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これには忍びたちも言葉を失った。
このまま押されては、骸の身体と自分たちが接触してしまう。
すでに異常な生命力を見せている骸に対してこれ以上、どう攻撃すれば良いのか?
忍びたちが万策尽きた、そのとき。
「お前ら、どけっ!!」
忍びたちの背後から自雷矢の大声が聞こえた。
骸の怒号ほどではないが、堂々たる体躯の自雷矢に見合った大声である。
忍びたちは一瞬、迷った。
普段の彼らならば何も考えず自雷矢の命に従い、その場を飛び退いただろう。
しかし、骸の尋常ではないしぶとさに海千山千の忍びたちは思った以上に混乱していた。
敵の急所に刺さった刀を手放すのに抵抗を感じた。
その分だけ、忍びたちの逃げる動作が遅れる。
轟音が空気を震わせた。
仲間が逃げるのを待たず、自雷矢が二挺めの大鉄砲を発射したのだ。
弾丸は忍びたちの身体をなぎ払い、骸の胸を直撃した。
弾丸が骸の腹から上を全て吹き飛ばす。
自らの射撃の余波を避けるため、自雷矢は即座に荷車の後方へと跳んだ。
荷車の下へと潜り込む。
ばらばらになった骸の肉片が荷車に降り注ぎ、どたどたと音をたてた。
自雷矢は、しばらく伏せていた。
静寂が訪れた。
自雷矢は眼を細めた。
荷車の下から見えるのは上半身を失い、その場に立ち続ける骸の二本の脚だ。




