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慎之助は手柄をたて出世する未来に思いを馳せた。
他の者たちが次々と荷を奪われている今こそ役目を無事にこなし、信虎の覚えを少しでも良くしておきたい。
「急げ! 急がぬか!」
二十歳を越えたばかりの慎之助に尻を叩かれ、年上の侍たちは顔をしかめた。
とはいえ、非凡な剣術の腕前でもって、今回の役目の全てを信虎から任された慎之助に逆らうわけにもいかない。
黙々と足を進めた。
先頭の荷車が丁度、山の中腹に着いたところで何人かの侍が異変に気づいた。
前方の道を塞ぐ者が居る。
恐ろしく大きな人影だ。
その大きさに先頭の侍たちは思わず怯んだ。
松明を突き出し、立ち塞がる者の正体を見極めようとするが腰が引けている。
「何者だ!」
侍たちが口々に言葉を投げた。
影は答えないし、動かない。
侍たちが怯えるのを見て、荷車の運び手たちの足も当然、止まった。
荷車も止まった。
隊の前進が止まったことに気づいた慎之助が、疾風の如く先頭に駆けつける。




