9/180
9
(おのれっ)
同時に激しい怒りが爆発した。
美しい瞳が見開かれ、のしかかってくる伝兵衛をにらみつけた。
弱々しい細腕では伝兵衛をはねのけることはかなわぬ。
それでも精一杯、暴れた。
伝兵衛は柚子の抵抗も楽しんでいる。
なぶり尽くしてから殺すつもりだ。
後方に居る三人の侍は全員、主人の行為を黙って見ている。
もう慣れっこであった。
頭巾の男も微動だにしない。
柚子を助ける者は誰も居ない。
(おのれ、おのれっ)
柚子は悔しさに泣いた。
血の涙であった。
(呪ってやる! 伝兵衛もこの場に居る者も全員呪い殺してやる! 信虎にくみした者たち、父母、武丸を殺した者を全て!)
どす黒い増悪が柚子の頭の中を渦巻いた。
突風が吹いた。
生暖かい風が、その場の全員の目を閉じさせた。
季節は春の初めであったが、この風は春風とは違う。
風そのものに粘着性があるかのように、ねっとりとまとわりつくのだ。
風はすぐに止んだ。
皆が目を開けた。
「!!」
そして、驚愕した。