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俺の夢が、目標が、目的が、達成されたのだ。
これでやっと、俺にも将来のことを考える余裕が生まれた。正直、この子が神竜であることを世界に公開すれば、俺はどんな職業にも就けるし、それどころか一生働かなくても最高の地位と富を約束される。お金持ちとのコネが自動的に増えまくり、美女がひっきりなしに寄ってくるだろう。
でもその未来に、魅力は感じなかった。
嫉妬により狙われるかもしれない。人類を脅かす危険と見られて暗殺されるかもしれない。
仮に好意的な連中が近付いて来たとしても、それは神竜ありきの話だ。神竜とどうやってコネクしたのか、おそらくそう言った情報が欲しいだけだろう。
こんな危険で虚しい未来は避けるべきだ。
そこで俺は考えた。
まず、リナにはずっと人化状態でいてもらうこと。俺の命の危機のとき、もしくは絶対に誰にも見られていない時のみ、神竜の姿に戻って良いということ。
続いて、リナは竜族ではなく、妖精族として扱うということ。
竜族とバレたらそれだけで大変なことになる。特に、竜が人化できるという事実がヤバイ。
あとひとつ。
リナは、サードコネクで得た従魔ということにする。
妖精族は、大抵はAランクかそれ以上だ。そんな魔物を、『図鑑』というスキルしか持っていない俺がファーストコネクで手に入れたとあっては怪しまれる。
どうせ嘘だろう、と思われること自体は問題無い。しかし、例えば職場にそれを提出したとして、もしも詐称疑惑が浮上し、実際に裁判で本格的に詐称を疑われた場合、法律で強制的に取り調べをされてしまうのだ。
どの魔物がいつのコネクのものなのか、というのは、国の持ち物であるこの世でたった1つのある装置を使用すれば簡単に分かってしまう。俺にとって問題なのは、それで調べられた際に、従魔が何族なのかがバレてしまうことだ。リナが竜族だとバレるとマズイ理由は先程述べた通りである。
というわけで、リナは、『サードコネクで得た妖精族』という扱いにしようと決めたのだ。これならばさすがに詐称疑惑をかけられることも無いだろう。仮に俺のことを嫌っている連中が勝手に疑ったところで、そんな個人的な毛嫌いや気分が通用するほど裁判は甘く無い。
この約束は、リナと俺、両方のための約束だ。
さてと、その上で俺がなりたい職業、それは
『冒険者』である。
俺は昔から色々なことに興味があった。
だから、世界中を旅するのは俺の夢の一つだった。
また、自由であるというのもいい。
どこに行くのも自由だし、どの依頼を受けるかというのも自由。自分の命の責任は自分にあるし、資金をどのくらい稼げるかというのも自分次第。
そういう自由は素晴らしいと俺は思う。
ルールだらけの学園など懲り懲りだ。
ただし、ひとつだけ問題がある。
冒険者になるための条件。それが、学園を卒業していることだ、、、。
我慢して通うしか無いか。
退学するつもりで家を出てきたものの、まだ学園を離れて4日ほどしか経っていない。これから後二体の魔物とコネクするにしても、リナがいればそんなものは3日もあれば終わる。
つまり、1週間弱、学園を無断欠席しただけなので、復帰自体は余裕なのだ。
退屈で辛い学園生活だが、あと三年くらいの辛抱だし、卒業くらいしておこうか。
そう心に決め、俺はファルとリナと一緒に従魔探しの旅に出た。
さてと、どんな魔物をコネクしに行こうか。
正直、山ほどある中から選び放題だ。まだ若いメスの神竜とは言え、神竜は神竜だ。最強種の中の頂点は伊達じゃ無い。リナさえいればどんな魔物だって従魔に出来る。
俺はまずいくつかの条件で絞り、その中で最も強く様々な場面で役立ちそうな魔物を選んだ。
さてと、行動あるのみ。
俺とリナは、ファルに乗って朝の空を舞い上がる。
目的地は、デビリッジという場所だ。
そこに人間は住んでおらず、古びた屋敷や壊れかけの建造物が散乱している。そんな場所にわざわざ名前をつけられているのには理由がある。
そこらへん一帯は、悪魔たちの住処なのだ。悪魔は普通、群で行動するような性質は持ち合わせていない。
しかしそのデビリッジには統率のとれた悪魔たちが住み着いていた。
原因は不明。どうして集まったのか、どの悪魔がリーダーなのか。何一つ分かっていない。
未だにそういった調査が行われていない理由はいくつかある。
まず、高難易度であること。悪魔は弱くてもBランク、高ければSランクなんて場合もある。一対一ならまだしも、統率の取れたそいつらと戦うのは相当に厳しい。
加えて、その悪魔たちは、人間に被害をもたらしたことが無いので、ワザワザそれを刺激しない方がいいという見解の人がほとんどだった。
そんなわけで、デビリッジについてはっきりと言えることは、謎がたくさんということである。
まあそれでも、探し回らずとも、デビリッジにさえ行けば確実に悪魔と遭遇出来るという点に関しては感謝しなければならない。1から探している時間など俺には無いのだから。