広まっているようだ。褒め殺し状態である。


「うむうむ、ジークはあのイリス相手に渡り合えるのだからな。これくらいの評価は当然である」


 なぜかナルディアが得意げに語る。


「いや、直接・・・」


 直接戦ったことはないと言おうとしたが遮られてしまった。


「まあっ、それは素晴らしいわ。ねえジークさん、良かったらうちに来ない?姉さんに頼んでできる限りの礼を尽くすわ。もちろん、私の婿でもいいわよ?」


 婿と聞いてむっとするナルディア。


「なっ・・・きさま・・・よくもぬけぬけと。よいか、ジークは余の婿になるのじゃ。きさまに渡すものかっ!」


 あれ、これってどういう展開なんだ。急展開過ぎて理解が追い付かない。


「あら、ジークさんは大人の女性の方がお好みではなくて?こんな頭がお花畑のお姫様は捨てて、私と一緒になりましょ」


「っ、きさまっ、誰がお花畑じゃ!」


「あーら、違うのかしら?」


「余はお花畑などではないわっ!きさまこそ余のジークに近づくでない」


 ツッコミどころが多すぎて、何も言う気力がなくなった。と、そのタイミングでスープが運ばれてきた。ナイスタイミング。見事に二人の言い争いが中断した。目線で激しく戦っているが・・・。話題を変えるとしよう。


「それで、ミシェルさんはどうしてカジノに?」


「ふふ、それがね、イリスの国葬と聞いてやってきたのだけれど、教会に入ることができなくてね。時間があったから暇つぶしにカジノへ来たってわけ。そしたら、可愛い坊やがいるのだもの。からかい半分に見てたけど、勝ち続けるのよ。長い物には巻かれろっていうじゃない?今日はそのおかげでホクホクよぉ」


 ミシェルは俺たちと似たような思考回路だったらしい。にしても、よくしゃべる人だ。


「なら、俺たちと同じですね」


「でもなによりも、ジークさんと出会えたことの方が大きいわ。あなた、これからますます有名になるはずですもの」


「うむうむ、余も同感じゃ」


 二人の間に共感が芽生えたらしい。


「もちろんよ。優秀な男に近づきたいっていうのは私たちの本能じゃない?」


「うむうむっ。おぬし、これから余のことをナルディアと呼ぶがよい」


「あら、それならあなたも私のことをミシェルと呼んでちょうだい」


 さっきまでの言い争いはどこへ行ったのやら・・・すっかり意気投合している。


「よし、ミシェル、今日からおぬしは余の友じゃ!」


「それはいいわね。他国のお姫様と友達になれるなんて嬉しいわ」


 まあ、いがみ合うとく比べたら遥かに歓迎する展開だから何も言うまい。


「うむっ、決まりじゃの」


「ええ、本当に今日はいい日だわ」


 良い感じに場が馴染んだタイミングで魚料理が運ばれてくる。タラのムニエルを口に運ぶ。


「あら、おいしいわね」


「ムニエルと言ったか。実に美味である」


 そういえばミシェルは国葬のためだけに来たのだろうか?


「ミシェルさん」


「ミシェルでいいわ。私もジークって呼ぶわね」


「わかった。それではミシェル、どうしてわざわざこの国に?」


「そんなもの決まってるじゃない。偵察よ。最初はイリスの後任を探りに来たんだけど、今は次期総統の動向ね。あなたたちもそうでしょ?」


「ええ、そんなところです。もしかしてお一人ですか?」


 実際は旅行のついでだが、あえてそれを言う必要はない。


「一応護衛もいるわ。国葬の様子を見張らせてるのよ。あ、これでも私、円月輪の使い手なのよ?」


 円月輪・・・?俺の疑問を感じ取ったのか、ミシェルが答えてくれた。

 円月輪は別名チャクラムとも呼ばれ、円形の輪の外側に刃が付いているのである。輪を回して勢いをつけ、投げて殺傷する武器だ。弓と言った遠距離主体には不利だが、50mくらいまでなら無類の強さを発揮する。取っ手のある円月輪の場合は、投げずに使うことも可能である。もちろん、投げてしまったら回収に行かなくてはならない。


「ということは大体の相手なら圧倒できるというわけか」


「ご明察♪」


「円月輪のう・・・かっこいいではないか」


「ふふ、ありがとう。だから私一人でも大きな問題はないのよ」


 護衛を置いていっていいのかという疑問を読まれていたようだ。メインの牛ステーキが運ばれてくる。


「んんっお肉がとろけるのじゃ」


「あらーおいしいわ」


 俺もステーキを食べてみる。口の中で肉の繊維が溶けるように崩れていく。形容しがたい美味しさが口を襲っている。この味を忘れることはないだろう。


「ジークも気に入ってもらえたみたいね。あなたって声に出さないけどちゃんと表情に出るんですもの。喜んでもらえてなによりだわ」


「バレましたか。本当においしいです」


 ミシェルがうふふと笑う。


「ねえ、せっかくだからうちとシャルナーク王国で友好を深めましょうよ」


 ミシェルの提案にナルディアがよい案だとばかりに頷く。だが、シャルナーク王国とツイハーク王国は領土が隣接していない。物理的に誼を通じるのが困難なのである。サミュエル連邦をこっそり経由してやり取りをおこなうことになるのだろうが・・・敵地を経由するのはあまり望ましくない。


「それは国王ティアネスも喜ぶことでしょう。ですが、どう連絡を取りましょうか?」


「しばらくは船でどうかしら?」


「それが現実的ですね」


「もし次に攻めるなら、うちと連絡の取れるような場所にしてね」


 ミシェルの一言で、俺の中で採るべき戦術が浮かび上がる。今となっては後の祭りだが、やはりツイハーク王国に近いハルバード城を失ったのは大きな痛手だった。


「できる限り善処します。ツイハーク王国との友好については、国に戻り次第国王にお伝えします」


「それで問題ないわ。私も姉さんに話しておくわ。はいこれ、私の住所ね。良かったら連絡ちょうだい」


 ミシェルはササッと紙に住所を書くと俺に渡してくれた。俺も我が家の住所を書いた紙を渡す。


 この後、俺たちは運ばれてきたデザートと食後のコーヒーをいただき、今日は解散となった。


「今日は楽しかったわ」


「こちらこそ、ご馳走さまでした」


「お互い道中気を付けましょ」


 そういうとミシェルは俺たちと反対方向に歩いていった。こうして、思わぬ出会いからツイハーク王国との繋がりができるのであった。

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