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いつの間に大虫の背後に移ったのか?
いや、そもそも、首の無い身体だけが動いていることが面妖であった。
恐怖と苦痛に悶絶する大虫に冥の声が聞こえてきた。
「手足は偽物じゃないんだねぇ」
骸は吼えた。
人ならざる者の怒りの咆哮だ。
辺りに血走った眼を巡らせ、自分の左腕を破壊した相手が荷車の上に陣取っているのを見つけた。
骸の巨体が前進した。
構えも何もない。
幼い子供が喧嘩するときのように三肢をばたつかせながら、自雷矢に突進していく。
自雷矢は次の大鉄砲に手をかけたところだった。
まだ、弾を射てる体勢ではない。
骸が自雷矢に迫る。
が、自雷矢と骸の間には他の荷車から現れた九人の忍びが居た。
柚子の後を追った大虫以外の全員が、ここに残っていた。
最初に骸と対峙していた侍たちはすでに戦意を失い、脇にへたり込んでいる。
九鬼慎之助の死を知り、逃げだした者さえ居た。
九人の忍びは刀を抜き密集した。




