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さて、18歳の大イベント。
今日は『ファーストコネク』の日である。
学園には、捕獲された魔物たちが大量にいる。
今日こそ、それらの魔物の出番である。
魔物の種類ごとに区画が区切られていて、生徒はどの魔物と戦うのかを選ぶ。
魔物は強さによってSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランクに分類されており、持っているスキルによって、生徒たちはどのランクの魔物を従魔とするのか、頭をひねる。
自分で戦い、屈服させなければ、コネクを行うことは出来ない。だから当然、2人1組で戦ったり、他の人に魔物を倒してもらってからコネクする、などといった行為は不可能なのだ。
強いスキルを持っている生徒は、目を輝かせながら、自信満々といった様子で、BやAランクのコーナーへ足を運んでいる。
逆に弱いスキルしか持たない生徒は、うつむくようにしながら、誰でも倒せるDランクの魔物のコーナーへと向かっていた。
今日、俺がやることはひとつだ。
さて、もうプライドも何も無い身だ。自分の目的のために、せいぜい演技させてもらおう。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!助けてくれ!!!俺には無理だ!!!」
盛大に俺は叫び、尻餅をついた。
相手にしている魔物は、小型の犬のような魔物。本来なら、俺の格闘技を使えば軽くひねりつぶせるような相手なのだが、、、。
「おい、みろよあいつ。」
「だっさーーー。マジうけるんですけど。」
「え、最弱の魔物だよなあれ。」
「まあ仕方ないよ、だって、図鑑くんだもん。」
「だな。」
こっちを見ていた生徒たちが、楽しそうに大爆笑している。
これでいい。
このままどの魔物ともコネクせずに、『ファーストコネク』というイベントを終える。
なぜなら、俺のファーストの相手は神竜でなければならないからだ。
そのままどの魔物ともコネクせず、イベントは終了した。
そして高等部に進学した俺は、『図鑑くん』という呼ばれ方の他に、『独り身戦士』とも呼ばれるようになった。
どんなに弱いスキルの生徒でも、ファーストコネクは成功しているのだ。
だが、俺には未だにコネクした従魔がいない。そのことをバカにした呼び名である。
そんなに人のことをバカにして、よく飽きないなぁと思う。よっぽど暇なのだろうか。
スキル制定のあの日から、美代とはほとんど会話していない。俺が遠ざけたというのももちろんあるが、周りが俺と美代を近付かせないように圧力のようなものをかけているというのも大きいだろう。
まあ、いい。
弱い自分に自由などない。
それはどんな世界でだって同じだ。
だったら、早く強くなればいいだけの話。
俺があの日から努力してきたことは主に三つだ。
一つ、神竜について調べ尽くす。
二つ、コネクというわけではなく、魔物を卵から育て上げて、戦いのパートナーとする。
三つ、格闘技をさらに鍛え、神竜相手に戦うということを意識した訓練を積む。
魔物を育てあげるというのは、想像以上に大変だ。
そもそも、コネクしていないと魔物は、思った通りに動いてはくれない。どんなに懐いていたとしても、ちゃんと戦ってくれるかどうかは別の話なのだ。
また、魔物を育てるなんていう酔狂な人がほとんど存在しないので、餌もショップには売っていない。自分で用意しなければならないのだ。そればかりか、どんな風に育てればいいかも分からない。
その点、俺の図鑑は便利だった。
懐きやすく、知能がそこそこあって、戦闘のパートナーになれる魔物。
その魔物を調べあげ、命がけでその生息地に行き、卵を盗んで帰ってきた。
何度も魔物に襲われたが、その付近に生息する魔物の特徴を事前調査し、図鑑を読み込んで理解していたため、アイテムと自分の格闘技を生かして、なんとか命からがら生還することができたのだ。
持ち帰った卵の種類、それは『セイントバード』
鳥獣族に分類されるが、フェアリー属性も兼ね備えている魔物。竜族のただ一つの弱点属性だ。
成長すれば三メートルを超えるほどの巨体となるため、人が上に乗って空を飛ぶことも可能。
成長したセイントバードは、Aランクに分類されるほどの魔物。
それを、ろくなスキルもない俺が一から育てるなど、ほぼ狂気に近いと言える。
それでも俺は諦めなかった。セイントバードの特徴を知り尽くし、パートナーとして多くの時間をセイントバードと過ごした。
最初は小さかったセイントバードも、
二年も経てば立派に成熟し、今では二メートルもの巨体になっている。なんとか今まで部屋の中で隠し通して来たが、もうそれも無理だろう。
おれは今日、学園を離れることを決意した。
退学という例など、ほとんど聞いたことのないレベルで少ない。ましてや自分から離れるなど。どんなに弱いスキルの生徒でも、学園を無事に卒業出来れば、最低限生活していける程度の補助はうけることができるのだ。
だけど俺は興味が無かった。
目指すのは神竜。目指すのは頂点。それだけだ。
その日の晩、荷物をまとめて、それらをセイントバードにくくりつけ、夜の空を舞い上がった。
実際に外に出て訓練する機会など、ほぼ無かったのだが、さすがは知能の高い魔物。俺の意思を汲んで、飛んで欲しい方向へとぐんぐん進む。
長年すごした学園だが、不思議となんの未練も無かった。まあそれもそうか。いい思い出などほとんど無いのだから。
夜の風が冷たい。
空気中の水分が顔にあたる。
俺の中に浮かんできたのは、下に見える夜景が綺麗だなぁという感想だけだった。
飛び続けること三時間、目的の場所が見えてくる。そこは渓谷。そびえ立つ山々と、深く底が見えない真っ暗な谷。
いかにも、竜が住処に選びそうなこの場所は、図鑑に記されていた、竜が潜む場所の候補の一つだ。
「ファル、そろそろ着陸してくれ。」
セイントバードの見た目が、大きな鷹、ファルコンのように見えることから、俺はファルと名付けたのだ。
ファルは俺の意図を察したのか、少しずつ高度を下げ始めた。もしコネクした状態なら、そもそも『念話』という形で従魔と会話ができる。喋るとなぜか言葉が通じる、という感じである。戦闘の際も、例え従魔がどんなに怯え、戦闘を拒否したとしても、自分の思い通りに戦わせることが出来る。
コネクとは、それほどまでにつながりを強くし、戦闘に特化したシステムなのだ。
ちなみにこのコネクには、もっと大きなメリットがある。
それは、コネクした従魔の復活である。
その魔物によって期間の長さは異なるのだが、もしコネクした従魔が死んで消えてしまっても、一定期間後にまた呼び出すことができるというシステムのことだ。
コネクした時点で、野生としての魔物はすでに形を変え、人間の意思で召喚、収納が可能になる。人間の指令には100パーセント逆らえない。
コネクした魔物は、もはや生き物では無いとまで言っていい。言わば、霊的な存在なのである。
とはいえ人間にとってそれはメリットでしか無い。必要な時だけ召喚すればいいので、どんなに大きな魔物とコネクしようと、日常生活の邪魔にならない。霊的な存在となっているため、コネクした魔物には食べ物を与える必要が無い。
しかし、やはり最大のメリットは、従魔が死んでも生き返ることだろう。
三回しかコネク出来ないその三体の魔物は、一生ずっと自分の味方でいてくれるということなのだから。