87/180
87
「あたしはお前に意地悪してるわけじゃない。逆だよ」
冥の口調は優しかった。
「お前の望みが果たせなくなってもいいのかい?」
「うー」
骸が、うなった。
「そうだろう。あたしは別にどっちだっていいんだよ。お前はもう、あたしの物なんだから」
冥の細い指が骸の頭から顎へと動き、顔をくいっと上に向かせた。
冥の顔が骸の鼻先まで近づく。
「ただ、中途半端に終わったらお前がかわいそうだと思って、こうして協力してやってるんじゃないか」
「………」
「分かったらこれ以上、あの娘と馴れ馴れしくするんじゃないよ。自分の立場を良く考えな」
「………」
無言の骸の頬を突然、ひるがえった冥の手のひらがぴしゃりと打った。
「うがっ」
骸が面食らって、頬を両手で押さえる。
敵に対してはあれほどの不死身ぶりを見せる骸が、冥の攻撃には痛みを感じているのだ。
「これで最後にしな。さもないと」
冥の顔に何とも言えぬ恐ろしい笑みが浮かんだ。




