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親子は野盗に襲われた。
剣の腕前は大したことはなかったが、数が多すぎた。
最初の二人は何とか信虎が斬り捨てた。
残る六人の野盗に囲まれた親子は代わる代わる斬りつけられる。
夜半の山道ゆえ、誰も通らない。
助けは期待できなかった。
親子が殺されるのは時間の問題だった。
覚悟を決めた信虎が強引に活路を開こうと考えたとき。
一人の野盗が、ばたりと倒れた。
野盗のすぐそばに、ゆらりと立つ影があった。
他の野盗たちは慌てた。
影は猿のごとき素早さで次々と野盗たちに襲いかかった。
親子の目前で、あっという間に全ての野盗が倒された。
皆、喉を斬られている。
始末を終えた影が二人に近づいた。
ひと月前、親子が洞窟で助けた老人であった。
老人は幻斎と名乗り、命を救われたことへの礼を述べた。
己の素性は一切語らなかったが、野盗を倒した手際からして幻斎が手練れの忍びであることは明白だった。
「これよりは信虎様のために生きたいと存じます」




