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骸は再び怯え、大きな身体を出来る限り小さくして平伏するのだった。
信竜への複雑な想いに答えが出ないまま、柚子は水浴びを終えた。
着物のある川岸へと戻ろうとすると、いつの間にか冥の姿があった。
じっと柚子の裸身を見つめている。
柚子は姫育ちゆえに何人かの下女に自らの身体を洗わせることが当たり前であったから、たかだか一人の童女に裸身をさらすのは平気なはずだった。
が、あまりにも冥がまじまじと見つめてくるものだから急に恥ずかしくなり、己の胸と秘部を隠しつつ川岸へと進んだ。
「待ちな」
川をあがった柚子が慌てて着物を手に取ろうとすると冥が声をかけた。
柚子が動きを止める。
星明かりの下では分かりづらいが、柚子の顔は恥ずかしさに紅潮していた。
冥が柚子に何かを差し出した。
新しい着物であった。
「これを着な」
着物は庶民が着る地味な柄ではあったが、どうやら新品のようだった。
これは以前にも一、二度あった。




