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冥伝  作者: もんじろう
8/180

8

「よろしいかな?」


 伝兵衛の口調にはひとつの緊張も感じられない。


 武丸は八相(はっそう)に構えた。


 腰が引けていて、まるでなっていない。


「では」


 伝兵衛が言った、次の瞬間。


 武丸の胸から鮮血がほとばしった。


 伝兵衛の刀が武丸に動く隙を与えず斬りつけたのだ。


「あ」


 一声発して、武丸が倒れた。


 ピクリとも動かなくなる。


 武丸を殺害した伝兵衛の動きは、そこで止まらなかった。


 太った身体に似合わない疾風の速さで柚子に襲いかかった。


 あっという間に柚子の脇差しを奪い、組み伏せた。


「武丸っ」


 地面に押さえつけられながら、柚子は必死に弟の名を呼んだ。


 武丸は答えない。


 もう死んでいた。


 柚子の美しい顔に脂ぎった伝兵衛の顔が近づいた。


 生臭い息が柚子の顔にかかる。


「姫様。このまま死なせるにはあまりに不憫。せめて最後にわしが歓びを教えて進ぜよう」


 伝兵衛が言った。


 醜い笑いが顔に貼り付いている。


 弟の死に打ちのめされた柚子の背筋に恐怖が走った。

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