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だが柚子は骸に不思議な、いとおしさを感じている。
骸の太い腕が柚子に応え、その細い身体をそっと抱き締めようとした。
「目が覚めたかい」
冥の声に柚子と骸は、はっとなった。
いつから、そこに居たのか?
あばら家の入口に冥が立っていた。
二人をじっと見ている。
異様な威圧感が陽炎のように、冥の小さな身体から立ち上っていた。
骸が、さっと柚子から離れ、家の隅に縮こまった。
二人が離れると冥の気迫は、すっと消えた。
冥が柚子のそばにやって来る。
骸との抱擁を邪魔され、柚子は何やら複雑な思いだった。
やや憮然とした表情になっている。
「何て顔だよ」
冥が言った。
「お前を助けて、信虎の手下を片付けたっていうのにさ」
冥の言葉に柚子は思い出した。
大虫の武器によって冥の首がはねられたのを。
冥が死んだと思い柚子は気を失ったのだ。
しかし、骸と同様、柚子の前に立つ冥は前と何ら変わらない。
骸が生きていたことに安心した柚子だが、冥のそれには何故か漠然と寒気のようなものを覚えた。
味方である冥に恐怖を感じた。
「次はいよいよ信虎に近いところを攻めるよ。お前の願いが叶うのも、もうすぐさ」
必死に怯えを悟られまいとする柚子の肩に冥が触れた。
「おや?」
柚子の顔を覗き込む。




