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『図鑑くん』

と呼ばれるようになってから、2ヶ月が経過しようとしていた。

決して、愛着を込めたアダ名ではない。俺のことをバカにし、蔑んだ呼び名だ。



〜2ヶ月前〜


「いよいよだね!レイ!」

明るい声で話しかけて来たのは、幼馴染の鈴木 美代 である。

俺の本名は北川 玲司。美代は、玲司を短くして、レイと呼んでくる。


「ああ、そうだな。」

俺はなんの変哲も無い返事を返す。


「レイっていつもそう!もっとワクワクとかしないの?」


そう言って顔を覗き込んでくる美代を、何か言葉を返すわけでもなく見つめ返す。


大きな瞳。長い睫毛。化粧もしていないのに白くて艶のある肌。この学園1のアイドルと噂されるのも納得がいく。


「ねぇ、レイってば!聞いてるの?」


美代が親しく接してくれるのは、正直言って、嬉しい。しかしながら、そのせいでたくさんのしがらみを背負わされてきたこともまた、真実である。


具体的な原因は、男子の嫉妬や、男子の嫉妬や、男子の嫉妬など、様々である。

まあ、俺は細かいことは気にしない性格なので、心にダメージを負うこともなく、これまで学園生活を送ることが出来ている。


「はいはい、聞いてるよ。

どんなスキルが手に入るか、楽しみだな。」


そう、今日という日は、人生を左右する最初のイベント、『スキル制定の儀』が行われる日なのである。


この世界では、誰もが学園に通うことが義務付けられている。


その期間は、5歳から22歳まで。

5歳から12歳が初等部。

13歳から18歳が中等部。

19歳から22歳が高等部。


ざっくりとこの三つの期間にわかれている。

現在俺たちは16歳。


人生の大イベントは、16歳の時と、18歳の時。この二回だ。それぞれ、

『スキル制定の儀』

『ファーストコネク』

と呼ばれている。


スキル制定の儀とは、ひとりひとりに、その人の性格に合ったスキルが自動的に付与される儀式のことである。



今まさに、その儀が行われている最中だ。ひとりひとり、祭壇の前に呼ばれて、緊張した面持ちで水晶玉の前に立つ。


手をかざし、スキルが付与される。

手にしたスキルは全生徒が見えるように大きな画面上に表示される。


ごく稀に、スキルを二つや三つ同時に獲得する生徒がいて、その度に生徒たちは盛り上がる。


幼馴染の美代は、スキルを同時に三つも獲得したことで、もともと可愛いことでも人気だったそれが、この儀式でさらに高まったようだ。


ちなみに、俺が手にしたスキルは、『図鑑』。


はっきりと言おう。全てのスキルの中で、最もハズレと言われているスキルだ。


この世界には、人間以外にも数多くの生き物が存在する。特に、『魔物』と呼ばれている生き物について説明しよう。


魔物の種類はそれこそ数えられないくらい存在している。それらは『族』ごとに分類されているのだが、その分類だけでも山ほどある。竜族、天使族、悪魔族、水族、炎族、植物族、雷族、、、etc。


俺たち人間は、これらの中から好きな魔物を選び、自分の従魔として従わせる。


それが、18歳の時に行われる、『ファーストコネク』である。


自分のスキルを駆使し、魔物と戦い、そして魔物が弱ったところで『コネク』を行う。


これは、簡単に言えば魔物と自分の魂を接続し、自分の従魔とするためのものだ。


人はこの『コネク』という行為を、人生で3回までしか行うことが出来ない。

ファーストコネク、セカンドコネク、サードコネク、の3回である。


その中でも最初のコネク、つまりファーストコネクは最も重要である。


なぜなら、ファーストコネクによって自分の従魔とした魔物は、本来の力の400%を発揮出来るようになるのだ。つまり、野生の魔物よりも、ファーストコネクで従魔にした魔物の方が4倍強いということになる。そしてセカンドコネクで従魔とした魔物が発揮できるのは半分の200パーセント、サードコネクにおいては、さらに半分の100パーセントになる。


つまり、もし仮に全く同じ種類の従魔を三体従えているとしたら、多少の個体差はあるとはいえ、ファーストとサードではファーストの方が4倍も強い従魔ということである。


コネクの凄まじさ、コネクの順序の大切さについて理解してもらえただろうか。



さて、前置きはここまでとしよう。


では本題。なぜ、俺の『図鑑』というスキルがハズレなのか。答えは簡単である。

戦闘時にほとんど役に立たないからだ。


この世界には、先ほども述べたように、魔物が溢れている。


そのため、全ての人類は、いつでもどこでも戦えるような心構えが必要になる。


そんな世界で重要視されているのは一体何か。金か、知性か。いや、違う。

武力、戦力、すなわち己の強さである。


だから当然、いい魔物を従えていれば、それはステータスになる。従魔の三体の強さによって社会からの目は大きく変わるのだ。


現に、大きな権力を持っている人は大抵強い従魔を連れているし、人々から蔑まれている人たちは、ろくに戦闘力のない貧弱な従魔を連れている。


いいスキルを手に入れれば、強い魔物と戦える。強い魔物をファーストコネクで従魔にすれば、弱い魔物しかコネク出来ない人と比べて、圧倒的に強くなる。


それだけではない。ファーストコネクで手に入れた魔物(略してファースト)を使って戦えば、当然セカンドコネクで手に入れることのできる魔物の幅が広がる。うまくいけば、サードコネクでは、最強の種族と呼ばれている竜族を従魔にすることだって夢じゃない。



つまり、これから従えることになる従魔の質を大きく左右するであろう、『スキル制定の儀』は、全ての人にとって人生の大イベントなのである。



その大イベントで、なんとも悪い結果になってしまった俺は、ヒエラルキーの最底辺にまでなっていた。


今まで美代と仲良くしてきたこともあって、男子たちから、『ざまあみろ』といわんばかりの目線を何度向けられたことだろう。


俺が近付けば、美代にも迷惑がかかる。今後はひとりで生きていくしかない。


俺は意外と冷静なその頭で、そう決断を下した。


しかし、いかに冷静とは言え、俺は人生を諦めたわけではない。むしろ逆だった。俺は本当は無類の負けず嫌いなのだ。


バカにしてきた奴ら、そいつらよりも圧倒的に強くなってみせる。


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