第13話 旅立ち
俺は旅行の準備をするために、ナルディアとともにへルブラント中心部に来ている。約束していた買い物とはちょっと違う中身になったが、ナルディアは楽しそうだから良しとしよう。
俺はナルディアに言いくるめられる形で条件付きの許可を出した。ティアネスとテリーヌが納得したら一緒に行こうという内容だ。あの二人ならきっと・・・なんて、思っていた俺がバカだった。
ナルディアから旅に行きたいと聞いたティアネスとテリーヌは大反対していた。しかし、ナルディアは誰の説得にも耳を貸さず、最終的にはナルディアの言うことに皆が従う格好となった。特にティアネスは、娘怖いと漏らすほどに強烈な説得を受けたらしい。まあ、そうだろうとは思ってたけど・・・。こうして大義名分を得たナルディアは、堂々と俺の旅についてくることになった。
「すっかりご機嫌だな」
「うむっ、余も旅は初めてである。楽しみに決まっておろう」
俺はナルディアの世話係になりそうで気が気ではない。
「のうジーク」
「んー?」
「どこへ行くつもりなのじゃ?」
そういえば旅の行き先を言っていなかった。
「詳細は決めてないけど、ひとまずミスリアへ行くつもりだ」
「なんとっ、サミュエル連邦の首都に乗り込むのじゃな」
「ああ、この目で見ておこうと思ってね」
「くっくっく、余の力を存分に見せつけようではないか」
あの・・・ナルディアさん?仕方ない。武力行使だ。
ペシッ
「あたっ」
俺に頭をはたかれたナルディアはなぜだと目線で抗議していた。
「お前、戦いに行くのと勘違いしていないか。いいか、俺たちは旅行に行くんだ。わかるか?」
「も、もちろんわかっておるわ」
俺の疑う目にばつが悪そうに目を逸らす。
「まあ、騒ぎを起こさないでさえくれたら俺は構わないよ」
「余を誰だと思っておる。余に限って騒ぎを起こすなどありえぬっ」
その余って言葉遣いが怖いんだよなあ・・・。箱入り娘だし。もし、ナルディアがシャルナーク王国の姫様だってバレたら大問題だ。その対策は後で考えるとしよう。そんなこんなで歩いていると雑貨屋が目についた。
「あの店で必要なものを買うとするか」
雑貨屋に入ると、実にたくさんのものが売られていた。ナルディアはなかなか来る機会がないのか、興味深そうに辺りを見渡している。
「なあ店主、旅行に必要なものってなにがある」
俺が店主に聞いてみると、色んなところからポイポイと物を取り出して目の前に持ってくる。
「最低限必要なものはこれくらいでしょう。お兄さん、野宿も?」
俺は頷くと追加で小さな鍋とかを取り出してきた。ナルディアは野宿と聞いても全く嫌そうな反応をしない。考えてみれば、戦場で野営ができるのだから当然だろう。必要最低限の荷物で行きたいから余計なものを減らしてくれと頼みつつ、ここで多くの品を仕入れるのであった。
次にナルディアと向かったのは市場だ。ここでは携行食を調達する。さっそくナルディアと見て回っていると、すぐに目当ての店が見つかった。即席のインスタントスープなどを販売しているお店だ。
俺がスープや干し芋を見ていると、隣にいたはずのナルディアがいなくなっていた。辺りを見回すと、どうやら3つ隣の店を覗いているようだった。買い物を終え、ナルディアのもとへ向かう。
「なにかいいものでも見つけたか?」
「ジークよ、あれはなんじゃ」
ナルディアが指差す先を見てみる。
「ああ、あれは焼豚だよ」
目の前にはひもで絞めあげられた焼豚がいくつも並んでいる。それを食い入るようにナルディアは見ていた。
「食べるか?」
コクコクと頷く。
「それ、2つもらえる?」
「へいっ」
俺は焼豚を2つ購入する。
「なぜ2つなのじゃ?」
「焼豚は保存食にもなるんだよ。だから一つは今日のご飯に、一つは旅に持っていこうと思ってね」
「ふふ、おぬしは本当に物知りじゃな」
唐突に褒めるのは反則だろ。
「どうした急に」
「まあまあ、そう照れるでないわ」
俺の反応がお気に召したのか、ナルディアはしばらくニヤニヤしていた。買い物を終えて家に戻ると、ダルニア、デルフィエが待っていた。
「ようジーク、先に上がってたよ」
「ジーク様、お招きいただきありがとうございます」
「お、もう来てたか、出迎えできず申し訳ない」
今日は謝恩会を兼ねた簡単な食事会だ。デルフィエにはハンゾウたちの面倒をお願いすることになるし、ダルニアには休日に訓練をしてもらっている。明日からへルブラントを留守にする俺は、良い機会とばかりに二人を呼ぶことにした。
「皆さま、食事の用意が整うまで今しばらくお待ちください」
キッチンからテリーヌの声が聞こえる。まだまだ時間がかかりそうだから、俺はダルニアたちと話すことにした。
「ダルニア、ハルバード城では大変だったそうじゃないか」
「そんなことなかったぞ。大きな戦いは起こらなかったからな」
「ですが、コレルリ将軍がお亡くなりになったとか」
デルフィエも口を開く。
「ああ、デルフィエ殿もよくご存じか」
「もちろんですとも、彼の父とは若いころから仲良くおりました。しかし、残念な限りですな・・・」
デルフィエは無念の表情を浮かべていた。
「仕方ないだろう。心配と言えば彼の一人娘だが」
「あのフィオナちゃんですか。小生も一度だけお会いしました。とても可愛らしい子です」
俺は二人の会話を黙って聞いている。
「まだ7歳とか」
「まったく、その歳で父親を無くすことになるとは・・・戦いで命を落とすことがよくあることとはいえ、小生のような老い先短いものが生き、若者が死ぬのは何とも悲しい気持ちになりますな」
「デルフィエ殿、そうおっしゃらないでください。まだまだこの国はデルフィエ殿が必要なのですから」
「いやいや、年寄りの世迷い言です。忘れてくだされ。そのフィオナちゃんですが、どうやら新しくできる学校に入るようですな」
へえ・・・学校の話もちゃんと進んでたんだな。俺も話に加わることにする。
「その学校はどんな名前に?」
俺は政策こそ立案したが、実際の運用は教育長官に一任している。そのため、どう実行されたのかは初めて聞くことになる。
「どうやらへルブラント王立学校という名称になるようです」
へルブラント王立学校・・・単純だけど悪くはない名前だ。ひとまず教育という概念を植え付けることに成功したのは事実である。あとは、試行錯誤でより良い環境に変わっていくことを願うばかりだ。
「そういえばダルニア殿の・・・」
デルフィエが新しい話題を出そうとすると、準備ができましたと聞こえてきた。俺たちは早速移動することにした。
食卓には見るも鮮やかな料理が並んでいた。前々から思っていたが、この国はイタリアの料理と似ている気がする。俺の買ってきた焼豚に、トッパのトマト煮込み、ボーンステーキ、スティックサラダ、カプレーゼと食欲をそそる逸品が立ち並んでいた。
全員が揃ったのを確認したテリーヌは、それぞれのグラスに飲み物を注いでいく。それが終わると、俺に挨拶するよう耳打ちした。
「みんなが無事に戦いから帰ってこれたことを俺は嬉しく思う。明日からは俺のわがままで家を空けることになるけど、必ずなにかしらの収穫をもって帰ってこようと思っている。だから・・・」
「ジークよ、長いわっ」
ナルディアが茶々をいれる。
「ったく・・・まあいいや、またこうやって集まる日のために、元気でいような!乾杯!」
「「「乾杯」」」
我ながら最後はテキトーになってしまった。すっかり恥ずかしくなって顔を赤くしてしまった。
「おいおい、今回の戦いで武功第一の人とは思えないな」
「仕方ないだろ、慣れてないんだよ」
良いものが見れたとばかりにダルニアは盛大に笑っていた。ナルディアはぷっくっくと、デルフィエはほっほっほと楽しそうに笑っていた。
「あ、おい、キキョウ、それは俺のだっ」
その一方でハンゾウの焼豚は盗難被害にあったらしい。もうキキョウの胃袋の中だろうけど・・・。
「ほら、私のを分けてあげます」
意外なことにテリーヌが焼豚をハンゾウに分けてくれた。日頃はメイドとして振舞っているところばかりを見ていたが、どうやらこれがテリーヌの素の姿のようだ。今年で25歳らしい?テリーヌが姉のように振舞う珍しい場面を垣間見ることができた。
「あ、お兄ちゃんずるーい!テリーヌさん、わたしにもちょうだい」
「お前が俺のを取ったんだろっ」
みんなの笑い声が俺の家中に響く。思い思いに楽しんでいるらしい。そうそう、テリーヌには留守番をお願いしている。ついでにハンゾウをみっちりしごいてくれるそうだ。本当は俺たちの旅に付いてくる気だったが、どういうわけかナルディアが頑なに認めなかったらしい。
ーーーーー
翌朝、朝食を終えると荷物をまとめるとちょうど出立する時間になった。
俺はリュックを背負い、馬の準備を終える。玄関にはハンゾウ、キキョウ、ムネノリ、テリーヌが見送りに来ていた。
「申し訳ございません、ジーク様」
なぜか謝るテリーヌ。
「いやいや、どうせいつものことだろう」
なんて言ってると、ドタバタと階段を下りる音が聞こえてくる。
「待たせたな」
ペシッ
「あだっ、余は少ししか遅れてないぞっ」
俺がナルディアの頭を軽く叩くと無罪だと訴える目線が返された。
「コホン、ジーク様、くれぐれもお嬢様をよろしくお願いいたします」
テリーヌはさながら旅立つ我が子を見送る母親のようである。もちろんそんな老け込んではないが。
「余を子ども扱いするなっ」
ナルディアが何か言っているが俺もテリーヌもスルーする。
「ああ、任せてくれ。なに、単なる物見遊山だよ。そんな危ないことはないだろう。テリーヌもみんなもここをよろしくな」
「はい、お任せください。お嬢様もお気をつけて」
「このキキョウ様が守るんだから。まっかせといて」
「ジーク様、道中お気をつけを」
「先生、おみやげ待ってるね!」
こうして別れの挨拶を済ませた俺たちはサミュエル連邦の首都、ミスリアへ向かうのであった。




