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首をすくめる姿は怒られている子犬のようだ。
「あ?」
冥が目を剥いた。
語調が更に強まる。
「聴こえないのかい? あたしは、お前がどういうつもりかって訊いてるんだよ!」
冥から発した怒気が膨れあがり、あばら家を吹き飛ばさんばかりとなった。
骸が頭を抱え這いつくばる。
がたがたと震えだす。
冥の気迫に押さえつけられ身体の自由がきかない。
「お前はあたしと約束した」
うずくまる骸に冥が続けた。
「ただの約束じゃない、契約だよ!!」
「うう…」
骸が小さくうめいた。
「契約を破れば、お前は終わりだ。それでいいのかい?」
「ううーっ」
骸が首を横に振る。
必死に許しを乞い、頭を床に擦りつける。
冥の怒気がゆっくりと収まっていった。
骸の呪縛が解ける。
「分かればいいんだよ」
冥が静かに言った。
骸に近寄ると青白く小さな手を伸ばした。
骸は、びくりとなった。
冥の手は伏せた骸の頭へと向かい。
優しく撫でた。
親が子供にするように。




