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柚子の横にうずくまって居た骸の大きな身体が、のっそりと立ち上がった。
九鬼慎之助の眼前で恐ろしい光景が繰り広げられた。
慎之助の命に従った侍たちが突如現れた怪物のような大男に、斬りかかってはひねり殺され、斬りかかっては殴り殺されていくのだ。
侍たちの刀は確かに怪物に届いている。
にもかかわらず、怪物はまるで痛みを感じていないようだ。
悪夢だった。
あっという間に十人の侍が殺された。
残りの侍たちの足が止まる。
恐れだ。
確実な死へ飛び込める者は、そうは居ない。
圧倒的な多勢でありながら、侍たちは震えた。
青ざめた顔で奇怪な大男を見つめるのみで、かかっていこうとはしない。
侍たちを叱咤するべき立場の慎之助自身が呆然となっていた。
剣術に自信のある慎之助は、並みの相手ならば臆することはない。
しかし、この大男は。
(化け物ではないか…)
その場の全ての侍たちが戦意を失っていた。
「あははははっ!」




