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忍びが傷の男に言った。
声をかけた忍びの顔は黒い頭巾に覆われ、隠れている。
胸の厚さが異常で、こぶのようにせり出していた。
声は甲高く耳に障る。
大虫であった。
自雷矢と呼ばれた傷の男が大虫をちらりと見た。
「何だ?」
「俺は柚子を始末する。怪物は任せるぜ」
大虫が言った。
自雷矢は左腕を吹き飛ばされ、怒り心頭に達している骸に視線を走らせた。
「ああ、好きにしろ」
自雷矢の承諾で大虫は走りだした。
大虫の眼には迷った末に冥に手を引かれ草むらへと姿を消す、柚子が映っていたのだ。
大虫は柚子と冥の後を追い、草むらに入った。
残された自雷矢の周りへと荷車から現れた忍びたちが集まってきた。
「さあ、始めるか」
そう言うと、自雷矢は荷車の上から二挺めの大鉄砲を取り出した。
柚子の手を引き、冥は木立の間を走った。
とても童女の足取りとは思えぬ速さだ。
それに対して柚子は育ちもあってか、すぐに足元がふらつき何度もつまずきそうになる。
その度に冥も足を緩めなければならない。
「ま、待って、冥」
柚子が青息吐息で頼んだ。
「はあ」
冥が呆れて、ため息をついた。
冥の足が突然、止まった。
勢いが止まらぬ柚子は冥にぶつかり、倒れそうになった。
柚子がその場にへたり込む。
「冥?」




