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答えぬ冥の様子を柚子が心配する。
冥は、やはり黙っている。
黙って自分たちの来た方向を見ていた。
何かを探るような目つき。
柚子には何の異常も感じられない。
「冥?」
もう一度、柚子が訊いた。
その刹那。
闇夜の中を一条の光が走った。
光は一直線に進み、冥の首を通った。
冥の首が、ことりと地に落ちた。
続いて冥の身体が倒れる。
動かなくなった。
「冥っ!?」
三度目に呼んだ声は、ほとんど絶叫であった。
錯乱しかかった柚子は思わず落ちた冥の頭を拾い上げた。
ついさっきまで話をしていた冥が、今はもの言わぬ生首と化している。
大きな眼を見開いたままぴくりとも動かない冥を見て、柚子は気を失った。
武丸が死んだときも伝兵衛に犯されそうになったときも気を失わなかった柚子が、今回ばかりは限度を越えたか。
何者かは分からない冥と骸に徐々に依存を深くしていた柚子にとって、その片方を失うことは相当な痛手であったか。
柚子は冥の首なしの身体の上に倒れ込み、こちらも動かなくなった。
「くきき」
甲高い笑い声がした。
後方の草むらから姿を現した忍び装束の男が、ゆっくりと柚子と冥に近づいてくる。
大虫である。
冥の首を落としたのは彼の鋼糸であった。
柚子に戦う力は無い。
ゆえに大虫は先に冥を狙った。
(やったぜ)




