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さて、いよいよファルが地面に着地する。
そこは岩陰で、周囲からこちらを簡単に発見することは出来ない場所。つまり、魔物に襲われにくい場所と言える。今日はここで夜を明かすことにする。
持ってきていた保存食をボリボリとかじりながら、干し肉をファルに与える。
ファルはとても役に立つパートナーだ。
例えば寝床。ファルがいればテントなどいらない。ファルに包み込んでもらって眠ればいいからだ。加えて言うなら、テントで眠るよりもよほど安全で、かつふわふわな体毛のおかげで快眠出来る。
移動時にはファルに乗って空を飛べる。
時間短縮、体力温存、メリットは計り知れない。
かけがえの無いパートナーのことを優しく撫でてから、そのパートナーに包まれて眠った。
朝が訪れる。
太陽の光は直接は差し込んで来ない。
夜に来た時とは全く違った景色がそこには広がっていた。
いよいよ、俺の全てをかけた作戦が始まろうとしている。
まずは、この辺り一帯の調査だ。
神竜の、『痕跡』を見つけ出す。図鑑で調べに調べたそれは、頭の中に完璧に染み付いている。
目立たないようにファルを低空飛行させながら、目に付いたものがあるたびに着地して調査をする。
根気よくそれを続けて6時間。
ついに竜の痕跡を発見する。神竜のものかはまだわからない。竜にもたくさんの種類がいるのだ。
その付近を重点的に調べていると、おもしろい痕跡を発見した。3匹の竜が争ったような形跡があったのだ。
竜のものと思われる血液も少なからず散乱しており、その血の固まり具合から計算して、おそらく1週間以内のものだと分かった。
竜というのはこの世界で最強の種族であり、その竜が出血するほどの大きな争いとなると、想像を絶するものがある。
自然と手が震えた。
恐怖によるものなのだろうか。
いや、それは溢れ出る期待だった。
地獄のような日々を乗り越えて、ついに竜という存在の近くまで来てやったぞという達成感だった。あるいは、ここまで来たからには成功させてやる、という意気込みだった。
先ほどよりも警戒心を強めつつ、期待を込めて調査を続けた。出血した竜が飛び立ったであろう方向を、ほぼ正確に特定できたころには日が沈んでいた。