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それを知っていて、自らの手で武丸を殺すつもりなのだ。
伝兵衛はそういう男だった。
武丸は唇を噛み締めた。
伝兵衛は自分を殺した後、姉をどうするだろうか?
恐ろしい想像が浮かんだ。
(敵わぬまでも一太刀…)
武丸は悲壮な覚悟を決めた。
伝兵衛が正眼に構えた。
顔は半笑いだ。
完全に武丸を侮っている。
「武丸」
伝兵衛への怒りで頭がいっぱいになっていた柚子が、我に返って弟の名を呼んだ。
伝兵衛と立ち合えば確実に武丸は死ぬ。
いや、もし万にひとつ武丸が勝ったとしても、残りの四人の男たちに勝てる見込みは皆無。
姉弟の運命はすでに決まっていた。
「姉様、武丸がお守りします」
震える武丸の言葉に柚子の瞳から大粒の涙が止めどなくあふれ出た。
「武丸、それを」
柚子は武丸の脇差しに指をかけた。
武丸が死んだら、すぐさま後を追うためである。
武丸は無言で脇差しを姉に渡した。
その様子を伝兵衛が嘲笑っている。